軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

踊る会議、巡る思惑、あとゾンビ

いい加減逃げててもアレなので観念した俺。とりあえずエイドルトに戻った後、ビィラックとアラミースはラビッツへと転移していったが、何故かエムルだけは残っていてくれと言われた。

「荒ぶるアニマリアちゃんを止めるならエムルちゃんいないと多分ハザードになるよ」

「そんなゾンビ映画じゃあるまいし……何故遠い目をして黙り込むオイカッツォ」

そんなにか、そんなにやばいことになってるのかあの人!?

「もうメール送っちゃったし、そのうち来ると思うけど……」

嫌だなぁ、帰りたいなぁと待ち合わせ場所としてペンシルゴンが指定したNPCカフェで愚痴っていること十分程。

薄味のケーキに渋面を浮かべるオイカッツォの姿に少しだけ愉快な気分になっている最中に感じたただならぬ気配。振り返ればそこには電脳のアバターでありながら、ゾンビの如くこちらへとゆらゆら近づいて来る女性プレイヤーの姿が。

「レッツゴースケープゴート」

「くたばれノーユニーク野郎………は、ははは、サードレマぶりですかね?」

ゆらりゆらりとこちらへと近づいて来る……うわぁぁなんか後ろに似たような状態のプレイヤーが一杯いるぅぅぅ!?

怖い、なんだあれゾンビウィルスでも実装されたの? 状態異常「ゾンビハザード」とかなのか?

Animalia(アニマリア) 氏の目は真っ直ぐ俺を……いや違う、本能的危険を察知したのか俺の首でマフラーのフリをしているエムルただ一点に注がれている。

「エムル、ヴォーパル魂の見せ所だぞ」

「ここで飛び出すことはヴォーパル魂じゃなくて愉快な自殺ですわ……!」

ついに俺の前へと立ったアニマリア氏。スゴイなー、このゲーム目の血走りすらも再現するんだなーははは、ショットガンどこ?

『Animaliaさんからフレンド申請が来ました。

「とりあえずスクショと握手からお願いします」』

スッ(そっとエムルを差し出す)

バッ(エムルが絶望の眼差しでこちらを見る)

「すまんエムル、顧客が求めているのは俺じゃないって言うか」

「あぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!?」

アニマリア氏がエムルを抱き上げた瞬間、後ろに控えていたプレイヤー達が一斉にアニマリアとエムルに群がる。

動物大好きクランらしいし酷いことはされないはずだ……多分。

「新鮮なお肉に群がるゾンビ的な……」

「しっ、カッツォ君世の中には心の中に秘めておいたほうがいい言葉もあるんだよ!」

その台詞を言葉にしてる時点で心中フルオープンじゃね? と思っていると、続々とプレイヤー達が集まって来る。

「随分と急な呼び出しだなペンシルゴン」

「やっほモモちゃん、相変わらず詐称が激しいね」

「やかましいわよ!」

まるで一歩歩くごとに地面が揺れているとさえ錯覚してしまう巨躯のアバターに、あの時の邪悪さをカケラも感じさせない神々しい鎧を纏ったプレイヤー……サイガ-0。

そしてその隣にはロングコートに要所を守るアーマー、ペンシルゴンが持っていた「聖槍カレドヴルッフ」によく似たデザインの剣を腰に吊るし、赤毛をストレートな長髪にした女性プレイヤー。

