軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

檄文(スクショ付き)

その日、一枚のスクリーンショットと共にシャンフロに激震走る───

「あ、おい! いきなり新大陸に行くってどういうことだよアクちゃん!」

一人の 女(ネカマ) は周回と鍛造、そして弛まぬ強化によって業物と言うにふさわしい性能を持つに至った籠手の調子を確かめるように一度装備し、そしてそれをインベントリにしまう。

目指すはフィフティシア……そして隔絶の大海を超えた先、未だ拓かれざる新大陸。

「……止めてくれるな、やらないといけないことができたんだ」

「やらないとって……いやお前、王国騒乱の方はどうするんだよ!」

「そうだよ、徹夜で四日は前王陣営と戦えますとか言ってたのに!」

徹夜勢。それは対人要素が絡むコンテンツにおいて24時間を戦い抜く 懼(おそ) るべき戦士を指す言葉。

その一人が突然、コンテンツから完全離脱すると宣言したのならば周囲の者達もそうか行ってこいと言うわけにもいかない。

「え、リアル事情とかじゃないんですよね? 新大陸?」

「ああ………そうだ、俺は新大陸に行かなきゃならない」

「その一点張りじゃ理由が分からねぇってんだよ!」

主義、思想、欲望、約束、友情、あるいは 武士道(・・・) 。

理由(ワケ) の内訳を説明するにはあまりに混み入っている。だがあえて、そうあえて一言で言い表すとするならば───

「───美少女が、助けを求めている」

「ちょっ、アクちゃん!? 説明になってないよその説明!」

「あ、もしかしてアクちゃんさん新大陸のってこれ?」

「掲示板?」

「一体なんなんだ………えーと? 新大陸でアルビノ美少女ゴルドゥニーネが…………ゴルドゥニーネ!?」

夜を徹して命をかけるなら、やはり美しい少女のためである方が かけがい(・・・・) がある。

「サバさんからメール?」

それを受け取ったプレイヤーキラーがいた。今し方、開拓者の命を奪った手で開いたメールをしばし眺めて思案する。

「新大陸………か…………」

プレイヤーキラー、PKはNPCが統べる国たるエインヴルスの法であっても罪人である。当然、王国主導の新大陸調査船に正規の方法で乗り込むのは不可能に近く、そもそも王国騒乱シナリオの影響で新大陸行きの船は存在しない。

「なんか伝手でもあるのかな? 日時指定されてるし……」

特定の日時、特定の場所、メールに記された情報にひとかけらの嘘も混じっていないのだとしたら。

現役のプレイヤーキラーにすら一目置かれる「ビキニのバカ」、もとい対人強者サバイバアルはPKにすら誘いをかけるような大きな何かをしでかすつもりであり……そして同時にPKを新大陸に運ぶなんらかの手段を用意できているということだ。

「ユニークモンスターねぇ………ジークヴルム戦にすら参加できなかったから半分くらい諦めてたけど、チャンスがあるなら参加してみよっかなー」

リアルの自分への評価になんら影響することなく、欲望のままに他人をぶん殴れる。そんな刺激を求めてプレイヤーキラーデビューした少女は折角のチャンスを無駄にするのももったいないと、始めたての頃に対人戦のいろはを教えてくれたある種の恩師の誘いに乗ることを決めた。

「あ、そうだ。どうせならちーちゃんとかそらちゃんとかも誘っちゃおっかな」

人と人との繋がりを糸とするならば。ひとつを引けば三つ四つとつられて引っ張られることもある。

必ずしも全ての誘いに好意的な返事が返されるわけではないように。思わぬ おまけ(・・・) を得ることもある。

水面を揺らす波紋とは、投げ込んだ石が大きいほどより激しく広くなるものだ。

「また、残業か………」

文明が発達すれば人が担う負担も減る。そんな幻想を打ち砕くように山のように積み上げられた己が負担すべき 責任(仕事) を思えば、口から吐き出される不景気な吐息は尽きることを知らず。殆ど使っていない有給を使う、という最終手段も誰も彼もが忙しいこの年の瀬に使うには蛮勇に近い勇気が要求される。

