軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去はいつだって背後から刺して来る

「わちらが探しとるもんはこの場所の表面……ガラクタの山を見回しても見つからん」

「じゃあどうするんですわ?」

「扉を探すんじゃ、マリョークウンヨーユニットーは要するに神代の時代の鍛冶屋が使っていたもんじゃ」

「つまりは工房を探すってことか」

ビィラックが頷くのを横目に、俺達はその工房とやらの入り口を探す。「古匠」を取得するために確実に訪れなければならない場所である以上、千紫万紅の樹海窟のような知っていても見つけるのが困難な秘匿の花園程の見つけづらさではないだろう。

「とはいえこうも残骸が積み重なってると扉を見つけるにしても一苦労だな」

地面に突き刺さるようにしてその身を支えている巨大な肋骨。その内側たるこのエリアはそこら中に何か建造物の残骸があり、機能停止したゴーレムが転がり、その上でそれらが風化によって草が這っていたりするのだ。さらに言えば夜という視界の明度が低くなっていることもあり、若干夜に攻略を始めたことを少し後悔し始める。

「なんかこう、目的地まで導いてくれる お導き(ナビゲート) 的なものはないのか?」

「そんに楽ならわちだけで来とるわ、本腰入れて探さにゃならんから今まで来なかったんじゃ」

「なるほど」

あくまでもゲーム故に、ほぼ無限の残機と第三者視点の情報共有が可能なプレイヤーと違い、NPCからすれば命の保証のない場所で長期間探索をする、というのはそう気軽にできることではない。

セーブした時点で世界そのものの時間が停止するオフラインゲーと、ログアウトしても時間が経過するMMOの違いだな。スローライフ系は普通にリアルの時間とリンクしたりしているが今は関係あるまい。

「となると、別れて探した方がいいか……」

「いや、安全を鑑みて二手に分けた方が良いだろう! うむ、実に合理的だ!」

なんでそんな……ああ、そういう。

「じゃあどうやって分ける?」

「わちと鳥の人でええじゃろ」

ビィラックよ、アラミースがこの世の終わりみたいな顔で見てるぞ。わざとか? わざとなのか?

「別れる事は賛成じゃし、アラミースにじゃったら安心してエムルを組ませられるからの」

「おいおい、俺だと不安ってか」

「七つの最強種に嬉々として挑むやつじゃけぇのう……」

うーん、否定できない。だがしかしNPCとはいえアラミースのアプローチを応援してやりたい気持ちも……

「な、頼めるじゃろう? アラミース」

「乙女の頼みと……あらば……っ!」

あ、お前が屈しちゃうのか。俺の葛藤はビィラックの一言で無力化されるようなものですか、はい。

「……あれ、私の意見はナシですわ?」

「 年功(レベル) 序列だ諦めろ」

そんなわけで俺・ビィラックペアとエムル・アラミースペアに分かれて目的地の捜索を開始するのだった。

「よいしょっ!」

「おうりゃあ!」

ハリネズミのように全身から壊れた剣と思しきものを生やしたゴーレムの頭がひしゃげる。俺をジャンプ台として跳躍したビィラックの脳天潰しにぐらついたゴーレムの胴体、剣の隙間から覗く宝石のような核を直剣で穿つ。

「いやはやまさか、短剣じゃリーチが足りないとは盲点だった」

核(E) を潰されたハリネズミゴーレムがその形を 崩壊(meth) させる。ドロップアイテムではなくあくまでもモンスターの一部という判定であるが故か、地面に散らばった剣もまたポリゴンとなって消える。

残ったのは石を削って作られたのだろう石像。拾い上げて眺めてみれば、どうやら女性騎士を模したものらしい。

・拒剣の偶像

自然発生するゴーレムが稀に生成する小規模な己の分け身。

ソードルゴーレムが生成した偶像は特定のモンスターの気を強く惹きつける。

拒剣の偶像が拒絶する程に、より興味を引いてしまうのだ。

「確信を持って言えるぞ、特定のモンスターってこれ絶対オークとかゴブリンだろ」

女騎士は女騎士でも未成年お断りの方かよ業が深いなオイ。

むくむくと湧いて来た偶像集めの衝動をぐっと堪えつつ、俺は改めてソードルゴーレムにトドメを刺した直剣を眺める。

かつてドジっ子デュラハンの手にあって生死を問わず首を刈り続けてきた血錆の金属塊な姿は何処へやら、わずかに赤みを帯びた美しい剣身を持つツーハンデッドソード……所謂ツヴァイハンダーへと生まれ変わっていた。

「というか前より剣身が伸びてない?」

「元々の姿がそれなんじゃ、あのデュラハンが使い潰してたから長い年月の中で削れて短くなっとったんじゃけぇ」

「ふぅん……まぁ【双弦月】の取り回し練習とスキル習得には丁度いいかもな」

その名は「焔軍将の斬首剣」。レアエネミーからドロップした武器を修復する、なんて手間のかかる入手条件ゆえに中々に良い性能をしている。

気色悪い肉が腕に融合したり、使い手ごと属性反転したりと派手な能力こそ無いが、喪失骸将の斬首剣時代から引き継がれた……いやむしろこっちが大元なのだろう首への攻撃に対する補正に加えて、驚異的な耐久度が実に素晴らしい。

