軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空のジョッキに重い愛を注いで乾杯!!

「神よぉっ! ご覧ください! 我が信仰をぉぉぉぉぉおおおおぎゃああああああああ!!!!」

NPCの一人、ちょっと前までは一番最初に仲間となる気のいい兄ちゃんだった筈の「信者」が次の層に行くための道を塞ぐ第一層のボス「茨の王臣ロゼル=ミニステル」の亡骸を消し去るべく、巨大な二足歩行のカミキリムシのような姿をしていたボスの死体と共に燃え上がる。

その炎の色は黒と青の混ざり合った明らかに尋常ならざるものであり、それに身を焼かれる信者の兄ちゃんの様子はただ事ではない。

「………えぇ」

「喝采せよ! 追悼せよ! 神の征く道と敷かれた同胞に敬意を!!」

「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」

「やぎゃあああああっ!! だずげっ! げっ! ばぁぁあああああああ………ああぁぁぁ………!!」

「………えぇ」

ドン引きである、元ナッツクラッカーことディープスローターがスペクリで「囁き爆弾」を運用してきた時と同じくらいドン引きしている。

ちなみに囁き爆弾とは敵陣営に潜り込んだプレイヤーが背後から耳元に下ネタ(を詠唱とする自爆魔法)を囁く事で肉体とメンタル両方に大ダメージを与えるクソ悪質なテロ行為である。それに対抗して生み出されたのがこちらも悪名高いデスメタルリンチ……うーん、黒い黒いぞ我が歴史。後世に語り継いではいけないやつだ。

『あの……サンラク、君』

「ごめん、ごめんね 玲(レイ) さん……こんな、こんなゲームに誘ってしまって………」

『い、いえその! ええと、大丈夫です! 一応、その、ああええと、大丈夫です!!』

こんなんホラーすら生温いやつやん……明確にプレイヤーの心を痛めつけるための確定イベントじゃん……

後から知った話だと、どんな軍団にしようとも必ず最初に仲間になるあの「 恩義を返す剣士(気のいい兄ちゃん) 」は必ず最初に 生贄(・・) になるそうだ。やけに気合の入ったキャラ造形のくせに速攻死ぬ役とか鬼かよ。

巨大カミキリムシと共に地に積もる灰塵に成り果てた信者を踏み締めながらカルト教団と化したサンラク軍は次の層へと突き進む。

全員が顔をすっぽり覆うサイズの穴空きビールジョッキを被った一団というのはカルトにしても相当珍妙なんだろうが、生憎カルトルートの場合プレイヤー以外で何を信奉するのかは完全ランダムだ。

ちなみにウチのサンラク軍では空っぽの酒樽、そして教祖たる俺を信奉している……意味分からないだろう? 当の教祖もよく分かってないんだなこれが。

何はともあれチュートリアルはクリア、それによって界隈で議論される原因……即ちこのゲームの問題点が見えてきたぞ。

要するにこのゲーム、絶対に出血を強いるタイプなんだろう。それも極めて悪辣、残酷な感じで。言い方は悪いが製作側の性根が腐り切ってるんじゃないかと思う。

ただコンセプトとしては「好きな人はとことん好き」って感じなんだよな、要するにやってる事はダークファンタジーではあるのだから。

正直知らなかったとはいえレイ氏をこのゲームに呼んだのが申し訳なくなってきたのだが、当人は気のいい兄ちゃんが燃えカスになるショッキングシーンを見てもそこまで取り乱してはいない様子……いや、油断はできない。そうやって見た目だけで安心してるとピザるんだ、やはりここはちゃんとけじめをつけるべきか。

「さぁ! 我らが神を信じるのだ! 信じる者は救われる! 神の御姿は空になった酒樽の底にこそおわす!!」

空になったジョッキの底にあるのは虚無と次の一杯への渇望じゃないですかね。さて、第二層からは他プレイヤーとの合流が出来るわけだが………待ち合わせの場所は先に一層をクリアしていたレイ氏が指定した酒場だ。ええと、虎の顔を象った看板を掲げた……ああ、あれか。

「おーい、レイ氏い……………………る?」

「あ、えと、その、もう少し距離を…………」

「そんなこと仰らないでレイ様ぁ〜……」

「そうですよレイ様っ」

「レイ様、素敵なお人………」

「あ、サンラク君………」

「……うん、お邪魔したようで」

「ち、違いますっ! 違うんですよく分からないけどごめんなさい!!」

……

…………

………………

要するに、信奉パラメータにポイントを振りまくった俺の軍団が狂信者だらけのカルト軍団になったように。

路地裏の哀れな女達を助け、愛嬌にポイントを振ったレイ氏の軍団は…………あー、なんというかドロドロの蜜が滴る百合の花束のような軍団になったと。

「なんていうか……うん、」

「違うんですっ! いえその、狙ってやったわけじゃなくて!! と、途中から男のNPCがどんどん抜けていって………」

抜けていって(・・・・・・) 、ねぇ………男アバターである俺に向けられた射殺さんばかりの視線、明らかにそういうことですよね。意図してそういうパラメータにしたわけじゃないとは思うが………いや本当にそうだろうか、玲さんの評判くらいは耳に入っている。中学の頃から誰かと付き合ったなんて話は聞いたことないし実はそっち系だったとか? ほら、得間さんとかずっと仲良しだし…………そういうことだったのか……?

「まだ、う……疑ってませんか?」

「いえ、そんなことは」

「目が疑惑のそれですっ!!」

しまった、表情は誤魔化せても目まで誤魔化すのは難しい。

「いや別に今のご時世ならそんな珍しいもんでも───」

「違います! から! 私は、私はちゃんと殿方が 好きです(・・・・) ! 好きなんです(・・・・・・) !! 好(す) …………………すっ!!?!?!?」

ズゴン!!!!

「レイ氏!!?」

まるでいきなり酔いつぶれたように顔を机に叩きつけたまま動かなくなったレイ氏にこちらも動揺を隠しきれない。いや確かに俺も相当不躾だったかもしれないが…………

「あ、あの……大丈夫?」

「だいじょうぶれす………ちょと、ふるだいぶしすてむのちょうしがわるいみたいで、なんだかそのごにょごにょ……」

「なんて? というか……ええと、調子が悪いようなら一度ログアウトしても……」

「………………三十秒ください」

「お、おう」

三十秒経過………あ゛? いつまで睨んでんだやる気かスケープゴート共、ボス戦に紛れて偶然フレンドリーファイアすっぞコラ。カモン教信者達、彼女達に布教して差し上げろ。

ジョッキ頭とヤンデレガールズがじりじりと緊張を高める中、三十秒間頭を机に押し付け続けていたレイ氏が顔を上げる。

「あのー…………」

「大丈夫です、何も問題はありません。ええ、とても心穏やかな気分です」

「……本当に大丈夫? 別に無理してゲームする必要はないんだぜ?」

「ははは、ご冗談を」

やばい、本格的にレイ氏がバグった。