軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

傭兵稼業は金と(うら)義理?

長い長い廊下を走り抜ける。

敵の船に乗っているということは敵の視点から味方の戦いが見られるということだ。

「おお………」

光が瞬く、愛板氏の放ったレーザーの弾幕がこちら側のテラトン級を貫き、火と電光を撒き散らしながら鋼鉄の巨体が断末魔をあげる。だが反撃としてこちら側から放たれた物質的ミサイルが愛板氏側の……確か二番艦? を叩き割る。この世の終わりのような、しかし退廃と呼ぶにはあまりに血風雷火が激しすぎる戦場の光景に止まりそうになる足を叩いてさらに先へ先へと進んでいく。

「…………妙だな」

ここまで敵NPCと一切遭遇しないっていうのはどういうことだ? 後ろから追ってこないのも謎だが、前を見てもガラス張りの道が無人のままに続くだけだ。追っ手がおらず、待ち受ける敵もいない………俺達を招いている? まさか、なんなら地雷でも仕掛けて廊下ごとふっ飛ばしたほうが楽だろう。だがしばらくして、少なくとも後ろから追っ手が来ない理由だけは判明した。

「………つまり、ウルフが残って足止めをしている?」

「ええ、足にダメージを受けたから……って。一応バトロイドも生き残ったのを一機置いてきたけれど……まぁ、そう長くは保たないでしょうね」

片腕のもげたバトロイド(マチョヶ峰君と比べると若干細身なので細マチョヶ峰君と言うべきか)だけを引き連れて追いついてきたパイソンが、追っ手が来ない理由を俺へ明かした。なるほど、そりゃ急がなきゃいけないだろうな。

「走る速度を上げたほうがいいかな」

「でしょうね、そう長くは保たないのもあるし……その前に撃墜されちゃ流石に未練ね」

既に最終日も半分以上経過している。女王玉座の自爆、そして連日の戦闘で旗艦及び艦隊に甚大なダメージを受けた「ホテルリクモガミ」と「真珠の円匣」は既に戦闘から離脱していると言ってもいいだろう。愛板氏が唆しディアホーンが狙ったのがこれだ、今回の戦いは極論を言えば愛板氏とGカップムネ肉氏の利権争いに端を発する。仮に勝利することで得られる利権のうちの何割かを連合加入の報酬として得られるとしても、自分が死んでしまっては元も子もない。

さらに言えばはした金だとしてもテラトン級は課金有りでも修理に時間がかかる、時間は重課金プレイヤーですら如何しようもない最強の遅延コンテンツだ。課金アイテムで修理時間を短縮しても一週間はかかるとの話だ、他の重課金プレイヤーに狙われれば利権もクソもない。

つまり、ここに至ってGカップムネ肉氏以外の連合傘下プレイヤー達の中でメリットとデメリットの比率が逆転した。簡単に言えば割に合わなくなったのだ。

彼らは恐れている。残り二隻になった愛板艦隊の、その残った二隻……一番艦と三番艦が備える極大兵器の切っ先が向けられることを。初日に縮退砲が防がれたのは防御側が万全の状態だったからだ、今同じことをすれば確実に盾になったテラトン級は破壊されることになる。今やマトモに戦闘しているのは愛板氏とGカップムネ肉氏だけだ、戦闘には参加しないが戦場に留まることで「戦争終了時の残存数として貢献する」という名分を掲げるつもりだろうとは愛板氏の言だ。

「まさかネカマと二人きりで最終決戦とは……」

「いいじゃないネカマ、ネカマには夢が詰まってるのよ」

「否定はしないけどガワが偽装である事実から目を逸らしちゃダメだぞ」

「現実という名のナイフはしまってもらえるかしら? 私は健全なネカマよ」

「けんぜんなねかま」

邪悪なネカマもいるの……? ネカマによる光と闇の戦いが人知れず繰り広げられているとか?

そんなことを考えていると、どうやらボス戦の時間が来たらしい。明らかにこれまでのゲートとは違う装飾に重きが置かれた扉の前にたどり着いた俺たちは、一分程ゲートを調べてセキュリティやロックの類が仕掛けられていないことを確認した。

「不気味なくらいあっさり通すのね……」

「何か言いたいことがあるんじゃないか?」

本気で妨害するのもアリだし、ラスボス的なロールプレイがしたからこそあえて招くのもアリ、それがゲームというものだしプレイヤーの資産力がどれだけあったとしても遊んでいるのは一人の人間なのだからその可能性は十分にあり得る。現に歩き続けた俺達は妨害らしい妨害に一切遭遇することなく………この船の主人の許にたどり着いたのだから。

おそらく船長室、くるりと椅子ごと振り返った一人の男が背もたれに背を預けた余裕の表情で俺達を出迎えた。PN表示があるので間違いなくあれがこの戦争を引き起こしたもう一人、Gカップムネ肉だ。

「ふむ、歓迎しよう侵入者諸君。ここまで辿り着いたことは賞賛に値する」

「無人の廊下を歩けて偉いってか?」

「あなた個人に恨みはないけれど、ここで死んでもらうわGカップさん」

「まぁ待て待て、如何に斜陽気味とはいえこの船のリソースをフルに使えば君たちなどとっくに潰せていたことくらいは分かるだろう。少しくらい話を───」

発砲。だが俺が引いた引き金によって放たれた弾丸は壮年男性の眉間に届くよりも先に見えない何か……いや違う、糸のように細い光の筋によって弾き飛ばされる。

「そりゃ余裕綽々で出迎えるわけだ」

「最終セキュリティ、船長個人のみに防御力を集中させるリモーティングレーザープロテクト「サンクチュアリ」さ。落ち着いたかな?」

「愛板氏、あれどれくらい頑丈なんだ?」

『ライノ君とウルフ君がいないのが痛手だね、君達の手持ち火器じゃ突破できない』

「オープン回線を使いたまえよ愛板、ここまでくれば後はテラトンの馬力対決だ」

『………いいだろう、雑談しながら対戦と洒落込もうじゃないか』

成る程、一理ある。レーザー防御という最強の安置がある以上、俺達は手が出せない。であるならばムキになって攻撃してもリソースの無駄というものだろう。だが本当にそうかな?

「確かにあんたを狙っても埒が明かないな……じゃあこうしようか」

「何を───」

発砲、発砲、発砲。

がしゃん、と肉の詰まったメットが地面に叩きつけられ、俺がノールックで弾丸を叩き込んだパイソンの体はぴくりとも動かない。

「!?」

『………何をしている!?』

「…………なぁGカップムネ肉氏、俺を雇う気はないか?」

波乱は、己の手で巻き起こすものだ。