湖沼の短剣【改二】の五倍といえばその尋常ではない 耐久度(タフネス) が分かるだろうか。さらに高熱への耐性も持っているとか至れり尽くせりだ。

「とはいえ、嵩張るからやっぱり双剣かなぁ」

取り回しが双剣と違うという事は立ち回りも変わってくる。この手の大剣未満ショートソード以上の類はある程度の防御が整っていなければ使いづらい。

俺(サンラク) のステータスは言わずもがな防御を捨てているので本来はこの手の武器は相性が悪いのだが、【双弦月】という切り札が存在するが故にそうも言っていられない。

ウェザエモン戦を振り返って思ったが、【双弦月】時に使えるスキルが少ないことが問題だ。俺のスキルは殆どが双剣向けの軽い立ち回りと手数を活かしたものだ、だからこそ直剣……いや、合体した兎月は大剣寄りだからその為のスキルが必要だ。

「ただ適正職業以外だとスキル上がりにくいって話だしなぁ」

このゲームにおける 職業(ジョブ) と 特技(スキル) の関係は少しだけややこしい。

例えば俺がメインで取っている「傭兵(二刀流使い)」、これは二刀流を特に得意とする「傭兵」という職業だ。

基本的に「傭兵」ジョブは魔法を覚えづらく、代わりに武器スキルを覚えやすい。特に剣を用いたスキルと格闘系スキルを覚える職業であるが、二刀流使いが付く俺の場合は双剣、短剣二刀流、対刃剣などの両手に一本ずつ持つ武器種のスキルを覚えやすい。

だがこっちが飛び出せばあっちが引っ込むと言うべきか……双剣系スキルを覚えやすい反面、大剣系スキルを覚えづらいと言うデメリットがある。

まぁ結局のところはレベルと試行を続ければ理論上はどんなスキルでも覚えられない事はないらしいが。

こういうスキル習得に乱数が絡む要素はタイムアタックにおける鬼門であり、さらにいえば乱数が酷いと一気にクソゲー化する危険性を孕みつつもやはりそのランダム性はゲームの世界観をエクステンドするフレーバーとしての……

「つまり乱数はクソということか」

「なんぞ真理に達したようなツラしちょるがな、わちは多分そりゃあワリャの勘違いじゃと思うぞ」

「だろうな……」

思考を今現在の問題に戻そう。言うなれば地図なしに目的地に辿り着けと言われているようなもので、目的地である魔力運用ユニットとやらがある場所……ビィラック曰く「工房」を見つける為には、それこそ名探偵の如き推理を必要としているわけだ。

まず「工房」とはなんぞや、ビィラックは鍛治師として武器を作る場所をそう呼称したが、メタな視点を持つ俺からすれば工房とはイコールで「生産工場」と読み取ることができる。

ワンオフな武器にせよ大量生産の武器にせよ、超文明が何かしらを作るのならば金床でハンマーを振り回すような場所ではなく、もっとサイエンスな場所であろう。

「となると、建物の形や周囲の状態から……」

少なくとも精密作業を「外敵と戦っている最中地上で行う」なんてことはしないだろう、さらに言えばある程度の自衛手段もあったはず。

そう、例えば 警備兼防衛用(・・・・・・) ゴーレム(・・・・) を周囲に置いたり、とかな。

「ビィラック、明らかに戦闘用っぽい、それでいて迎撃や防衛を前提とした武装のゴーレムが固まってる場所を探すぞ」

「あいよ、わぁった」

ゴーレム、ゴーレム、ゴーレム、ゴーレム。

異様にタフネスなやつか、何をしてくるかわからない奴ばかりと戦闘を繰り返していれば、流石に疲れも溜まる。

「くっそ……なんだよあのマトリョーシカ……切っても切っても中から小さいゴーレムが出てくるし……」

「割れた外殻が動いた時は流石にわちも死を覚悟したわ……」

幸い中身のない卵の殻みたいな状態故に、片っ端からビィラックが粉砕したことでなんとか倒すことができたが、一番小さいサイズのゴーレムに逃げられたのが悔しい。

「骨折り損はやっぱ堪えるな……」

「じゃが、あんゴーレムがいなくなった以上、もはやわちらを止める障害はなくなったっちゅうことじゃき」

視線の先、崩れかけた廃墟の中。今しがたまでマトリョーシカゴーレムが居座っていた場所に鎮座するエレベーター だったもの(・・・・) 。

建物の「外側」に身体を向けて機能停止する防衛用の装備と思しき武装のゴーレム達、地下へと続くエレベーター、そして何よりもこれまで探索してきた他の建物と違い中に入ることができるという点が非常に怪しい。

「下までどれくらいだろう?」

「……結構深いみたいじゃな」

地面に落ちていた何かのパーツと思しき金属片を開きっぱなしのエレベーターの扉の先に放り投げたビィラックは、その黒い耳をピクピクと動かしてそう結論づける。

「さてどうしたものか……流石に下にクッションがあるとは思えないし……」

確証はないがこの下に存在する地下階層へは結構な深さがあるようで、素手で壁に取り付いて降りられる程イージーなものではないらしい。

そうだな、極力ギャンブル性を削って安全に降りるとするなら……

「縄とかあったら便利だよねサンラク君」

「奇遇だね、丁度ここに大量に縄を持っている考古学者改めトレジャーハンターがいるんだけど」

「おっ助かる、じゃあ早速…………」

ひぇっ