軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

刹那に想いを込めて 其の十二

エムルさんまじかっけーっすわー、叡智とプリティーと強さを兼ね備えたパーフェクトバニーですわー

明らかに適当な褒め言葉だったのだが、頭の上でスライム兎と化したエムルを載せつつ、俺は兎御殿を進む。

「チョロエムルさん、ほら起きて起きて。お前のおとーちゃんに会いに行くんだぞー」

「ふぇへへへ…………はっ!」

正気になったエムルを下ろし、ヴァッシュがいる大部屋へと入る。

「おう、おめぇかい」

「うっす、いよいよ今晩です故一言ご挨拶にと」

こういう細かな心遣いはギャルゲーの基本だ、選択肢一つがルート分岐になりかねないからな。

訪れた俺に対して、ヴァッシュは一つ頷くと口を開く。

「成る程なぁ、いい面構えじゃあねぇかい……だったらぁよう、 俺等(おいら) ぁから言えるこたぁ一つだけだ」

「…………」

「ヴォーパル魂を忘れんなよう」

「押忍!」

この場でヴォーパル魂ってなんですか、とか聞いたらぶち殺されそう。

いや、それは冗談だがなんとなくニュアンスで理解はしている、それで十分なのだろう。

「では、失礼しやす」

「おう、頑張りな」

ヴァッシュに頭を下げて、部屋を出る。

装備よし、コミュニケーションよし、アイテムよし。さて……これで大体やるべき事はやったか、あとは イベントスキップ(夜まで寝る) だけか。

ログアウトしておやすみなさい……

睡眠イベントなんてスキップだスキップ!

晩……というよりもう夜だな。目を覚ました俺は風呂に入ってさっぱりした後、決戦前最後のリアルでの準備を整える。自室のドアに「重要局面につき明日朝まで面会謝絶」の紙を貼っておき、用意した諸々のうち、英語表記のそれのプルタブを開ける。

フルダイブVRではあまり推奨されていない裏技なのだが、カフェインを摂取してからフルダイブVRをプレイすると、ゲーム内でのパフォーマンスが上がる。

その代わり通常よりも多めの疲労感を感じるため、多用はできない裏技ではあるが今使わずしていつ使うというのか。

「うふふへへへ……今日のために取り寄せたメリケン産のエナジードリンクぅ……日本のやつよりエグいが、効くねぇ」

若干残る眠気を叩き潰すようなカフェインパワーに口の端が不気味に歪んでしまう。来てる来てる、全身にカフェインが充填されているぞぉ……?

さらにビタミン剤、栄養食的なクッキー、諸々を詰め込んでエネルギーチャージ完了。言うなれば今の俺はゲージMAXの格ゲーキャラ、まさしくベストコンディションだ。

時間的にそろそろオイカッツォと合流しないとな。

「さぁ、いざ決戦の世界へ……ってな」

ログイン。

俺(楽郎) が 俺(サンラク) に代わり、現実のベッドに横たわった俺がラビッツのベッドから起き上がる。身体は軽く、今なら虚空を飛ぶ蝿すら素手で掴めそうだ。

本格的にカフェインが全身に回るまでは三十分くらいかかるだろう、今はとりあえずオイカッツォと合流だな。

激戦は必至のため、ラビッツに留まるエムルではあるがサードレマまでは送ると言うので、お言葉に甘えることに。

「サンラクサン、サンラクサン」

「ん?」

「墓守のウェザエモンに挑むサンラクサンにこれ、貸してあげるですわ!」

サードレマの裏路地、プレイヤーもそうそう来ることはない小さなスペースに転移した俺とエムル。

別れる前に、そう言ってなにやら小さなネックレスを手渡してくるエムル。よく見れば、ぶら下がっているそれは宝石とか指輪とかそういうものではなく、何かのカケラを金属のフレームで補強したもののようだ。

