軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖女リーナからのお願い

翌日、エステルだけがリーナの部屋に呼ばれた。

ターコイズブルーの扉を開けた先では、リーナがテーブルセットに座ってお茶を飲んで待っている。あまりにも自然だったので、エステルは慌ててしまう。

「リーナ様⁉︎ 起きていて平気なのですか⁉︎」

驚いたエステルに、リーナはふわふわの耳をぴんと伸ばして澄まし顔で応じた。

「大丈夫よ。もともと体が弱いわけじゃないし」

「それはよかったですが……よろしければまた私がミルクティーを淹れます。きっと回復が早まることでしょう」

「……ふぅん。今日、起き上がれるようになったのはやっぱり昨日あなたが淹れてくれたミルクティーのおかげね。伝説の聖女様の子孫で、闇属性魔力の持ち主ってどんなものかと思ったけれど、悪くなさそうね」

そうして、上品な所作でケーキスタンドからエステル用にケーキやサンドイッチを取り分けてくれた。

キャロットケーキに、イチゴのタルト、アップルパイにブロッコリーのポタージュなど、小ぶりのお菓子がたくさん並んでいて目にも楽しい。

(どれもおいしそうだわ)

フリード国で好んで食べられる氷菓子のグラニテはひとつだけ。ほかは全部オリオール王国で人気のお菓子ばかりで、エステルを呼ぶために準備してくれたのが一目でわかった。

リーナはかわいい見た目に反して、物言いがなかなかきつい。けれど、慣れてしまえば不器用なだけなのだとも思う。

(リーナ様が早く元気になりますように)

ティーポットとともに小鍋とコンロが準備されていたので、エステルはミルクティーを淹れる準備を始めた。昨日も思ったことだが、あまりにも道具が揃っていることに驚いてしまう。

「ティーセットとともに小鍋やコンロが準備されるのはオリオール王国だけの文化だと思っていました」

「フリード国は寒いから、その場で熱々のお茶を淹れて飲みたいのよね。茶器はもちろんのこと、お茶を淹れてくれるメイドまでセットで準備するのが普通よ」

「今日は私がいるので問題ないですね」

「まぁ、そうね」

小鍋とコンロが置いてあるのに、そのメイドの姿は見当たらない。おまけに、いつもリーナに付き添っている二人のうさぎ獣人の姿もなかった。

(もしかして、リーナ様は人払いをされているのかしら。私に何か相談がある……?)

そんなことを考えながら、水さしから小鍋に水を注いで沸騰させる。そこへティースプーン二杯の紅茶の葉を入れてぐつぐつと煮出してから、ミルクを入れた。

そうして、シャルリエ伯爵家の厨房に伝わる秘密の歌を口ずさんだ。魔力もしっかり注げばより効果の高いミルクティーになる。

仕上げにシナモンなどのスパイスが入った小瓶を手にとったところで、リーナの鼻がひくひくと動いたのが見えた。

「……スパイス入りの紅茶はお好きですか?」

問いかけると、リーナは何も言わずにこくりと頷いた。

「わかりました。スパイスとお砂糖を少し多めに入れましょうね」

出来上がったミルクティーを濾してカップに入れると、闇魔法が強力な効果を発揮する特別な飲み物の完成だった。

(うん。上手くできた気がするわ。他国の聖女様に飲んでいただいてもきっと大丈夫)

丸いテーブルに二人で向かい合って座り、それぞれの前にミルクティーが入ったカップを置く。ゆっくりとした動作でカップを口に運んだリーナは、一口飲んでラベンダー色の耳を跳ねさせ、微笑む。

「おいしいわ。きのうのは冷めていたけれど、出来立ては最高ね」

「ありがとうございます」

聖女の部屋はとても広い。その空間に、エステルとリーナがお茶を飲み、お菓子を食べる音だけが響いている。

まさか、本当にお菓子を食べるためだけに呼ばれたわけではないですよね? と不安になりかけたところで、リーナは本題を切り出してきた。

「今、ルシアン殿下は何をしていらっしゃるの?」

「お部屋でお休みになっているかと。オリオール王国宛に状況報告のお手紙を送ったり、いろいろとお忙しいようですから」

「……そう。実はね、一つあなたにお願いがあるの」

「私にできることでしたら」

エステルが快く微笑めば、リーナは躊躇したように唇を噛んだ。それから、意を決したようにして告げてくる。

「――あなたの婚約者のルシアン殿下を貸していただけないかしら?」

想定外すぎるお願いに、エステルは目を瞬く。

「……貸すとはどのようなことでしょうか?」

(二週間後にあるというスレヴィの誕生日パーティーで、エスコートやダンスの相手としてルシアン様を借りたいということかしら? または、フリード国の政治に関わることで何か知恵を貸してほしい? もしかして、闇魔法関係で助けがほしいのかしら)

一瞬でエステルの脳内をいろいろな考えが駆け巡ったが、どれもリーナの希望とは違うようだった。

リーナはさっきまでの勝気な態度が嘘のようにしおらしく座り直してから、言った。

「ルシアン殿下は私の意中の人だ、という噂を流させてほしいの……」