社会人というものは己一人に課せられた責務だけを果たしていればいいものではない、社会という大きな絡繰のいち歯車として円滑に回るためには隣接する歯車への配慮も必要なもの。

「まぁ、そもそも予定なんてなかったけど、こりゃクリスマスもオフィスかな………」

そんな時だった。男のもとに一通の報せが届く………仕事用のデスクトップではない。個人の携帯端末、それも仕事との関わりがない「もう一つの名前」に宛てたものが。

「あー………… 寂斬(ジャクザン) さんかぁ………年末は鬼スケジュールだし、殆どインできないくらいならいっそ、寂斬さんにクランリーダー変わって……もらった、ほう、が………………………」

後ろ向きな委任を半ば本気で呟いていた男であったが、届いたメッセージを読んで行く程に脳のリソースが向けられた方向が後ろ向きから前向きへと変わっていく…………

「" 緋色の傷(スカーレッド) "が………討伐、された………? は、嘘でしょ………? いや、待って、情報が、情報が多い。ゴルドゥニーネ? 新大陸決戦? 待て、ちょっと待った、落ち着こう…………」

ドラクルス・ディノサーベラス"緋色の傷"が討伐された……とりあえず男のメンタルはまずこの時点で四割粉砕された。かの緋炎の恐るべき竜の討伐は男のモチベーションの一つであり、それが討伐されたとなれば誰が悪いのかという不毛な責任追及をせざるを得ないのだ。

───その恐るべき三つ頭の竜を討伐したのがたった一人であるとしるのはもう少し先のことではある。

「ぐ、く、こ、く…………」

男の喉から奇妙な音が漏れる。それはあたかも身体の水分が減少し、喉が乾き切った者が漏らす音にも似ていて。

「無尽のゴルドゥニーネ討伐戦…………ユ、ユニークモンスター…………」

ユニークモンスター。ただ一つの存在、それが七種。シャングリラ・フロンティアにおけるオンリーワン×7のスペシャルコンテンツ。

墓守は関与すら許されず、深淵はかろうじて参戦、天覇は参戦、夜襲は二度ほど蹴散らされてそれっきり、冥響は未だ縁遠く………未だ詳細のはっきりしない残る一つを除けばライブラリの発表で明確にその存在が知られることになった「無尽」のユニークモンスター。

男は戦友達に日々説いていた。オンリーワンのコンテンツはそりゃ参戦したいが、このゲームって基本的に日々の積み重ねが一番大事だからユニーク探すより周回効率突き詰めた方がいいよね……と。

だがあえて言おう! ユニークモンスターに関わりたいに決まっている! 本音を言えばレイドモンスターのいずれかを独占したい! というか周回云々は自分のジョブ的にソロで周回するとひたすらきついから周囲を付き合わせる大義名分的なところがある!!

結論から言えば、男とて参加できるならユニークコンテンツには積極的に食い付きたいのだ。しかし時間がない、余裕がない、なにより精神的な体力すらもが足りない。

「………んぐっ」

おもわず口の中に溜まった唾を飲み込む。それはまるで、飢えた者の前へ満漢全席を見せつけたときの反応に似ていて。

「ク、クリスマス………有給………いや、でも……仕事が…………三徹してどこまで消化できる? 自分が絶対に片付けないといけないところだけ優先して削っていけば…………………」

無謀、無茶、無理………理性が叫ぶ現実に飢えた獣の如き衝動が齧りつく。社会の歯車として果たすべき使命、開拓者として挑むべき未知への渇望、時間。そう全ては時間が悪い……なぜ自分ばかりが寿命を24時間でどれだけ有効に活用できるかを日々苦心しなければならないのか。

「やれる、やるんだ…………や、やるぞぉ!!」

前人未到の三徹行軍。クリスマスに夢を! 目指せ一週間有給! 死ぬ気で頑張れば誰にも迷惑をかけることなく有給が取れる───!!!