「これ、おとーちゃんが昔お土産にって持って来たんをネックレスにしてもらったアタシのお守りですわ!」

「ふむ……まぁこれがなくても俺達はウェザエモンに負けないけどな」

がーん! とSEが鳴っていそうなエムルの姿に苦笑を浮かべ、俺はエムルの頭に手を乗せる。

「だがまぁ、ただでさえハイパー無敵な俺がお守りなんか持ったらそりゃあ勝利は確実だ。ありがたく受け取っておくし、ちゃんと返しに徒歩で戻ってくるからよ」

「は、はいな! 頑張ってくださいですわ!」

ぴょこぴょこ跳ねるエムルの声援を受け、俺は親指を立ててサードレマの裏路地から待ち合わせ場所へと駆け出すのだった。

・識別片のネックレス

効果なし。

それは残滓であり、残骸であり、断片であり、欠片である。

それが誰を証明するもので、どこで用いられたものかを知ることはできない。

だがかつてそれは確かにある人物の存在を証明するものであった。

「よう」

「やぁサンラク、ドーピングのほどはどうだい?」

「お前が勧めてきたあのエナジードリンクヤバいな、ありゃ多用するものじゃねーわ」

「だろうね、俺もアメリカのプロゲーマーに勧められてたまに飲むけど常飲しようとは思えないくらいだし」

カフェ「蛇の林檎」で合流し、なるべく人目につかないよう千紫万紅の樹海窟へと向かう俺達。どうやらオイカッツォもベストコンディションのようだ、力み過ぎず緩み過ぎず……まぁ少なくとも緊張で手元が狂うようなタマでもないか。何千の視線を受けてゲームをするプロゲーマーの肝がそんなみみっちいはずもなし、俺達はバレる可能性は低いとは思うが周囲に注意しながら隠しエリア「秘匿の花園」へと入る。

「あ、そうだ。便秘で新バグ技見つかったぞ。ガーキャン挟めばゲージ技でパイルバンカーできる」

「え、まじで!?」

「マジもマジ」

「ガーキャンかぁ……それは考えてなかった、ていうかなんでガーキャンから派生するんだ……?」

俺と全く同じこと言ってやがる。やることがない故に花畑に座り込んで駄弁っていた俺達だったが、彼岸花の花畑のど真ん中に亀裂が走った瞬間、表情を引き締めて立ち上がる。

「……これ、だよね?」

「新月の夜は結界に綻びができる……だったか、こういう感じなのか。なんというかバ……」

「バグってオブジェクト崩壊したみたい、とか馬鹿みたいなこと言わないでよ?」

「……バ、バッカ、俺がこの局面でそんなくだらないシャレ言うわけない……ですわ?」

「目が泳いでるよクソゲーマー」

それは兎も角として、あとは主催たるペンシルゴンを待つだけだ。

俺達が空間に生じた亀裂を眺めていると、洞窟の方から駆け足が聞こえてくる。

「お待たせ!」

「その様子だと……」

「いやぁ、予想以上に抜けるのに手間取ってさ。まさか 最大火力(アタックホルダー) が初手ブッパ決めてくるとは思わなかったよ」

なんと哀れな……あまりいい印象の無い阿修羅会ではあるが、今頃は大変なことになっているのだろう。

グイッとポーションと思しき液体を飲み干したペンシルゴンは、改めて俺とオイカッツォに視線を向ける。

「チャンスは一度きり、失敗すれば……まぁ阿修羅会から袋叩きは確実だね」

「失敗した時のことなんかドブにでも捨てておけ」

「そうとも、俺達は墓守のウェザエモンだなんてご大層な相手に 勝ちに(・・・) 来てるんだ。だったら言う事は一つでしょ?」

俺達は互いを見て不敵な笑みを浮かべ、拳を突き合わせる。

「じゃあ主催者として私が音頭を取りまして…………あのロボ武者野郎をぶっ倒すよ!」

「「おう!」」

拳を離すと同時にペンシルゴンから飛んで来たパーティ申請を受諾、改めて三人一組となった俺達は花園の中心に出来た空間の綻びに飛び込む。

オイカッツォが飛び込み、俺が飛び込み、最後にペンシルゴン。

そして世界は反転する………!

サンラクが飛び込み、自分が飛び込む番となったペンシルゴンは、枯れ果てた……そう、桜の木を見上げる。

満月の光が彼女の姿を浮かび上がらせると言う設定上、新月の今日に彼女の姿を見出す事はできない。だが、それはあくまでも姿だけの話。

「セッちゃん……いや、セツナ」

その存在は確かにこの場所に存在している。恋人の純粋な想いに縛られた彼女は死してなおこの場でずっと待ち続けていた。

偶然と言えばそれまでだ。ただ自分の本名とゲームのNPCの名前が対義語であった、それだけの話だ。だが……否、だからこそペンシルゴンは、 天音 永遠(アーサー・ペンシルゴン) は本気でゲームにのめり込む事を決めたのだ。