どうやらペンシルゴンとは知り合いらしく、交わす会話は他人同士のものではないだろう。

こちらに会釈をしてきたサイガ-0氏に会釈を返しつつ、俺の中の帰りたいメーターが急上昇していくのを感じる。

「……ど、どうも」

「あー、どうも」

この人と話していると西部劇のガンマンになった気分になる。会話のクイックドロー、先手を取るか待ち構えるか……

「何を果し合いのように睨み合っているんだお前は……初めましてかな、私はクラン「黒狼」の団長、リーダーをやっているサイガ-100だ」

「これはどうも」

「君の噂は聞いている、リュカオーンを相手に「呪い」を二つも受けたプレイヤーとは是非話がしてみたかった」

お陰様で半裸生活も板についてきたけどな、おのれリュカオーン。

俺がサイガ-100氏と握手していると、何故かサイガ-0氏の方にガン見されて帰りたいメーターが限界振り切りそうだ。

「おや、私が最後だったかな?」

ひょい、と。椅子を他所のテーブルから引っ張ってきたピンクの魔法少女が俺たちのいた席につく。よっこらせ、と言いながら腰掛ける様と声は実におじさん臭いのだが、見た目は魔法少女である。なんだこの矛盾の塊。

「やぁサイガ-100君、ウチの家内は迷惑をかけていないかね?」

「…………マッシブダイナマイトさんは新大陸挑戦組です、一番はしゃいでましたよ」

会話の流れからしてキョージュのリアルの奥さんのプレイヤーネームがマッシブダイナマイトということになるんだが、プロレスラーのリングネームか何かか?

そんな俺の疑問を他所に、相変わらず彼女は心が若いなぁと呟きながら魔法少女……キョージュがこちらへと視線を向ける。

「いやはや、まさかフレンド申請したその日のうちにお呼ばれされるとは思わなかった。お陰で年甲斐もなく全力疾走してしまったよ」

「まぁハブにするのもあれかと思ったので」

嘘です、ペンシルゴンを道連れにする為に呼びました。

とはいえ、中々に凄いメンツが集まったな。最前線のクラン「黒狼」のナンバーワンと 最大火力(やべーやつ) 、全体的にやべーやつしかいないアニマリア氏と他諸々、考察クランのエセ魔法少女……うん、これただのイロモノ集団なんじゃ。

「えー、というわけでこの度はご足労いただき感謝いたします。僭越ながら最近足を洗って綺麗さっぱりPKを卒業したアーサー・ペンシルゴンがこの場の進行役をさせてもらいます。あー……そこの動物好きクランも要件があるんでしょー、人間性を取り戻してねー」

「人間性を取り戻してね、って普通に生きてたら聞かない言葉だよなぁ」

「あっ、サンラクこの野郎! 離せ!」

お前だけ逃すわけないだろーう? スケープゴートに手を噛まれることは想定してなかったってかぁ? 甘いな。

しれっとこの場を去ろうとしていたオイカッツォを捕獲していると、ペンシルゴンが俺を指差す。

「まぁ、ウチの人間ツチノコことサンラクがようやく捕獲されたので、お三方からの打診に一気に答えちゃうべく今回集まってもらいました」

「誰がツチノコだ!」

「サンラク君さ、自分が専用スレ立てられてること知ってる? 捜索班とかいるんだよ?」

「え、まじで?」

確かに極力プレイヤーに関わらないように今の今までプレイしてきたわけだが、いつの間にか俺の与り知らないところで事態は進んでいたらしい。

「まぁそれはどうでもいいとして、少なくとも「黒狼」からの打診の半分と、「SF-Zoo」からの打診はサンラク君にしか解決できないんだよね」

「…………」

俺はそっと視線をサイガ-100とアニマリアへと向ける。

サイガ-0氏とどんな関係かは知らないが、彼女は先程リュカオーンについて口にしていた。恐らくはそれ関連だろう。

そしてアニマリア氏、これに関しては上に投げたリンゴが何処に落ちるかより簡単な問題なので考えるまでもないだろう。

「お先にどうぞ、我々SF-Zooの打診は後で結構」

「良いのか?」

「少なくとも今現在非常に満ち足りているから」

先程までのゾンビ的様子は何処へやら、ツヤツヤとした様子でにこやかに黒狼に先手を譲るアニマリア氏。先程からエムルの声がしなくなったのが非常に不安なのだが大丈夫だよな?

後ろの人の塊の中でエムルがバラバラになってたとかないよな?

