軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

かつて存在した名高い聖女たちによって支えられ、繁栄するオリオール王国。

その王国の第二王子、ルシアン・クラルティは今日も残念な呪いに冒されていた。

「……エステルがかわいすぎる……」

「目が覚めていきなりそれかよ。お前、一体どんな夢を見たんだ? ……んにゃ、やっぱ聞くのやめとくわ、目覚めのミルクが不味くなりそうだもんな」

朝目覚めてすぐ、ベッドの上で顔を両手で覆っていたルシアンは、使い魔の黒猫・クロードを睨む。どうやら、クロードも出窓のクッションの上で目覚めたばかりのようだ。

普段、エステルのカフェに泊まり込んで彼女を守っているはずなのに、なぜ今日はここにいるのか。

寝起きで、夢の中のかわいい婚約者のことしか思い出せないルシアンはめちゃくちゃな理論を突きつける。

「どうしてお前がここにいるんだ? エステルのカフェの護衛として泊まり込んでるはずだろう? いくら使い魔でもエステルの寝顔を見るなんて許せないな」

「王子様前半と後半で言ってることが矛盾してる! 大体、昨日ルシアンがあのカフェにとんでもない結界張ったんじゃん! だから闇聖女が今夜は護衛はいらないから王城に帰れって! うわっどっちにしても怒られるオレ⁉︎ パワハラ! 理不尽!」

ぎゃんぎゃん騒いでいる自分の使い魔がうるさすぎる。

「こんな騒ぎ声を聞いている時間があるのなら、エステルに会いにいくか……」

頭を抱えつつ冗談でつぶやいたら、ちょっと本気になってしまった。今から会いに行ったら、執務が始まる時間までに戻ってこられるだろうか。

…………。

「よし行くか」

侍従がやってくるのを待たずに、ルシアンは着替えを始めた。

こ(・) の(・) 体(・) になってからというもの、朝目覚めてから執務が始まる時間までに王城を抜け出して婚約者の顔を見に行ったことは一度や二度ではない。ある意味日常だ。問題ないだろう。

一通り騒ぎ終えたクロードが呆れたようにルシアンを見ている。

「王子様ほんとすげーよな。尊敬しちゃう」

「死に戻って助け、やっと手に入れたエステルだ。片時も離れたくない」

「呪い返しも絶好調だにゃ」

ルシアンのこの人生は二度目だ。厳密にいうと、一年ほど前に一度だけ死に戻っている。

同様に、ルシアンが心から愛する婚約者エステルも同じタイミングで死に戻った。

一年ほど前、エステルは実家を乗っ取ろうとした義妹が差し向けた賊によって殺されてしまった。

それを知ったルシアンは禁呪とされる『死に戻りの闇魔法』を使い、エステルが死ぬ一年前まで時を戻した。結果、未来は変わりエステルは殺されることなく幸せに暮らしているが、ルシアンの体には禁呪の代償が残ってしまったのだった。

一体、それがどんな代償なのかというと。

「……エステルへの気持ちに関することで、本音が漏れ出てしまう呪いなんてどうってことない。初めは本人の前でも抑えきれないのがいたたまれなかったが、今では問題ない」

「さっきまで見てた夢のこともそのまま言えんのか?」

「エステルにうさぎの耳が生えた夢のことか? エステルがもし獣人族だったら、間違いなくうさぎだろうなと思いながら眠ったせいで見た夢だったが……。とんでもなくかわいかったな」

「オレの予想よりずっとメルヘンで清らかな夢だったにゃ!」

こんなふうに、現在ルシアンは、禁呪の代償として『エステルに関して本音が抑えきれない』というひどい呪いにかかってしまっている。

伝説級の禁呪に払う代償がこんなふざけた呪いであることは信じられないが、この呪いのおかげでルシアンはエステルに正直に自分の気持ちを伝えられるようになった。だから、悪いことではないとも思っている。

「俺はこの毎日に満足している。これ以上の変化は望まない」

「んー? 意味深だにゃ? ルシアン、実は呪い返しを解く方法に心当たりがあるんじゃないのか? 闇魔法といえば、お前が少年だった頃に留学してたあの国の得意分野じゃにゃいのか? オレは行ったことないけど」

「……そんなもの、知らないな」

正直、心当たりはなくはない。

けれど、呪い返しを解くことで何が起きるのかにも心当たりがある。

(――今の俺には、エステルと過ごせる毎日があることが何より幸せなんだ)