軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

刹那に想いを込めて 其の十四

サンラクが墓守のウェザエモンの対処を再開し、逆に離脱したオイカッツォが自分の相対する それ(・・) を見た第一印象は「足の生えたダンプカー」ではあったが、改めてその全容を見た上で抱いた感想は「跳ね回る戦車」であった。

墓守のウェザエモンの纏う鎧のカラーリングに合うようデザインされているのか、主人の甲冑と同じ白と黒の鋼鉄の体躯は見上げるほどに巨大で、装甲の隙間にはそれこそダンプカーのタイヤを思わせる人工筋肉と思しきチューブの束が見える。

キャバリー・クライシスでゲーム内限定とはいえ乗馬に心得のあるプロゲーマーとと言えども、乗りこなすとかそういう事を考える以前の問題として「どう乗れと?」と言わざるを得ない。

「これがミサイルやレーザーを撒き散らしながらエリア中を走り回る?」

「私の人生の中でもぶっ飛ばされるボウリングのピンの気持ちを体験したのは稀有だと思うよ」

そりゃそうだ、と溢しつつもオイカッツォは動き出さんとする巨大な機械馬……騏驎を観察する。

「サンラクが粘ってるのに、俺だけ残機回復要員なんてあり得ないよねぇ……! あった、搭乗口!」

駆け出す先は騏驎の後脚。大雑把にSF要素を入れた十把一絡げのゲームではなく、狂気じみたレベルで設定が練られ、それを完全に再現しきった上でゲーム性も両立させたゲームだからこそ、設定を崩さない範囲で攻略のためのヒントを作るとしたなら、何を設置するのか。オイカッツォの予想は的中し、見つけ出した整備員用のはしご。

サンラクが諸事情で技量などにステータスを振らざるを得なかった為に、ポイント振りの結果サンラクとほぼ同速を得たオイカッツォは麒麟の眼がサンラクを捉えるよりも先に、その背へと登り切る。

「馬には轡が必要だよねぇ……? 縄傀儡【蛇】!」

オイカッツォが確実に成功させる為に口に出したスキルは 修行僧(モンク) のものではない。縄と僅かばかりの魔法を頼りに未知を暴き、叡智を探し求める探求者……考古学者のスキルである。

スキルによって生きた蛇のような動きで騏驎の首に巻きついた縄を強く握りしめ、さながら馬に轡を取り付けたかのような状態となる。

「まさか 副業(サブジョブ) の考古学者をこんな使い方するとは思わなかったよ……キャバリー・クライシス全国三位のテクニックを見せてやるよ暴れ馬っ!」

地響きと轟音の嗎をゴング代わりに、オイカッツォの長い長いロデオが始まる。

対価の天秤。

それはNPCが運営する商会である「黄金の天秤商会」が所有するユニークアイテムである。

レベル99に到達したプレイヤーとして、様々なユニークを見てきたペンシルゴンをして「ぶっ壊れ」と評さざるを得ない破格のアイテム。

「おいおい、総計3000万マーニ分のアイテム叩き込んでまだ行けますって? とんだ大飯食らいさんめ」

ペンシルゴンがこれまでのプレイで集めたアイテム、更にはトレードや売買の結果集めた高額アイテム、全て合わせて時価3000万マーニという大量のアイテムを左皿にデータとして載せた天秤は、当然ながら左皿が地に付くほどに傾いている。

「レートは10万で1ポイント、頼むよ天秤ちゃん……『天秤は均衡を保つ、価値を数値に、万夫不当の力を』! だったよね?」

ユニークアイテム特有の、設定に忠実すぎが故の面倒くささ……例えば用途毎に用意された呪文。ペンシルゴンはこの盤面において切り札となりうる効果を発動させる。

ユニークアイテム「対価の天秤」。

NPC商会「黄金の天秤商会」が商売の象徴として秘していたユニークアイテム。

左皿……「捧げの皿」にアイテムを投入することで、その 価値(・・) に応じて右皿……「恵みの皿」から様々な恩恵を得ることができる。

それは単純に左皿に乗せたアイテムを売却した場合の金額と同価値の金貨であったり……一時的という大きな制限こそあるもののレベル上限を超えた数値の ステータスポイント(・・・・・・・・・) を付与するものであったり。

「私の全財産、追加ステータスポイント。合計300ポイント……持ってけ泥棒!」

ペンシルゴンの眼前に表示された二つのウィンドウ。タフネスに特化した格闘タイプのそれと、何がしたいのかわからない技量と幸運に特化した変態タイプのそれに、先駆けとして50ポイントずつが叩き込まれる。