「貴女の願い、私が……いいえ、私達が叶えてあげる」

枯れ果てた木は夜風に僅かに枝を揺らすのみ。だがペンシルゴンはそこに一瞬女性の姿を見た。

そしてペンシルゴンは笑みを浮かべ、仲間達が飛び込んだ決戦のフィールドへと自身も飛び込むのだった。

彼らは、酷く消耗していた。今まで誰にも見つかる事のなかった拠点への突如とした襲撃。それも「黒狼」「イン虎会」「午後十時軍」「天ぷら騎士団」という、レイドボス戦でもみないような四クランによるプレイヤー連盟による奇襲は、PKクラン阿修羅会に大混乱を齎した。

否、本来であればある程度の防衛はできていたのだ…… 奴(・) さえいなければ。

「くそっ……くそっ……! あんなのどう考えてもレイドボス相手に使うようなスキルコンボじゃねぇか……!」

特定条件で製作可能なプレイヤーが使役できる数少ないモンスター「ゴーレム」。レベル70相当のそれら十体を 一撃で殲滅(・・・・・) せしめたプレイヤー……サイガ-0。

最大火力(アタックホルダー) の称号が決して介護によるものだけではないという事をまざまざと見せつけられた阿修羅会は総崩れとなり、今ではクランマスターと数人のメンバーがかろうじて離脱に成功したものの、殆どのメンバーはPKK……即ち襲撃者達によって討ち取られてしまった。

「オ、オルスロットさん……どうしますか?」

「……とりあえず秘匿の花園に退避だ。あそこは俺たちしか知らねぇ、癪だがあそこで朝まで隠れるしかねぇだろ」

サードレマなどの大規模マップに逃げ込むのも手ではあるが、どこに襲撃クランの目があるのか分かったものではない以上、それらの目から完全に逃れられる隠しエリア以上に安全な場所はない。

転移と移動を繰り返し、秘匿の花園へと向かいながら阿修羅会クランマスター、オルスロットは考える。

(一体なんでバレた? どこから情報が漏れた……?)

阿修羅会が拠点としていた場所は、15番目の街フィフティシアの隠しエリア「栄光の廃船グローリー・エリス号」、情報屋ですら知り得ない安全地帯をどうやって見つけ出したのか。

考えられる最も高い可能性はやはり内通者。オルスロットの脳裏に一人の女性が思い浮かぶが、彼女もまた襲撃に対して驚愕の表情を浮かべていた。

(……ちょっと待て)

オルスロットの中で単語同士が繋がり始める。

今日はなんの日であるのか。アップデート実施日? 違う、今日は新月であり阿修羅会最大の秘密たるユニークモンスターへの挑戦が可能な日。

ペンシルゴンはどこへ行ったのか? 生き残りによれば襲撃者が雪崩れ込んだ時点でどこかへ駆け出していたというのはわかる。

ペンシルゴンという人物は悔しいが自分よりも優れている。であるならば阿修羅会のみが知る隠しエリアが安全な場所であると当然理解しているはずだ。

であるなら、だとすれば、ひよっとして、まさか、そんな。

仮定が補強され、現実味を発し始める。

足を動かす速度が上がり、気づけばクランメンバーの声すら無視して全速力で秘匿の花園へと走っていた。

「な、あ……………?」

秘匿の花園はオルスロットから見ても幻想的な光景を……いつも通りの光景。だがそこにはいるべきはずの人物は存在せず、 あるはずの入口(・・・・・・・) すらも存在しない。

「あ、が…………」

最悪の予想が、誰よりもアーサー・ペンシルゴン……天音 永遠を知っているが故に、オルスロットは真実へと到達した。してしまった。

嘘か真か「かつてあるゲームで全プレイヤーを支配下に置いていた」……そんなことを嘯いていた 実の姉(・・・) の姿を、雑誌に写る、仕事用の笑顔とは真逆の人を喰ったような嘲笑を幻視する。

「や、やりやがった……」

「オルスロットさん?」

ただこの一瞬のためだけに。

オルスロット達が今晩の墓守のウェザエモンへの挑戦を阻止する、ただそれだけのためだけに。

アーサー・ペンシルゴンは阿修羅会を売り飛ばした。

まさしく正解にたどり着いたオルスロット…… 天音(あまね) 久遠(くおん) は思わずゲームのマナーすら忘れて絶叫する。

「あんのクソ姉御がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」