軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

曇天の夜空:失った後に何を持つ

「いやーすまんビィラック! 煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル) 失くした!」

「………」

え、何? コップ? いやこれアレだよね、鍛治とかで型に溶けた鉄流し込む時に使うやつ、アレだよね俺調べたことあるから知ってるんだ 坩堝(るつぼ) ってやつだろ?

「ええと?」

「一気、一気」

「悪いが猫舌なんだ」

「…………まぁ、構わんわ。武器っちゅうもんは唐突に別れるもんじゃ」

それが戦いの果ての損失ではなく、しょうもない紛失である事にまだ何か言いたげな様子のビィラックであったが幸いというか、熱々のドロドロ(マイルドな表現)を一気飲みさせられるのは回避できたらしい。

「で? ただ詫びに来ただけじゃあないんじゃろう……もう出来ちょるわ」

「流石ビィラック、未来の神匠は違うね」

「世辞なぞいらんわ」

世辞じゃねぇよ、近いうちにお前かイムロンを神匠にして俺は気軽に最強武器を手に入れるつもりなんだ。お前には神匠になってもらわなければ困るというもの。思い返せばこれもサボった課題だったかな……

「時にビィラック、ヴォーパルバニー秘伝の職業とかないの?」

「はぁ?」

「いや何、ちょっと………」

サブジョブの欄が空白でな。

……

…………

………………

「サ、サンラクサン!」

「よぉエムル、なんか随分と久しぶりに感じるな」

ちゃちゃっと例のブツを受け取りビィラックから紹介された「老師」から軽く手解きを受けた俺は、もうここに用はないとインベントリア内の素材をピーツに売り付けて用意した金で転移魔法の使い捨て魔術媒体のストックを補充。さて前線拠点に戻るか、という場面で……エムルとエンカウントした。

「おとー、カシラがサンラクサンが大変だって言ってたですわ……」

「兄貴は耳が早いなぁ」

人工衛星でも飼ってんのか?

エムルはなんらかのストーリー進行的な制限がかかっているのか、現在パーティを組むことができない。だからこうして【座標移動】や【座標移動門】などのファストラ魔法を外付けで使える手段を用意して転移するしかないわけだが……これが中々懐に厳しい。

「アタシ、その……サンラクサンをお手伝いできないですわ。おとーちゃんが今は外でちゃダメって言うですわ……」

「なんでやろなぁ」

ラビッツは地下空洞からゴルドゥニーネに侵攻されていた。つまりラビッツとゴルドゥニーネにはなんらかの因縁があり、ボスドゥニーネが活発化したタイミングでネームドのヴォーパルバニーに外出禁止令……よく出来た偶然やなぁ、不思議やなぁ。

「何、百や二百の敗北で俺が止められるかよ」

トライアンドエラーは百回を超えてからが本番だ、周回に至っては千回やっても満たされることはない……終わりの見えない作業を指して「エンドコンテンツ」とは皮肉が効いてるぜ。

「まぁなんだエムル、気にする事は無い。兄貴は単なる過保護で外出禁止令を出すようなお方じゃあない。何か意味があるんだろうさ」

それに、だ。

「エムル」

「はいな?」

「今俺はどうよ、ヴォーパル魂は満ち満ちてるか?」

「………ちょっと、しょぼくれてるですわ?」

数値で聞いたんだけどなぁ……まぁいいや、やはりこのままではダメだろう。ヴォーパル魂を上げなくては、敗北を払拭するような……否、敗北を 払拭するために(・・・・・・・) ヴォーパル魂を上げなくてはならない。

ヴォーパル魂はなにもヴォーパルバニー専用の好感度ではない、なんとなくだがヴォーパル魂が高まってるな、って時はNPCからの視線が……こう、ハードボイルドなキャラを見てる感じになる。一挙一動に憧れる、みたいなそう言う感じの視線だ。

そもそもヴォーパル魂とは何か、その根幹はTRPG的なパーフェクトリプレイの構築だ。シミュゲーではない、これは戦闘をリプレイした際の芸術性も評価ポイントなんだ。

だとすればどうすればいい? このクソみたいに無様な敗北を、被ってしまった汚名を返上するには何をすればいい?

まず思いつくのはやはり無尽のゴルドゥニーネ、ボスドゥニーネをぶっ飛ばす事だ。

だが現状の俺ではあのクソみたいな物量を攻略するのは難しい。というか目的のための準備で目的を果たす、って根本からなんらかの法則が乱れてないだろうか。

ではどうすればいい? いいや、こんなものは単に俺の覚悟が決まっていないから自問自答で誤魔化しているだけか。海蛇の林檎を出た時から……刃を向ける先は見据えていたのだから。

「もう答えは出ている、か」

「答え、ですわ?」

因縁、リュカオーンに匹敵する「未だ倒せていない強敵」という条件に合致する存在は………一体しかいない。

「エムル、せめて前線拠点まで転移するくらいは頼めるか?」

「はいなっ! アタシにお任せですわっ!」

「別れ」というものは遠ざかることはあっても去ることはない。

どうやら今日のようだぜ、決着をつけよう兄弟。

◇?◇

蛇にとって、灯火と喧騒は忌避すべきものだ。

灯火と喧騒は人が生み出すものだ、人は蛇を嫌っている……見つかれば、恐るべき刃で蛇を狙ってくる。

「……………」

怖い。とても怖い。

だけれども、だとしても。

「……………」

もう、生き残ったのは自分だけ。大切な宝物は失われ、臆病だった自分だけが生き残ってしまった。

「……………」

人に見つかれば、きっと自分は死んでしまうだろう。いいや、自分の命はもうとっくに尽きていてもおかしくはない筈なのに。

まだ動く身体を引きずりながら、ゆっくりと……それでいてどこか焦るように前へ、前へ。

届けなくては(・・・・・・) 。

想いを託そう、もう自分では叶えられない願いを。自分では背負いきれなかった無念を。

嗚呼、どうしてこの身はこんなにも脆弱で。いいや、本当は分かっているのだと蛇は考える。

結局のところ、死に損なったのは臆病だったからなのだと。