「おおお!?」

突如として墓守のウェザエモンが放つ攻撃がスローになった。そんな勘違いをしてしまうほどの感覚のズレに、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。だが、すぐさまそれは違うということに気づく。

「ご大層な準備はこれか……っ!」

先程までと比べて格段に思い通りに動く身体で墓守のウェザエモンの太刀を避ける。直後、さらに身体の内側から軽く叩かれたような衝撃と共に、息切れの感覚が消える。

「袈裟斬り、斬り上げ、回転斬り」

一歩横にステップで袈裟斬りを避け、湖沼の短剣【改二】を用いて斬り上げをパリィ、三歩跳び下がって回転斬りの範囲から逃れる。攻撃が止まった一瞬に一気に肉薄し、右の短剣を用いてドリルピアッサー起動。狙うのは胴体でも顔でもない

「一点狙い!」

青い水晶体のような、一見すればすぐに割れてしまいそうな太刀を握る手……指だ。より荒々しさを増した螺旋エフェクトが回転斬りの終了モーションで固まった墓守のウェザエモンの指を撫でるように斬りつけ、多段ヒットが弾ける。

確かに墓守のウェザエモンは硬い、普通に攻撃していては帝蜂双剣のように耐久をあっという間に切らしてしまう。だが、頑丈な甲冑を持つモンスターの弱点はな、古来より関節と末端って相場が決まってるんだよ!

俺の攻撃を後押しするように身体に力が満ち、湖沼の短剣【改二】は確かに墓守のウェザエモンの指を削る。だが足りない、螺旋のエフェクトが解けてスキルの終了を告げる。

あと一歩、あと少しで緩みかけた太刀を握る手が開かれるのだ。どうすればいい? こうすればいい。左手の短剣を上へと放り投げ、さらに一歩踏み込みインファイト起動。左手に纏うエフェクトは幸運の光、74という数値が補正を受けてダメージへと換算され、緩みかけた墓守のウェザエモンの指……ではなく、刀の柄を叩き据える。

「ハンド・オブ・フォーチュン!」

すっぽ抜けるように墓守のウェザエモンの手から太刀が離れ、遠くへと飛んでいく。墓守のウェザエモンが反応するよりも早く、俺は落ちてきた短剣をキャッチ&インベントリに叩き込みつつ地面に突き立ったウェザエモンの太刀を確保する。

「はっはぁ! 剣を持たない剣士などルーのないカレーと同義! ざまぁみろ白米野郎!」

分かってはいたがアイテムとしてインベントリに入れることは出来ないか。手から伝わる重さは、これを振るう資格が……この大剣にしか思えない大太刀を振るうに足るステータスを俺が持ってない事を伝えてくる。

だが、別に俺はこの刀を求めて吹っ飛ばしたわけじゃない。戦利品はドロップしてからだ。刀を失った墓守のウェザエモン、あの厄介な超速居合も、落雷も封じることが出来たのは大きい。さぁここからが第二ラウンド、お前が素手で出来ることなど精々あの雲の腕による範囲攻撃程度……

「 大時化(オオシケ) 」

「らぁぁいす!?」

ナメてた! 白米パワーナメてた! 畜生さすがは主食の貫禄と言うべきか……いや落ち着け、白米パワーってなんだよ。

今の俺がベストステップとスケートフットを同時に発動したとしても、同じ速度が出せるかどうか怪しい程の急接近から放たれた 掴み攻撃(・・・・) 。あの大きく開かれた掌に掴まれればどうなるのかは考えるまでもないだろう。投げ飛ばすどころか力を込められただけで多分死ぬ。初見で避けられたのは幸運だった、だが位置が良くない。

「…………」

「…………」

「…………」

騏驎とオイカッツォが轟音ロデオを繰り広げている中、三者の沈黙が広がる。不味い、避けるのに手一杯でペンシルゴンの近くまで来てしまった。

「 大(オオ) ……」

「うへぇ!」

「やっぱりかよ!」

こう言う時のやって欲しくない事、というのはほぼ確実にやってくれるのが強敵の優しさだ……そんな優しさなんてゴミ箱に捨てておけ。

ターゲットをペンシルゴンに変更した墓守のウェザエモンの掴み攻撃を、無理矢理振り回したウェザエモンの太刀で背中を斬りつけることでヘイトを奪い取れないか試みる。どうだ、舐めプじみたカスダメだが自分の武器で背中を斬られた訳だ、それでもペンシルゴンを狙うか……?

