軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12月20日:城なき王に価値はなく、王なき城に勝ちはなし

最初から負け戦だろ、と思っていなかったかと言えば嘘になる。

「勝ったら新王を説得する!」と お題目(マニフェスト) を立ててこそいたが、それをやるくらいなら普通に前王陣営が勝てば無駄な苦労はしなくていいだろうと、思わなかったと言えば嘘になる。

即ち、負ける分には許容できる。悔しいが。

全力を出して戦い抜いたならば「負けたけど頑張った」と言えるのだから、それはいい。

ただ、ぱやぶさの直面する現在の状況は───

「ここまで撮れ高とは思わないんだけどお!?」

ぱやぶさが展開した【 攻性物質遮断障壁(マテリアルプロテクション) 】がついに破壊される。

それを成した同じ顔の女達は、山賊もかくやといった凶悪な笑みでぱやぶさとその後ろの新王アレックスを囲んでいた。

「あー……一応聞くけど投降したら捕虜待遇だったりする?」

「どうする同志?」

「んー?」

全員が王女アーフィリアと同じ顔、という凄まじい悪ふざけ集団の中からただ一人、アーフィリア顔ではない女が現れる。

狼を模した仮面を被ったその女は、頭上に名前が……

《配信記載拒否》

「あっ、はい」

システムによる「他人の配信に名前が表示されないようにする」設定。

配信している側から文句を言える道理はないだろう。というかここまでの悪ふざけをするならば、データに残るようなヘマはしないということか。

「あと五分くらいで捕虜待遇終わるけど?」

「え? あっ、あー……イベント期間か」

「そゆこと。それじゃあブチ切れたアルブレヒト君がこっち来る前に仕事を終わらせちゃおっか」

狼面の女は前へと進みぱやぶさ……ではなく、新王アレックスへと慇懃無礼を形にしたような優美な一礼。

「新王アレックス殿。我々は王国の正統なる王、トルヴァンテ陛下に忠義を誓う身故に敬称略はご容赦くださいな」

「構わぬ、 簒奪者(・・・) の末路などそんなものだ……」

「潔いのは美徳かもしれないけどねえ……まぁいいや、じゃあ やっちゃって(・・・・・・) 」

事実上の敗北宣言。それに対して狼面の女が部下に出した指示の言葉を合図に、周囲の同じ顔をした面々が動き出す。

膝をついていたアレックスに肩を貸して立たせ、そのまま手首を縛り上げ足首を縛り上げ………さらにはなにやらあまり見ない縛り方で胴に縄を巻く。

その様子を少し距離を離して見ていたぱやぶさの脳に一瞬「亀甲縛り」の四文字が過ぎるも、どうも違うらしい。

「なんだ、市中引き回しにでもするつもりか?」

「いやいやアレックス殿、私らはなにも屈辱を与えようだとか首だけ持って帰ろうとか考えてるわけじゃあないんだよ。縛ったのは単純に………じたばたされても困るからね」

「……………?」

捕縛、という行動とその理由が嚙み合っていない。アレックスが怪訝な表情を浮かべ、その理由を問うよりも先に狼面の女は高らかに指を鳴らした。

「さぁ出番だよ! 【 夜逃(ヨトウ) 】!!」

『『『『その言葉を待ってたぜ同志!!』』』』

轟、と月明かりが照らす半壊した王城の土煙が未だ消えぬ空気を引き裂くようにいくつもの影が現れる。

土煙を掻き消しながら 着陸(・・) するその姿……人、と呼ぶにはメタリックすぎるその姿にぱやぶさは思わず声を上げる。

「戦術機!? 序盤に壊滅したはずじゃ……」

「勝つための手札が戦闘要員だけ、って考えるのは甘いんじゃない?」

RPAの勝利条件はアレックスの殺害……ではなく、アレックスの 拉致(・・) 。

ここでようやくぱやぶさはアレックスの奇妙な縛られ方と、「じたばたされても困る」の本当の意味に気づいた。

「もしかしなくても……アレックス"空輸"する気ィ!?」

「せいかーい。それじゃ、そろそろアルブレヒトが回復しそうだから………」

ぱやぶさが展開している 隕鉄鏡(はいしん) に、ふと視線を向けた狼面の女は実に優美な一礼をする。

「それでこれにて失礼………ああそうだぱやぶさ君に一つ言っておかないといけないんだった」

「はい?」

投げ渡されたそれを、ぱやぶさは思わずキャッチ。

「メタルおにぎり?」

投げ渡されたそれを見たぱやぶさが率直な感想を漏らす。思わず口から出たのは本能レベルまで刻み込まれた配信者としての習性だろうか。

───もしも、ぱやぶさが自分の配信に流れるコメントを見ることができていたならば。

目まぐるしく流れゆくコメントの中にあったその一文に、あるいは気づけたかもしれない。

20:56:24 らっこ:それ爆弾だぞ

カチン、と金属の三角形……リヴァイアサン製任意起動式爆弾【スキャッター・フェス】にギミック起動の指示が送られる。

最後に、空に浮く征服人形の手を取り飛び立ちながら狼面の女は端的に 死刑宣告(つげ) た

「ウチ、捕虜は取ってないんだ……死んでも生き返るんだから、生かしとく価値もないじゃん?」

ぱやぶさは爆死した。その爆風にアルブレヒトも巻き込んで。

「な、なにを……何をしている!?」

「あはははは!!いやー勝ち逃げサイコ―! 凱旋したらブルジョワジーだよ皆!!」

『やったぜ同志!』

『アルブレヒト突破したのシャンフロ初じゃね!?』

『死んでいったやつも報われるな………オメーらの分も貴族生活だぜーっ!!』

『いや死んでねえよリスポーンしとるわ!!』

『私もう家具注文しちゃったもんね!!』

「ええいせめて質問に答えろ! 何故余は……ちょっ、揺らすな! 落ちるだろうが!!」

月照らす夜の風をかき分けながら、文字通りの意味で吊るし上げられた新王が空を飛ぶ。

アレックスを吊るすのが機巧の戦士たちではなく、その実態が拉致の現行犯でも無ければメルヘンチックにも見えたかもしれないが………

事実とは無情である。