軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12月14日:From "Hurricane" to "Storm"

喜怒哀楽を持つ生物のスペックを最も手っ取り早く強化する方法。それは恐竜だろうが猿だろうが人間だろうがケンタウロスだろうが絶対不変である。

怒ればいいのだ。

怒りとは生物が備える根源的な外敵排除作用だ。怒りは怯えを塗り潰し、理性のストッパーを外す……全ては己を苛む不快感を己の手で排除する為に。

即ち、大地を確たる四足で踏みしめながらも人と同じ二腕を獲得せしケンタウロスの馬刺し君は……ブチ切れた。

「お゛おぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」

うおーすげぇ、馬部分だけじゃなくて人部分も赤くなってる。髪の毛も禍々しいオーラで逆立っていてカッコイイのだが……うん、馬刺し君いわゆる三国志の関羽みたいなツラしてるから長いおヒゲもオーラを纏っててなんか間抜け……いや、個性的な強化形態になっている。

とはいえ全身が赤く蒸気している馬刺し君は、なんかもう何をどうやったら一生物がこんなにキレ散らかすのか、と聞きたくなるほどの形相で俺を睨みつける。

「顔から火が出そうだな」

「火が出てるのおめぇだろ」

殺人ハイキックをノータイムで繰り出した凶悪犯がなんか上手いこと言ってる感を出しているが、俺も今同じことを言いかけていたので今回は不問にしてやろう。

恐らく何らかのスキル、あるいは種族的特性なのだろう。筋肉がムキムキと肥大化していく馬刺し君は、既に通常時の1.2倍くらいにまで巨大化している……骨どうなってんの?

1.2倍と書くとショボいと錯覚しがちだが、世のゲーマー達がどれほどその小数点以下に泣かされてきたと思っているんだ。凄いじゃないか1.2倍、 乱数(ガチャ) なら泣いて喜ぶ倍率だ。

「さぁ来い馬刺し君! 次はテレビの特集でやってた竜巻ボクサーのステップを見せてやるよ」

「竜巻ボクサー……? もしかして"ハリケーン"キャンベルか?」

「ヘンリー・キャンベル! 彼は最高のボクサーですよ。特に十八年前のハウザー・スミスとの最後の決戦は今でも録画を見返すくらいですよ」

「ああ、そうだねカローシス。楽しい記憶で脳みそを満たしていこう……っ!」

PTSD発症した退役軍人のリハビリじゃないんだから……それはそれとして今の馬刺し君は怒り状態だ。古今東西あらゆるゲームにおいてキレた敵Mobはモーションが変化すると相場が決まっている。馬刺し君は分かりやすい方だ、直撃したらまず間違いなく俺の耐久では即死だろう。

ハリケーンさんのボクシングスタイルはステップを多用して相手の攻撃を回避しつつ己の一撃は近く踏み込み深く突き刺すというもの、一度攻勢に転じたならば踏み込むハリケーンに対してどんどん後ろに吹き飛ぶ相手ボクサー……その姿はまさしく竜巻に巻き込まれた哀れな牛。だったかな。

なにぶん特集番組を見たのが結構前だからうろ覚えだ、だがはっきり覚えていることもある。俺がハリケーンさんのボクシングを見ていて一番印象に残ったのは怒涛の攻勢ではなく………

攻撃の起点を絶対に見逃さない嗅覚と、起点に拳を叩き込む迷いの無さだ。僅かでも攻撃のチャンスが見えたら考えない、動きながら考えているとしか思えない神速の起点パンチは名前はうろ覚えでも顔はしっかり覚えてるくらいにはリスペクトだ。

猛牛、あるいは文字通り暴れ馬の如く突っ込んでくる馬刺し君。そこに攻撃のチャンスが見えた瞬間には既に前へと一歩踏み出している。

大時化はリキャストタイムがあるので使えない、だがこちらには必殺の「 戦砕琥示(ウォールフェン) 」がある。軽くジャブを叩き込むだけで大時化以上の吹っ飛ばしを可能とする、あとはどこに叩き込むか……制限時間は二秒、弾き出した答えは真っ直ぐ正面、人で言えば股間があるケンタウロスの真正面!!

あとはタイミングを合わせるだけ、こちとら高速機動のタイミング合わせは十八番芸……はい今! 再び空を飛んでペガサスになぁれ!!

「ま、そこまでだぁ」

「ごっ」

「うぇ」

身体が動かない。金縛りとかそういう話ではなく、まさしくゲームを途中でポーズしたように全ての運動エネルギーやスキルが完全停止しているのだ。

「───【 恒矗(こうちょく) 】。」

マジかよ兄貴、スキル魔法運動エネルギー全ての停止? オンゲーにポーズボタンは無いはずだろう。

「め、盟主、ドノ……」

「バザラ、おめぇさんの気持ちも分からんでもねぇがよう……ここは俺等ぁの顔、立てちゃあくんねぇか」

「ア、アナタ程の方が言うなら、ば……」

「で、サンラクよう」

「ウィッス」

「拳で言い聞かせたって、心はついちゃ来ねぇ……拳で魅せて認めさせな」

ぐうの音も出ない正論パンチは、リュカオーンの牙よりも深く刺さる。確か本当にこう言う諺がシャンフロ世界にあるんだよな、確か「真に正しきは宝剣より鋭い」だったかな。全く狂気的な世界観の作り込みだ。

互いに戦意を収めたのを認めたのか、硬直が解ける。後に残るのは親が教師に嗜められてバツの悪い顔をしたクソガキ二人、と………だが俺は 固茹で(ハードボイルド) な男。たまにはボッソボソに固まった茹で卵の黄身が食べたくなるものだ。

「ふっ、馬刺し君……ナイスバルク」

「は?」

物凄い素の反応で返された。ちょっと泣きそう。

「アレが、ケット・シーが噂する七星隠しの" 暴風雨(ストーム) "……」

「聞きしに、勝ル」

「血の雨を降ラし、古の雷ヲ纏い、荒ぶる神ノ風に背を押さレルとは誠カ、賢き黄金戴く猫王……ニャイ十三世」

「うむ……事実ニャ灰躯殿。かの"忌み名太刀"を抜き 放(ハニャ) ったと聞いておるニャ」

「ギギギッ、クロいイカズチもチをサくカゼも…… カムイ(・・・) のチカラだ。あのニンゲンはカムイか?」

「ロノ・ドア……最も偉大なゴブリンよ。カムイは恐るべき怪物よ。ワシは 帝雲(みかどくも) のカムイを見たことがある……アレは、とてもとても恐ろしい……カムイの名、みだりに出してはならぬ……」

「シかし、メイシュサマがタヅナをニギっておられる。ならばアンタイ、アンシン」

「"暴風雨"なら、アルいは……あの、怪物をナンとかしてくれるカ?」

「アスティロス。勇猛なるミノタウロスの女王。それは───」

多種族の小声は、サンラクの耳には届かない。

だが、サンラクから目を背けつつも聴覚に補正をかけてその話をずっと耳に入れ続けていた女は………にんまりと、口の両端を裂けんばかりに吊り上げる。

目は、相変わらずサンラクから背けていたが。