「…… 時化(シケ) 」

「うぐぉ!」

喉への衝撃、そして全身を包む浮遊感……くそ、掴まれた。いやだがペンシルゴンが離脱する時間を稼げたならこれが正か……

「うべ!!?」

あまりに一瞬のうちに世界が反転し、世界が暗転し、世界が明転する。最後は蘇生されたものとして、もしかしてあの一瞬で投げられて頭から地面に叩きつけられたのか?

くそ、全力稼働している洗濯機の中に放り込まれて洗濯機ごとプレスで潰された気分だ。ペンシルゴンが離脱しながらも投げた再誕の涙珠によって蘇生されながら、俺は距離を離す。

「刀持たせてた方がまだ対処できるか……」

リーチは短くなるがその分剣を振るより早いタイミングで掴まれるのは、ただでさえ付け焼き刃の対処をさらに見直さなくてはならなくなる。必死こいて構築した攻略チャートを崩してもう一度組み立て直せとか、心が折れる。

「やってやるよ、命懸けのチャンバラと洒落込もうじゃないか……! ってそれただの殺し合いだな」

「 断風(タチカゼ) 」

「つぁぁあい!!」

なんて殺意の高い 突っ込み(ツッコミ) だ、俺じゃなけりゃ死んでるぜ。

未だ止まぬ地響きはオイカッツォがロデオを続けているという証左、ここで俺がへばっちゃ末代まで煽られる。

「んんんんああああああああ!?」

戦術機馬【騏驎】の上に乗ることに成功したオイカッツォではあったが、その数秒後に自身の下準備が無駄であったことを悟ることとなった。

「カ、カッツォ君大丈夫!?」

「だだいじょわぁぁぁぁ!!」

「え、何語?」

固定具を使わずにジェットコースターにしがみつくような、もはや振り落とされるとかそういう次元ではない。例えるなら幼子が振り回す人形になった気分とでもいうべきか、乗りこなすなど以ての外、ただ振り落とされないように縄にしがみつくことしかできない。

(やばっ……遠心力が……っ!)

左へ放り投げられたと思った直後に凄まじい勢いで右側へと吹き飛ばされ、かろうじて騏驎の背に復帰したかと思えば今度は真上へ跳ね上げられてその状態で振り回される。

そしてなにより騏驎の背への着地に失敗する度にダメージが入るため、ただしがみついていればいいというものでもない。ペンシルゴンからあらかじめ渡されていた 再生(リジェネ) 効果を付与するアイテムを使用していなければさらに死亡回数を増やしていただろう。

(ただで、さえ……2デスしてるんだ。サンラクと違ってこっちは1デスでも致命傷になりかねない)

ペンシルゴンが即座に蘇生しているからこそなんとかなっているが、十秒以上騏驎を放置すれば、待っているのはあの大質量がフィールド中を暴れ回る混沌である。

シェイクされる視界の中で、それでも縄を離さないオイカッツォはどうにかして騏驎の動きに対応できないものかと思考をフル回転させる。

(クソ、こういうのはサンラクの得意分野だってのにさ……!)

オイカッツォ……プロゲーマー魚臣 慧はそのプレイスタイルからよく勘違いされるが、その実態はガチガチの理論派である。相手の情報を可能な限り集めた上で「この場合何をするか」「どう追い込めばこの技を出すのか」「それに対してどう行動するのが最善手か」を予め考えてから実戦でそれを当てはめていく……「とりあえず突撃」からその場で作戦を構築するどこぞの悪食鳥頭とは真逆のタイプなのだ。

その点、今回の墓守のウェザエモン攻略はオイカッツォにとっては非常に相性の悪いものであった。

情報自体がオイカッツォの満足がいくほど充実していない上に、その特性上リハーサル無しのぶっつけ本番。

(どうする……こうも大暴れするとはね、姿勢制御なんて無理ゲーじゃない……?)

やたらめったらに振り回されるヨーヨーの気分だ。このままではそう遠くないうちに縄、考古学者が使用できる武器「ロープ」の耐久力が限界を迎える。

「あいたぁ!」

と、腰を騏驎の首に強く叩き据えられた瞬間、オイカッツォは天啓を得る。

(……ああそうか、俺自身が踏ん張りきれないから振り回されるわけで)

天秤が輝き、縄が踊り、半裸が舞うフィールド。墓守のウェザエモン挑戦から二十分経過まで、あと二分。