作品タイトル不明
22.お届け
執務室のドアを二回ノックすると、中から「誰だ」とユリウスの声が聞こえた。
「フレイです。お疲れだと思いますので、温かい飲み物をお持ちいたしました」
『…………』
返事はなかった。その代わり、紙同士が忙しなく擦れ合う音が微かに聞こえた。
まるで書類を急いで整理している時のような……
『……入って来てくれ』
音が止んだと同時に、入室の許可を貰えた。
「失礼します」とドアを開けると、乱雑に纏まった書類の束を机でトントンと整えているユリウスの姿があった。
「君が私の部屋に来るなんて珍しいな……」
「申し訳ありません、すぐに退室しますので……」
「いや、違う。怒っているわけじゃない。それと飲み物は、そこのテーブルに置いてくれないか?」
ユリウスがやや早口で言いながら、執務机とは別のテーブルへ眼差しを向ける。休憩用なのだろう。クッション付きのソファーが置かれていた。
言われた通りマグカップをテーブルに置いて部屋から出て行こうとする。
「ん? ちょっと待て」
訝しげな様子のユリウスに呼び止められてしまった。
自分でも気づかないうちに、何か粗相をしてしまっただろうか。
内心冷や汗を掻いていると、ユリウスがテーブルを指差した。
「何故マグカップが二個……?」
その疑問はご尤もだろう。私は甘い湯気を 燻(くゆ) らせるマグカップ×2を見詰めながら理由を語った。
「片方は私……というよりアニスの分です。料理長たちに持って行くように言われてしまいまして。よかったら二人分召し上がってください」
「……君の分は君が飲んでも構わないぞ」
「今の私はフレイですので。それにさっき一杯飲んでいますし」
「だったら……そうだな。これは命令だ。一緒に飲みながら、私の話し相手をしてくれ」
ユリウスはソファーに腰を下ろすと、微かに微笑みながら私を見上げた。
命令なのに「してくれ」って。それじゃあ、ただのお願いなんじゃないかな……