軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ワン・フォー・オール・フォー・ハッピーエンド

追月の竜騎(ケトゥラフ・ドラグーン) 。

それはシャングリラ・フロンティアがサービスを開始して丁度一年経つ直前……およそ十ヶ月ほど経過した頃に出回った噂の正体である。

───上位か職業「聖騎士」及び「暗黒騎士」をメイン、サブにセットした状態でなんらかの条件を達成すると隠された最上位職業が解放される。

元を辿れば騎士系統最上位職業「 聖輝士(パラディオン) 」及び「 黒忌士(ダーククルセイダー) 」に就職する事で閲覧可能な情報の中に記されていた「光と影を背負いし彷徨える騎士」という一文がこの 仮説(ウワサ) の根幹だ。

同じく騎士を由来とする最上位職業でありながら信仰と殺戮に分かれた二つのジョブ。その双方が暗示する「彷徨える騎士」の情報はゲーマー達の後年思い出すと少し恥ずかしくなるタイプの心をくすぐり、盛んに検証が行われた……だが、その正体は不明のまま、いつしか信憑性の低い噂として忘れられていった。

だが、とあるプレイヤーは 今日(こんにち) に至るまで「聖騎士」と「暗黒騎士」を己が生業として剣を振るい続けていた。

実のところを言えばシャンフロというゲームにおける強さの大半はスキルと魔法に依存しているのでそこそこ便利な上位職業であると最前線でも普通に戦える、というのがサイガ-0がジョブを変えなかった理由の大半なのだが。

だが、それこそが「追月の竜騎」に至る条件の一つを達成した理由だ。

シャングリラ・フロンティアにおけるジョブ就職の条件は大きく分けて三つに分かれる。即ち、

・条件型

・物語型

・複合型

の三種類だ。殆どのジョブはユニークシナリオやクエストの達成で就職する物語型、複数の条件を達成した時点で転職可能になる条件型、あるいは条件を達成してシナリオを発生させる複合型に分類される。

「追月の竜騎」は複合型だ、そしてその条件こそが「聖騎士及び暗黒騎士を最上位職業に転職可能な状態でジョブにセットし、隠しパラメータ「歴戦値」を高めた状態でさらに「野生値」を高めたモンスター相手に発生するユニークシナリオをクリアして……と、文章にすると難解だが要約すると

・最上位職業に転職可能な状態の「聖騎士」「暗黒騎士」ジョブをセットする

・NPCの間で噂になる程の強さを持ち、さらに聖輝士、黒忌士どちらのサイドにも味方しない

・騎乗可能なモンスターと 盛り上がる(・・・・・) 激闘を繰り広げる

このような流れとなる。

サイガ-0はユニークシナリオEX「 致命兎(エピック・オブ・) 叙事詩(ヴォーパルバニー) 」を発生させてからは 拠点(ホーム) をラビッツへと移している。即ち「所在不明の騎士」としての名声を得る条件を達成しており、さらに流れのアルマアロゴ・ヘタイロンという強力なモンスターとソロで渡り合ったことで全ての条件が達成されたのだ。

「……というわけでして」

成る程、とりあえず鉱人族が寄り付かないような場所を目指していたら偶然このアルマアロゴ・ヘタイロンなるアーマード・馬と遭遇。鬼武者装備のまま金棒で激闘を繰り広げ、トドメを刺す直前でユニークシナリオが発生したので回復させたりしたらテイムできてしまったと……

