軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「解」に手を伸ばす

界隈は良いね、なんだか自分が凄くゲームに精通しているように錯覚できる。とはいえ武田氏やカブ農家氏みたいな趣味に対するリミッターが完全破壊されている方々を除外したとしても他のお歴々にも及ばない若輩者だからなぁ……やっぱ最新作からクソゲーを見極める嗅覚を鍛えるべきなのだろうか。というかなんで皆さんお嬢様言葉だったんだろうか?

「くぁあ…………あ、玲さん」

「おはゃ……ひゃよう、ござぃます………」

「………?」

何故か両手で二つのジュース缶を両頬に押し当てている玲さんに首を傾げつつ、歩く道すがらで話題に上がるのはやはりというかデベリオンについてだった。

「……つまり、あれ数ヶ月単位のPvPみたいなゲームだったんだよね」

「そう、だったんですね」

「そうだったんだよね……あの、玲さん寒くない?」

「丁度いいので、大丈夫です……」

「もしかして風邪とか?」

「いえ、風邪では……なかった、です」

しばし沈黙。

「あ、あのっ、ですね……その、昨日の……こと、なんですけれども」

「ああ、あのやたらテンション高かった……」

「はうっ」

ぺちっ、と玲さんが両頬にジュース缶をぶつけ直した。この寒空の下、随分と斬新な気つけ方法だな……。

「いやその、ええと、あの、あれは……」

「いや、皆まで言わなくていいよ……人間誰しも、そういう時期を経て大人になるんだよ……」

あの頃は若かったと笑ってやるのが未来から過去に向けてのせめてもの手向けだ、笑えないタイプの思い出はもはや傷と呼ばれるものになるからな。

「いえ、その……はい、ええと、できれば……忘れていただけると」

「いやどうだろうなぁ……インパクト強かったし」

「ええっ!? ら、楽郎君っ! お、おちょくってませんか!?」

「イヤマサカソンナコト」

他人の若い黒歴史は大概エンターテインメントだけどいやまさかそんな、ははは……正直めちゃくちゃ面白かったよね、うん。

「や、やっぱりおちょくってますね!?」

「いや、だってなんかいきなり京極とかみたいな口調になったらそりゃ面白いでしょ……」

「くっ……ううう、」

普段以上に顔を赤くした玲さんがジュース缶で頬を冷やしている姿にブラックヒストリー・ホルダーの先達としてはやはり微笑ましいものを考えつつ、気づけば校舎が視界に入るくらいには学校に近づいていた。

「うう……生霊が楽郎君の枕元に飛んでいきそう、です……」

「何、源氏物語ネタ? 六畳一間すやすや所みたいな名前の……」

「ろ、 六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ) のこと、ですかね?」

「そうそれ」

今ちょうど古典でやってるしタイムリーでインテリジェンスなネタだ……

「ああいう作品って今ではオカルト扱いなものも当たり前のように信じられてたっぽいのが読んでて楽しいよね」

生霊(・・) 、 オカルト(・・・・) 。

「そう、ですね。六条御息所は……その、強い想いを抱えて、生霊になってしまう女性ですから。私だってこの大きな感情で生霊に……おお? お、大きな、感情……で………ほぁうぁっ!!?」

感情(・・) 。

何か今、爪の先端が引っかかった。そしてそれはなんの偶然か外れることなくしっかりと「それ」に食い込んでいる。あとはそう、手繰るだけだ。

「ち、違っ、違うんです。この場合の大きな感情というのはええとあのそのいやでも違うわけでは違う違う違うええとあのはの、その、ええと、あの」

「………」

冥響のオルケストラ。

本体は音楽プレーヤー、過去の再現と 現在(プレイヤー) の反映。奴はなにかを問いかけている、何を? いいや違う、今気づいてしまった。過去から現在に問いかけている、それってつまり過去が未来に問うているんじゃないのか?

「こ、この場合の強い想いというのは憤りというか、いえその本気で怒ってるわけではなくあくまでも会話の流れとしての掛け合いといいますか」

アンドリューの言及。

あの音楽プレーヤーはアンドリューの私物だが、厳密には譲り受けたもの。アンドリューに渡したのはなんか知らないおっさん、多分こいつは関係ない。関係あるとしてもおっさん個人ではない……いくらシャンフロとはいえ仮にもゲームだ、重要な個人ならもう少し名前とか出てもおかしくないわけで。

───その音楽プレーヤーは人類種が星の海に船出する 以前(・・) に作られ、そして千年単位の経年劣化を防ぐ保存加工を施す「前」に紛失したものだ。

「………!!!」

爪先がさらに深く食い込んでついに指が「それ」に引っ掛けられたような寒気のような電流が全身を駆け巡る。

仮説、推測、予想。だがこの理屈なら恐ろしく筋が通る、いや待て嘘だろこんなしっくりくるのか!? いやそれしかない、つまり……

エリーゼ・ジッタードールはブラフだ。

少なくともオルケストラという存在の性質を考える上でエリーゼを重要視するとドツボにハマる。なんつークソみたいなトラップだ、100点満点をくれてやるぜ。

「だからその、あくまでも楽郎君が話題として出したからこそ私も乗った一面があるというか……」

「玲さん」

「ひゃはいっ」

脳味噌の中をエンドルフィンがカーニバルしているのが自覚できる。今この瞬間、ずっと全貌の分からなかったそれ……指の全てで掴んで引き寄せたからこそ分かる、「 真相(それ) 」にたどり着いた興奮のままに家まで逆走しなかった理性を褒め称えたい。

称賛の感情はいつしかそのきっかけを与えてくれた玲さんへの感謝へと変わり、俺は特に深く考えずに玲さんの両肩に手を乗せる。

「ほょっ……ほ、ほ……」

「ありがとう、君は俺の神様……いや、女神様だ」

「み゛ょっ」

おっともう学校か、今すぐにでもシャンフロにインしたい俺にとっては千年収監される牢獄の入り口にしか見えないがそれでも行かねばならないのが学生の辛い所だ。

「じゃあ玲さん、今日一日学校頑張ろうな!」

「 」

待ってろオルケストラ、帰ったら今日一日学業に全く専念できない恨みをぶつけてやるぜ。

その日、斎賀 玲は瞬間最大体温38.4度の熱を出して早退した。