軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鏡面に響け、摩天より吼えろ 其の六

さぁて、まずは小手調べのボスラッシュだ。とはいえ第一から第四までの楽章は歌に従って勝手な流れを再現すればいいだけのこと。

黒星を刻まれた数で言えばリュカオーンよりも因縁深いオルケストラの「劇場」に立つ俺はインベントリアの中身を最終確認しつつ壁にめり込んだ音楽プレーヤーの元へと歩み寄る。

「ベヒーモスで調べたぜ、お前の所有者履歴をな」

メタ的な視点で言えばオルケストラがユニークモンスターである以上は普通そんな情報残ってないだろ、って情報も存在していると踏んでいたが……やはりビンゴだった。

ベヒーモス第十階層、叡智の最深部に眠っていたデータはあの音楽プレーヤーを骨董品として購入した最初の所有者から、その孫、の妻、の娘、の親友、の父親が売った店で買った客……と、小さな機械が辿った道を確かに残していた。

地球を放棄すると同時にリヴァイアサンに持ち込まれた音楽プレーヤーは、所有者を転々としながらとある兵士がベヒーモスに渡った際に何者かに譲渡され、そしてそこから何人かの所有者を経て最終的にアンドリューに辿り着いた。

「オルケストラはかつての所有者達の遺志が宿るもの、神代以前の人類との対話……… じゃあお前は誰だ(・・・・・・・・) ?」

触れた指が音楽を再生する。それをトリガーに現れる「 歌姫(エリーゼ) 」と「 楽団(オーケストラ) 」……今なら分かる。JGEで作ったコラ画像の違和感、オルケストラが劇場そのものであった理由はオルケストラという存在が過去の存在達を内包する世界そのものであったからだ。

ならおかしいだろう、辻褄が合わない、お前はいちゃいけないはずだ。

「エリーゼ・ジッタードールは音楽プレーヤーを所有していない」

音楽プレーヤーと関わりがあるのはエリーゼ・ジッタードール本人ではなくエリーゼの歌声だけだ。「歌姫」がエリーゼの姿をとるのはおかしい、仮に歌が入っているからエリーゼが顕現したとしても音源しか入っていない……つまり画像のないデータからエリーゼの完全な姿を構築できるのか?

では仮にそこはまぁ色々オカルトパワーがあってエリーゼが出てきたんだよ、と無理やり納得するとしても、今度は何故「エリーゼ・ジッタードールが選ばれたのか」という謎が出てくる。

だってそうだろう。

「お前の歴代所有者の中にはシュテルンブルームのメンバーも何人か含まれていたんだからなぁ……!!」

劇場(オルケストラ) にして 闘技場(オルケストラ) 、挑戦者を試す戦いの場が揺らぎ、震える。「歌姫」の口から流れ出る歌に従って組み上げられるのは……おっと、これはこれは" 戦災孤児(ウォールフェン) "君。何だか随分と久しぶりに感じるぜ、一回しか会った事ないし二度と会えないようトドメ刺したのも俺だけど。

とりあえず今考えるべき事項は二つ。

一つ。

何故歴代所有者の中にシュテルンブルームのメンバーがいたにも関わらず、銀河級アイドルと比べればダイヤモンドとガラスくらい格の違う、それも所有者ですらないエリーゼ・ジッタードールが選ばれたのか。

二つ。

" 戦災孤児(ウォールフェン) "との戦いにはシグモニア大戦争が伴うので一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図と化した闘技場をどうクリアするか。

いつの間にかすり鉢の中央に冠を戴く特徴的な地形になった劇場の中で、轟音と共に顕現した蜘蛛、百足、そして蠍の残影をくぐり抜けながら飛び回る再現" 戦災孤児(ウォールフェン) "を睨め付けながら俺は剣を構える。

「あ、そうだ」

隕鉄鏡は……あったあった。いつの間にか俯瞰視点で撮影できる位置にいたわ。はいちょっとズームイン、よしよしいい子だ。

「えー、第一楽章、相手はエクゾーディナリーモンスター FM's(フォッシルマイナーズ) ・クリサリス"戦災孤児"。出現地点の関係上、このように馬鹿でかい蜘蛛と百足の大喧嘩を傍目に戦うことになるし上からレーザーが降ってきます」

まぁこんなもんでいいか。ようしやろうか再現攻略! 最終的に玄武の自重で叩き落としたことくらいしか覚えてないがそこらへんは歌詞で補完だ!!

現代社会において、情報とは火、あるいは水と似た挙動をする。

たった一人から発信された情報の種火は大抵の場合においてそれ以外の情報の津波に呑まれて消えていく。

だが時折、種火は勢いよく燃え上がって誰の目にも留まる程の大火となる事もある。突如始まったとある生配信は後者であった。

「なーーーーーーーーーーーーーーーーにやってんですかねこの人は………」

来たる大戦争に備えて様々なルートからシャングリラ・フロンティアの情報を仕入れていた天音 永遠はとある動画サイトでリアルタイム配信されている動画を見て長い長いため息を 吐(つ) いた。

『そうSoUこんNa感じぃぃぃi i i i i !!!』

何やら見たことのない巨大カブトムシの背中でゲラゲラ笑っている真紅の獣が画面の中で跳ね回っているのを見つけた時は 永遠(とわ) をして数秒思考が止まったものの、フリーズから解凍される頃には「何故」を高速で考え始めていた。

(サンラク君がいきなり配信者魂に目覚めたって可能性はまぁゼロだろうね、あんなんだけど結構シャイボーイだし)

少なくとも自己顕示欲を目的として配信を始めるようなタマではない、では何故配信を始めたのか……

「オル検証、オルはオルケストラだとして……「検証」なんて単語は使わないだろうし……」

もし使うとするなら「攻略」か「討滅」だろう、それなりの付き合いなのだからサンラクの使いたがる単語くらいはおおよそのアタリがつく。それらを外して「検証」という単語を使う理由とは。

「あんの狸親父め………いや違うな、この適当タイトル、サンラク君が公開設定ミスったな……?」

画面越しからの推測で真実のおおよそ九割を推測してのけた永遠はすぐさま次の思考へと脳を切り替える。

(視聴者数5000を超えてなお増加……ここまで来るともう隠すのは無理、向こうにもサンラク君の詳細が割れた。だからどうしたって感じだけどそれはそれとしてこの大ポカをどう活かす? 引き続き広告塔作戦? いやー、ここまで来ると逆に足引っ張りそうだよねぇ……)

「はぁー………眠れないじゃないの」

考えるべきは山積み、それ以上にオルケストラvsサンラクなんて好カードのリアルタイムを見逃す選択肢もない。せめて道連れを作るか、と鉛筆は珈琲を淹れる為の湯を沸かしながら友人へと着信連打を敢行するのだった……