軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未知が未解に変わる意味

「ぜぇ……ぜぇ……」

全速力のダッシュで間に合った学校のホームルームを未だ荒れた息で受け流しつつ……「まさか朝食を放置はしないわよね?」と圧をかけられたので無理やり胃に詰め込んだトーストが脇腹へDoTを与えている。

まさかパン咥えて遅刻間際の登校なんてコッテコテの展開を自分でやる事になるとは思わなかった……小学生の頃に発見していた抜け道を思い出さなかったら二分短縮できなくて遅刻確定だったな、大胆なチャート変更こそRTAの醍醐味とは誰の言葉だったか……しかし暑い、近くの席の人に一応確認とるか。

「……窓開けていい?」

「……私のこの完全防寒を見て同じことを言えるなら背中にドライアイス入れてあげるけど」

「ウィッス」

席替えしてぇなぁ……

強行すると寒がりな 厚木(あつぎ) さんの逆鱗に触れかねないので外気による冷却は諦める。なんかもう、苗字からして寒がりを宿命づけられたような人だ……本人柔道部でめっちゃ体格良いのに、ていうか暖房効いてるのに何故そんな完全防寒を。

「ふぅー………」

まぁいい、間に合ったならそれでよしとしよう。

ホームルームなんて話半分に流して思考に没入するための時間だ、今の俺の脳内一面を飾るのはやはりシャングリラ・フロンティアだ。正直次の二面に書かれた「幕末、アップデートパッチで新たなバグ発生!」も気になるが……多分そのうち天誅のバリエーションに組み込まれそうなので後で調べておこう。

まぁぶっちゃけ、先に済ませただけで本来の目的はサイナの感情アップデートではない。本命はオルケストラ攻略、そのための情報収集だ。

なので刻一刻とタイムリミットが迫る中で俺は遂に問いかけたのだ。オルケストラの「 歌姫(アリア) 、楽団を率いるあの女……アンドリュー・ジッタードールと同じ姓を持つエリーゼ・ジッタードールについて!

だが返ってきた返答は俺の予想とは少々違う方向のものだった。

………………

…………

……

『エリーゼ……どこでその名を?』

「ちょっとな」

感情の検証と言って何故かエムルを借りて行ったサイナも気になるが、今はこっちが優先だ。俺の口から飛び出した単語にアンドリューが僅かに目を細める。

『ふむ…………いや、いいだろう。アンサーコード・トーカーとしても、アンドリュー・ジッタードールとしても別に秘匿するべきものでもない』

む、意外だな。ユニークシナリオEXの根幹に関わる単語だ、もっと勿体ぶるとばかり思っていたのだが。

『エリーゼ・ジッタードール、私の叔母だ』

「……思ってたより近い血縁だったな」

『とはいえ、私が10になる前には死んでいたがね……急性アルコール中毒で』

「いや生々しいわ」

仮にもファンタジーを売りにしてるゲームで出ちゃいけない単語だろ!!

『何故君の口からその単語が出てきたのか不思議でならないが……答えよう。彼女は私の叔母であり、生前は小規模なライブを開く程度の面白みもない女だった』

「幼い頃に死んだ割には詳しいんだな」

『僅かな好奇心でも答えを出さなければ気が済まなかった幼少でね。まぁ尤も、彼女の存在が私という存在の5%程度に影響しているのも事実だが』

「詳細を聞いても?」

『私がシュテルンブルームに出会うきっかけとなった歌を歌っていただけだ』

曰く、シュテルンブルームは控えめに表現しても神なので過去の存在となった当時も彼女達の曲をカバーする者は結構いたらしい。で、エリーゼ・ジッタードールもその中の一人であり、場末の酒場みたいな娯楽施設で歌っていたレパートリーの中にシュテルンブルームの曲があったとか。

『その曲こそがシュテルンブルームが発表した数百曲の中でも私が特に推す曲であり……当時は感銘を受けたものだ』

その後本家のオリジナルを聞いて人生がひっくり返ったそうで。あーはいさいでっか。

「……それだけ?」

『それだけだが。極々稀に幼い頃を懐かしんで聞き直したくなることもあるがそれだけだ、何を期待しているのかは不明だが私にとってのエリーゼ・ジッタードールとはそういう存在だ』

「それだけ……か」

『……ただ、まぁ。シュテルンブルームには遠く及ばないが僅かながらでもファンを抱えていた事に納得はできる、と言ったところか』

…………まさか、ここまで来てハズレ引いた? 聞いてる限りエリーゼ・ジッタードールはマジモンのモブキャラだ、はじめてのぼうけんで倒した雑魚モンスターとかそこら辺レベルのモブだ。

つまりオルケストラというユニークモンスターの攻略においてはエリーゼ・ジッタードールはただのフェイクなのか? あくまでもガワが使われているだけの……いや、まだだ。

「よし、じゃあ次の質問だ。これに見覚えは?」

『これは……』

「神代製の音楽再生機、これに見覚えはあったりしないか」

さぁどうだ、これも無関係ならマジで八方塞がりだ。

スクショで撮影できないのは出現したエリーゼや再現体だけだ。音楽プレーヤーそのものは戦闘開始前ならハッキリとした姿を撮影できる。

果たしてアンドリューの反応は、僅かな思考の後に目を驚きで見開くというもの……来たか!

『驚いたな、これは私の音楽プレーヤーだ』

「ほう」

『丁度……そう、エリーゼ・ジッタードールの葬儀を終えた後に彼女のファンを名乗る男からプレーヤー本体ごと譲り受けたものだ。失くしたものと思っていたが……いや、何故現存している?』

「征服人形が回収してたんだよ、まぁなんか本来の用途とは別な感じにアレだけど」

具体的に言うと世界そのものを侵食するタイプの何かになってますけど。

『いや……そう言う問題ではない。「蒐集」計画において回収対象となるものは全て征服人形の手で保存されるが……それは蒐集対象が「元々そのように設計された」からだ』

「……ええと?」

『その音楽プレーヤーは人類種が星の海に船出する 以前(・・) に作られ、そして千年単位の経年劣化を防ぐ保存加工を施す「前」に紛失したものだ。何故原型を留めている?』

……

…………

………………

「俺が知るかよ………」

それが知りたくて来たんじゃろがい! としか言いようのない結果に終わったベヒーモス攻略。さてこれからどうしたものか。