軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親愛なる我が黎明へ 其の二十一

全員が明確に急ぐという意識を共有して走り出せば、当然行軍速度は上がる。

とはいえ、鬼ごっこは常に追う側しか経験したことがなさそうなヤバ馬からしたら競歩にもなってなさそうだ。

パッカパッカと若干足の動く速度を上げつつも、わざとらしくあくびをする緋鹿毛楯無を半目で見つつ俺たち一行は樹海をさらに先へ先へと突き進んでいた。

幸い、というのも癪だが蛇だの毒乙女だのが来る方向は常に一方向、向かう方向に悩むことはない。

のだが、さっきからずっと気になっていることがある。

「レイ氏、どう思う?」

「……少なすぎる、ですよね?」

流石はレイ氏だ。どう思うとしか聞いてないのに同じビジョンを共有できている。

気になっていること、それは毒乙女や蛇型モンスターの出現頻度……というか、「出現することそれ自体」と言うべきか。

ゴルドゥニーネ……というよりボスドゥニーネが毒分身を生成することはすでに判明しているし、"ゴルドゥニーネ"が蛇型モンスターを使役できるのも既に判明している事だ。

つまりこれまでの襲撃は全て無尽のゴルドゥニーネによるもの、というのは疑うべくもない。

だが問題は分かりきった「誰がやってるか」ではなく、「何故この程度なのか」だ。

「もし本隊が既に接敵してるなら……なんでこっちに戦力が抜けてるのか分からない」

「最悪のケースは本隊が既に全滅している、ですが……その場合はこの程度の散発的な襲撃なのは逆に不自然です」

本隊にはゴルドゥニーネが複数体同行している。

あのボスドゥニーネのキャラを考えるならマスト抹殺対象を相手にしながら十人そこらで対処できる程度の戦力を外に向ける理由が分からない。

ではレイ氏の言う通りに本隊が既に全滅、生き残ったゴルドゥニーネはウィンプだけ……という最悪のケースを考えた場合。

まさか無抵抗でやられたとは思わないが相応に向こうの戦力が余っているから分散させた……と考えれば一応は辻褄が合うが。

「………………」

「……どうかしましたか?」

「いや………今ものすごく嫌な予感がした」

戦力を散らす理由、を考えていた俺は……………ふと、とても嫌な仮説を思いついてしまった。

質と量ならぬ、量と範囲が求められる行動を世間一般には 人海戦術(・・・・) と言う。

そして量を散らしてでも範囲を広げているということは個々の戦力は度外視してもよいということ。

さらに言えば毒乙女も蛇乙女も恐らく奴にとっては消耗品……「最悪戦力を失ってもいいから範囲を広げて毒乙女や蛇にさせたいこと」と考えた場合。

例えばそう………「何かを見つける」事が主目的だとしたら。

何を? そうだな例えば……絶対ぶち殺したいくらい気に食わない奴、とか?

「見ぃツけた」

───第六感だとか、野生の勘だとかそういうものじゃない。

強いて言うなら……経験則だろうか。

そこそこに強い雑魚敵を倒して、小休止もちょっと長引いてくるような今この瞬間のようなタイミングこそが。

話が大きく動くような襲撃が起きるとしたら、こういうタイミングだろうという長年のゲーマーとして数多の物語を踏破したからこその経験則。

「うおおおお!?」

「サンラク!?」

馬上のウィンプが悲鳴交じりに俺を呼ぶ。

よく反応できたものだと褒めてやりたいくらいだ、最も状況が状況すぎてそれは非常に難しいと言わざるを得ないが。

「 コんばんわァ(・・・・・・) !!」

「ど、ちら様……だッ!!」

俺(サンラク) の手と比べたら半分にも満たない大きさの手が、俺の首を締めあげて押し込んでいる。

瞬く間に俺一人と”もう一人”が集団から離れていく。

「サンラクさんッ!」

「追いつく! 先に!!」

同じ顔の毒乙女、目の無い異質な毒乙女。だが目の前のそれは明らかにそのどちらとも違う。

その見た目は殆ど人間のそれ、サイドテールのゴルドゥニーネは今まで見たことがなく……それはこの個体が明らかにコピー&ペーストではないキャラクター性を持っていることを示している。

これまでの個体からは聞くことのなかった、明確に意味のある言葉は………まさしく人型の蛇、無尽のゴルドゥニーネそのものだ。

だが、一つだけ明らかに異なる点があった。

首を掴まれているからこそ………腕一本分の距離で見る事が出来るからこそ分かる異質な一点。

「な、めんなっ!」

不世出(エクゾーディ) の奥義(ナリー・スキル) 「 戦砕琥示(ウォールフェン) 」起動。

ここで使うのはかなり抵抗があったが、このまま木なり地面なりに叩きつけられたりする方が遥かにまずい。

柔らかなフェザータッチ、だがそこから発生する尋常ならざるノックバックがギリギリと俺の首を締め上げる細腕を弾き飛ばす。

「!」

「くっ」

掴んでいた者も、掴まれていた 者(オレ) も無理矢理崩された均衡によって体勢を崩す。

だが受け身スキルはパラメータだけじゃなくプレイヤースキルの方でも習得済みだぜ俺は……!

背中から地面に倒れ込むが、その勢いのままに後転。立ち上がりさらにバック宙返り。

「…………」

「…………」

静寂。

俺と”奴”は、互いに体勢を立て直しながら……3メートルほどの距離で相対する。

「一応名乗るなら聞いておくが?」

俺の言葉に……ウィンプに、あるいはボスドゥニーネに、もしくはお嬢に、それともニーネに、もしかしなくともイスナにそっくりな顔をしたそいつはにんまりと笑みを浮かべる。

「 私(ワたし) は、 ウワア(・・・) !!」

「うわあ?」

「ダって……みィんな、私を見て、そう叫ぶのだもノ!!」

それは名前を呼んでるんじゃなくて断末魔なだけでは?

なんとも悪趣味な名乗りを上げるゴルドゥニーネ「ウワア」が毒で形成された槍を構える。

白目の部分を毒々しい紫に染め、しかし紫の中でなお爛々と輝く赤い瞳が喜悦に歪む。

あんまり時間はかけてられねぇが………この肌をやすりで削るような威圧感、尋常の相手ではなさそうだ。