「その、えーと、ケットバス・ドラグーンみたいな感じのジョブはどういうもんなの?」

「えぇと……昼と、夜で性能が変わるみたいです」

なんかそんな感じのモンスターに激しく心当たりがあるな、さらに言うとその心当たりあるモンスターの素材で剣を作った奴がいる。鏡見たときに見かけたから間違いない。

「今……つまり夜の時は「追月」状態で、朝になると「喰陽」状態に………」

「どうかした?」

「他意は、ない、デス、よ?」

「え? よく分からないけど……うん」

さらに詳しく聞けば、なんともユニーク(面白い、という意味で)なジョブだ。

夜の間は光系統の力を扱い、朝は闇系統の力を扱う。夜間に光に 触れる(・・・) 事でその力を取り込み、逆に日中は影に触れる《・・・》事でその力を操る。

というわけで試しにやってみようという事になった。

「えぇと、確か……あった、【マジック・トーチ】の 使い捨て魔術媒体(マジックスクロール) 」

発動、それにより俺の頭上に出現した光球が周囲を照らし出す。まぁプレイヤーからすれば日暮れ前の薄暗さがそこそこ明るくなった、程度なのだが……

「行きます……【 簒奪月蝕(スティル・エクリプス) 】」

「おぉお!?」

なんだ!? いきなりMPが削れたぞオイ。いや違う、変化はパラメータだけじゃない。

目の前の光景をなんと形容すればいいのか……例えるならそう、光に照らされた空間そのものがレイ氏の手に 掴まれている(・・・・・・) 。

リアルじゃ絶対に見れない光景だ、なんというか……こう、空間として張られたカーテンを無理矢理引き剥がしているような、兎に角【マジック・トーチ】から放たれている光が俺のMPごとレイ氏に奪われている。

「この、掴んだ光は……えと、自分に還元するかそのまま攻撃とかに転用するか選べるそうです」

「条件付きのMPドレインってエグすぎねぇ……?」

「あ、ごめんなさい! お返しします!!」

他者への還元も出来る? いや待て、これまさか……

「MPヒーラー、だと……!?」

ヤバい、これはヤバいぞ。場合によってはこのジョブは「人権」になる恐るべきスペックを秘めているぞ……!?

「レイ氏、これはヤバいぞ……どうする? 他のプレイヤーにも教える? それとも秘密にしちゃう?」

「え、ええと……」

別に隠すことに対して俺はとやかく言うつもりはない。そもそも俺が人の事を言えない、ってのもあるが再現性のあるコンテンツを見つけられない方にも何割か問題があると思っているからだ。

そりゃヒーラーや純魔に騎士系統の隠しジョブの条件を見つけろと言うつもりはないが、レイ氏がやってた事は聖騎士と暗黒騎士のジョブをメインサブにしていただけだ。少なくともリュカオーンにレベル10だか20でノーダメ100発クリティカルよりかは簡単だろう。

攻略Wikiに情報が書かれるまで攻略できない、なんてコンテンツは存在しない。

シャンフロに限っては解析やリークも有り得ないだろう、つまりこの隠しジョブについて公開するか否かはレイ氏の自由意志で決まる。

「……その。私は……公開するべき、だと思います」

「理由を聞いても?」

レイ氏がチヤホヤされたいから公開する、というような手合いではない事くらいはこれまでの付き合いで分かっている。いやそれが悪いって訳では断じてないが、少なくともレイ氏はそういう理由で公開するわけではないだろうって事だ。

「シャングリラ・フロンティアは……その、あくまでもゲームなので、一人二人が際立って強いだけだと、ワールドストーリーで取り返しのつかないことに、なる気がするんです」

「確かに」

レイドモンスターとかを見るに薄々嫌な予感はしている、このゲームの運営はやる時はやる、と。間違いなくこのゲームにはゲームオーバーの概念がある、VRMMOだとしてもだ。

一番近い例を挙げるなら彷徨う大疫青だ、あのレイドモンスターを倒せなかった場合、確実にサードレマは滅んでいただろう。都合よく引き返すようなモンスターじゃないだろアレ。

まだレイドモンスターの全てが明らかになった訳じゃない、そしてユニークシナリオEXがクリアされると同時に進んでいくワールドストーリー……物語にはボスキャラがいるものだ。

その時に戦うのは他でもないプレイヤーであり、リアルタイムで進行するこの世界にリアルでの人生があるプレイヤー達が必ず居合わせられる保証はない。

俺やレイ氏だってそうだ、センター試験当日にラスボスが現れたらどうしようもねぇ。流石の俺もシャンフロの興亡よりもリアルの受験を優先せざるを得ない。

「……駄目、だったでしょうか?」

「いや全然? むしろ尊敬するよレイ氏……いや、 玲(レイ) さん」

俺ならちょっと迷うし、迷ってるうちになぁなぁで公開する事を忘れてる気がする。

「それで、その……実は、お力添えを、お願いしたい……事がありまして」

「ん?」