軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12月19日:相対し、流星は正面に迫る

アージェンアウルが何故最前線ではなく、このような場所にいたのか……少なくとも新王陣営ではない以上、彼らの"陣地"である街を通らなければならないフィフティシアに、だ。

それは彼女がずっととあるユニークシナリオに挑戦していたためだ。

ユニークシナリオ「大いなる巡礼」。

職業「 聖職者(プリースト) 」系統の上位職業「 僧侶(ビショップ) 」「 洗礼者(クレリック) 」「 恩寵者(エンチャンター) 」「 巡礼者(ピルグリム) 」のいずれかをメインジョブとした上で、全ての街に巡礼をする……というものだ。

だが、このユニークシナリオを達成することで就職可能な隠し最上位職業に至った者は殆ど存在しない。否、もはや皆無と言っていい。

何故なら、このシナリオの達成にはいくつかの条件を満たす必要があるからだ。

まず第一に、一度たりとも死亡しないこと。流石にログアウトは問題ないが対モンスターにせよ対プレイヤーにせよ、さらに言えば悪いものを食べて毒で死ぬことすら許されない。ただひとつだけの命を灯し続けたまま、歩き続けなければならない……当たり前だが転送系のファストトラベルは論外である。

そして次に、カルマ値を0より上にしないこと。このカルマ値というものは非常に繊細で……変動しやすい。命を奪えば当たり前ながらカルマ値は上昇し、人が為し得る悪徳は全て論外。さらに言えば…… 食べるもの(・・・・・) ですら、動物性のものを摂取すればカルマ値が微増する。生きる為に踏み躙らざるを得ない命すらカルマを上げてしまう。

人としての最低限の生存活動すら制限される中で、全ての街……全ての教会に巡礼する。一見して不可能としか言えない条件を、しかし可能と謳い乗り越えなければならないのだ。

そして最後に……これらの条件を一つ街を巡り礼する度にHPの15分の1が減少し、MPが15分の1増加する状態で達成しなければならない。

巡るほどに命は擦り切れ、礼するほどに偉業に近づく。だからこそその生き様は伝説となる。

最後の巡礼を終え、己が命が全て尽きた時………大いなる奇跡が齎される。この世でただ一つ、そのジョブに辿り着いたもののみが会得可能な究極蘇生魔法【 殉神聖誕(アルマ・リザレクション) 】を以って蘇ることで。

その偉業、畏敬、なにより信仰と共にその名は与えられる。

聖職者系職業派生隠し最上位職業「 大聖者(ザ・セイント) 」。それがアージェンアウルが成し遂げ、獲得した職業の名だ。

「どうしたのチャレンジャー! 1ラウンドしかないのよっ? 最初からフルスロットル出さないと……ねっ!」

「知らない攻撃、を……っ!」

幸いというべきか、「大聖者」の職業に就いた後はモンスターを狩猟したり肉を食べても問題は無い。(尤も、罪を犯せばジョブがはく奪される不安定さはあるが)

本来であれば(・・・・・・) 、どちらかの陣営に所属すれば大聖者のジョブに就いたプレイヤーであってもPvPを行うことが出来る。武勲を経て聖者と称される事もある、まして人類が霊長足り得ないこの世界であればなおさらに。双つの王権が人と人が争うことを許容し、教会がそれを否定するでもなく中立を保ったが故に、本来であれば……そう、どちらかの陣営に所属さえしていたならば大聖者はプレイヤーを倒すことが出来た。

「はぁあっ!」

「その斬撃……まるでデュエスパーダ。でも私は 宿敵(ヴィラン) のスカルガンじゃないの、弾で迎撃しなくて悪いわね?」

剣豪ジョブであるカイソクが放った斬撃を、しかし徒手空拳のアージェンアウルが軽く腕を払うだけで軌道を歪める。全身にスキル強化の光を纏いこそすれ、素手で剣の腹を 弾き飛ばす(パリィする) ことで大上段からの斬り下ろしに対処したことにカイソクは目を見開く。

だがそれが出来るからこそ、眼前の人物は冗談のような偉業を看板として掲げてきたのだ。驚愕は捨て、すぐさま追撃に移行する。

カイソクがこの時の為に鍛え上げた「カイソク」というキャラクターは”ほぼ”物理剣士といったものだ。それは彼がギャラクシア・ヒーローズシリーズで最も得意とする持ちキャラ、デュエスパーダに限りなく近づけたものであり……それはカイソクの格ゲーマーとしての経験に基づいた実力を余すところなく発揮させながらアージェンアウルへと二刀の猛攻を仕掛ける。

だが、カイソクの持ちキャラが 双剣使い(デュエスパーダ) であるならばアージェンアウルの持ちキャラは 徒手空拳(ミーティアス) 。即ち武器の有無はなんらアドバンテージにならない。

(強い、本当に強い……! 観客席で見てるだけじゃあ、この強さは理解できていなかった……ッ!)

剣を振れば最小限の動きで回避される、突きを放てば弾かれ、しかし無傷であることにこだわらない荒々しい踏み込みから放たれる打撃はカイソクの身体に重く響く。こちらから殴りかかっても感触は霧、しかし霧の中から飛んでくる一撃は岩のようで。しかし長年……そう、シルヴィア・ゴールドバーグが最初の世界大会優勝を果たしたあの日からずっと組み立て続けていた対シルヴィアの戦略で辛うじて猛攻に立ち向かう。

「そこだ!」

「………!」

アージェンアウルの回避の「癖」を読み、飛び退いた先に突き出した切先がアージェンアウルの頬を浅く斬り裂く。そこで止まることなく、さらに踏み出した勢いのままに左の剣を叩きつける。腕でガードされたものの、戦いの中で初めてのクリーンヒット。

「お………おおお……!」

左腕に力を込め、アージェンアウルの腕よ断ち斬れろと言わんばかりに力を込める……だが、斬れない。いや違う、斬れてはいるのだ。だが、

「再生、している……!?」

「正解。【 遥かなる旅路(ファー・ジャーニィ) 】って魔法でね、 損傷(ダメージ) に対して同量の肉体リジェネを付与しているの」

HPの回復ではなく、肉体そのものの損傷を治癒する再生魔法。それは如何なる艱難辛苦をも五体満足で突破するための巡礼者の叡智。それがアージェンアウルの肌が、肉が、血が、骨が刃と対抗しているカラクリだ。

「そして、当然HP回復もあるけれど…… そっちは使わない(・・・・・・・・) 」

「そうか………感謝は、しておこう!」

アージェンアウルの言葉、そこに込められた意味を理解しないままにカイソクは感謝を述べる。彼は誤解していた、回復を使わないのはあくまでも格ゲー的な対戦形式を遵守してくれたのだと、そう思ったのだ。

その意味を理解しないからこそ…………カイソクは、アージェンアウルが目を細めた意味に気づくこともなかった。