「では単刀直入に……我々クラン「黒狼」はユニークモンスターについての情報が欲しい。特に夜襲のリュカオーンの情報をね」

サイガ-100のストレートな要望に、俺はしばし考え込む。

「我々「黒狼」の最終目標は「夜襲のリュカオーンの討伐」……なんだが恥ずかしい話、今の今までユニークモンスターとまともに戦ったことがない。さらに言えばユニークモンスター「墓守のウェザエモン」を君達が倒した今現在でも、ユニークモンスターについては強い、以外の情報を持っていないんだ」

無論情報に対する報酬は支払うつもりだ、と言葉を締めたサイガ-100は真っ直ぐにこちらを見つめてくる。

成る程、夜襲のリュカオーンとユニークモンスターというシステムに関する情報が。確かに、夜襲のリュカオーンに関しては俺しか答えられないが、もう半分はペンシルゴンでも答えられる内容だ。

(とはいえ……)

この場において俺しか知らない隠し札がもう一枚ある。ユニークシナリオEX「 致命兎(エピック・オブ・) 叙事詩(ヴォーパルバニー) 」、ユニークモンスター「ヴァイスアッシュ」に関するユニークシナリオ。

正直に言ってこれを他プレイヤーに明かすつもりはない、だが明かさずとも利用する方法はある。情報とはその存在を匂わせるだけでもアドバンテージになる、シャングリラ・フロンティアにおける七枚のジョーカーのうち実質三枚を持つ今の俺は非常に有利な立ち位置なのだが……

「ん? 何? 私の美貌に惚れちゃった?」

「………はっ」

「千の言葉に勝る一の行動ってあるよね、ぶっ飛ばす」

問題はこいつ、ペンシルゴンだ。情報の一欠片でも手元から零せば、こいつは警察犬が如く俺の手の内を嗅ぎつけるだろう。いや、むしろもう嗅ぎつけられているかもしれない。

流石に複数のヴォーパルバニーやケット・シーとの繋がりを得るユニークシナリオがそこらにあるとも思えない、それに露骨に神代文明の技術が絡んできている以上聞かれないだけで気取られていると考えていいだろう。

「……まず最初に、ユニークモンスターはただ戦うだけでは倒すことはおそらく不可能だと思う」

ヴァイスアッシュという切り札は今は温存する、既に価値の無いウェザエモンから札を切っていくことに決めた俺は、この場にいる三勢力に情報を切り分けて提供していく。

「恐らくだがユニークモンスターには専用のシナリオが存在する。例えば俺たち「 旅狼(ヴォルフガング) 」が倒したユニークモンスター「墓守のウェザエモン」、奴に挑むためには前提条件として「ユニークシナリオEX」というものを受注しなければならなかった」

「それに関しては私の方が知識量は上だから引き継ぐよサンラク君。ユニークモンスターはEXシナリオの中核を為す特殊なモンスター、黒狼は必死こいてリュカオーンを追ってるみたいだけど多分何処かでシナリオのフラグを立てないと永遠に倒すことは出来ないと思うよ……まぁ、よくて撃退が精々かな?」

さらに言えば、あくまでもウェザエモンやヴァッシュはこの大陸でシナリオフラグを立てられた、というだけであって他のユニークモンスターも同様とは限らない。

未だ全貌の一割も明らかになっていない新大陸、そこが他のユニークモンスターのフラグ発生場所である可能性は十二分にある。

「そうだね、墓守のウェザエモンが如何なるモンスターか知りたいのなら……私が抱える借金を一番多く肩代わりしてくれた人にこの「世界の真理書〜墓守編〜」をあげちゃおうかなぁ?」

「ほんと抜け目ないねペンシルゴン……」

ごく自然な流れで二、三度読んだら最早価値のない真理書を高値で売り捌こうとしているペンシルゴンに俺とオイカッツォはため息をつく。

考察クラン(ライブラリ) の長の目がキラリと光る中、最前線を行くクラン達への弱小クランからの説明会は続く。