……

…………

三日後。

「部長。先日申請した通り、有給消化させていただきます」

「楼堂君、君この師走の忙しい時に有給ってさぁ………」

「部長、有給取ってる間はPCと携帯端末が 多分壊れるので(・・・・・・・) 連絡をいただいても気づかないです」

「いやあのね楼堂君、他のみんなの負担が増えるワケでさ……」

「部長」

「うん、何かな?」

「大晦日までゲロと涙と恨み言をとめどなく垂れ流しながら仕事する同僚と一緒に仕事する方が負担だと思いませんか」

「………………………」

「自分が目を通さないといけない箇所は全て目を通しました。あとは他の方の担当です……では部長、良いお年を」

疲労で泥のような目をした眠れる獣が今、社会的かつ感情的評価を犠牲に万全の睡眠時間と満ち満ちたメンタリティによる徹夜を以ってシャンフロの世界へと降臨する。

例えば同じ咎を背負った繋がりを。

例えば戦い方を指南した繋がりを。

例えばかつて殴り合った繋がりを。

敵対を引き摺らない、勝利の誇示はその場限り、敗北は称賛と再戦で流す。その本質はどうであれ、からりとした印象が積み上げてきた合縁奇縁は思わぬところで役に立つものだ。

「さぁて………どんだけ来るもんかね」

女がしたことは至極シンプルだ。掲示板に情報を流し、知り合いにメールを送り、そして見かけた 大手クラン(頼れそうな奴ら) 、その全てに一枚のスクリーンショットと共に檄文を送った。ただそれだけだ。

スクリーンショットに写ったもの。それは怒っているのか泣いているのか恥ずかしがっているのかよく分からないが、 とりあえず可愛い顔(・・・・・・・・・) で「戦力募集!スカルアヅチで私と握手!」という緊張感があるのかないのか分からない看板を持った 白髪白肌赤目(アルビノ) の少女。

そして彼女の正体がゴルドゥニーネであり、彼女とは別の大ボスとでも言うべき「無尽のゴルドゥニーネ」との戦いに人を募集する旨の言葉を添えて。

「っし………おうサンラク! 知り合い含めりゃそこそこの数は集まりそうだぜ!!」

「おー、無駄に交友関係広いなお前………」

「俺これでも気の良い兄貴キャラ確立してっからな……」

「気が触れた野蛮人の 兄貴(リーダー格) の間違いだろ。文字鯖の奴らが全員忘れても俺は味方の屍食って人様のサーバーでゲリラやらかしたことは忘れないからな」

「カーッ! 懐かしい話を持ち出すじゃねぇかオイ。ありゃあ確かに限界状況すぎて λ(ラムダ) の 食人族(・・・) みたいなことやったけどよ……お陰でお前らμ鯖の奴らも楽しめただろ?」

この場には要所を守る装甲以外は動きやすさに重点を置いた女と、ズタボロの喪服を纏った女の二人しかいない。その他の面々と、旗頭として神輿で担ぎ上げられた少女は今頃は 別(秘密) の場所に到着した頃だろう。

二人は共に助力を求めた開拓者達を信用している………良い意味でも、悪い意味でも。万が一にも「こいつもゴルドゥニーネなんだから倒せばなんかドロップするだろう」などと目先の欲で神輿を崩されてはたまったものではない。

「あれを「良い」で片付けるのは狂った思い出補正すぎるだろ……」

「違いねぇ、まぁでも……楽しかったしな」

「カニバゴリラの大群はあと数年は御免だぜ俺は………で? そっちは(・・・・) どうなんだ?」

「返事待ち、 そっちは(・・・・) ?」

「あー………まぁ、五分?」

何が、とは問わない。何が来るかを女は聞いていた、そしてもう片方の女は知っていた。

人を集めるのだ、ただ強ければ良いと言うものではない。夜を徹して朝日を浴びて、太陽が再び眠りにつくまで走り続けられるような、そんな 不夜なる人(・・・・・) を。

女には心当たりがあった、多分あいつなら数日休んでもなんとかなるんじゃね? 金も地位もあるんだし……と。

女にも心当たりがあった、リアルを詮索する気はないが大体どの時間帯にもいるなら今もいるだろどうせ……と。

答えは五分後、そして三十分後。