軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あなたの為のオーケストラ 其の六

メインサーバー「リヴァイアサン」へアクセス、プレイヤー:サンラクのログデータを参照。

隠しパラメータ「歴戦値」を計測、基準値を満たすモンスターデータをロード。

そうして呼び出された三体のモンスターを相手にプレイヤーが駆け回っている中、「オルケストラ」は演算を続行する。

───これまでの戦闘リザルトを計測

───平均値を上回るスコアを算出

─── WM(ワールドマスター) 権限による「 正典(カノン) 」プログラムの使用に問題はないと判断

───MS1申請……認可

───MS2申請……認可

───MS3申請……認可

───SS1.2.3.4.5.7……決議申請

───否、可、可、否、可、可

───結論、「正典」プログラムを実行する

人知れず、「神託」を受けたオルケストラが自らのプログラムを書き換えていく。

英傑(プレイヤー) へ試練を、第四楽章を乗り越えた貴方へ捧げる最終楽章:真。

乗り越えるべきは大敵に非ず。

タネが割れれば難易度が低くなるギミックなんてものはこの世に腐る程存在する。

例えば、おしおきエネミーとレアエネミーの死後夫婦喧嘩に見せかけて実はアメフトとバスケを融合させた新感覚鬼ごっこだったこのユニークだったりな。

「 出る(・・) と分かってんならどうとでもなる」

亡国の悪姫霊からデュラハンの首を奪取し、オーバーヘッドでデュラハンへと叩き込む。謎パワーで頭に誘導され、胴体と首が合体した元首無しの将軍とストロング嫁がラブロマンスを繰り広げ……あー、コーラとポップコーンある? 塩味。雰囲気が甘過ぎて胸焼けしそうだ。

「さて、次はなんだ? リュカオーンか? ジークヴルムか? それとも広げて百足でも出すのか?」

百足はやめて欲しいけどな、流石にあれソロでタイマンは勝ち目が薄い。

再現されたモンスターが消えると同時、オーケストラの演奏もまたピタリと止まる。

騒々しい程に奏でられていた楽器群が静かになった事で、劇場そのものの時間が止まってしまったようにも見える。

『【サンラクの紡いだ物語】………最終楽章』

「これでラスト?」

なんか妙にあっさりとしてんな、いや他のユニークが複雑過ぎるだけって可能性も……んー? いや、まずは目の前の敵をなんとかする事だろう。

今や数十人規模の人型に囲まれた「歌姫」がすっと一歩前に出る。

『ラ───』

その口から放たれた歌詞すらないただの「声」は、しかし根源的な音楽に言葉などいらないと言わんばかりの美しい旋律を奏でる。

『ララ、ラ───』

「む」

見間違いか? 今……いや違う、見間違いじゃない。確かに今、オーケストラを構築する人型が消えたぞ。

そこからは見間違える事などない速さだった。フルート持ちが消える、トランペット持ちが消える、シンバル持ちが消える、消える、消える……何が起きている? 最終楽章だろ、オーケストラが減っていくって……何か悪いフラグを踏んだ? それとも前準備ってだけか?

気づけばオーケストラはもう数えられるほどしか残っていない。チェロ持ちが消えて、クラリネット持ちが消えて、残り五人、四人、三、二……一…………

『───私は観測者』

「何?」

喋った? いや違う、歌詞の一節かこれは。

『───私は歌う、歌う。私は問う、問う。紡ぐ旋律は命の螺旋、叫ぶ歌声は大いなる問いかけ、語る言葉は英傑となる』

言葉としては理解できる、だがその意味を全く理解できない歌声がいつしか「歌姫」だけになった劇場に響く。

「いや……違う」

オーケストラは「歌姫」だけじゃない、一人だけ残っている。「歌姫」の後ろにひっそりと、バイオリニストが一人いる。

何が起きている? 何かが起きていることは分かっている、だがそれが現時点で全くわからない。

『─── 私達(コレ) は、貴方を見ている』

ぞわりと、寒気が走る。慌てて辺りを見回すが依然として客一人いない空席だらけの劇場だ。だというのに、何故こんなにも 視線(・・) を感じる?

『───問いは、比較を経て結論に至る。だから、だから………!』

何かを訴えるように叫ぶ「歌姫」の前へ突き出した右手に光が集まる。まさか攻撃かと身構えたがどうにも様子がおかしい。

光は一点に収束すると、その形をぐにゃりと変えていく。遠目でよく分からないな……武器ではない、あれは……

『───遠く、遠く、根無しの旅人。数多の世界を見つめる数多の眼。ならば貴方は「渡り鳥」………』

あれは、仮面だ。ペストマスクのような嘴を持つ鳥の仮面、だがなんだあれは?

「炎の中に……目?」

本来なら遠目に見えるのはその仮面がちょっと悪趣味な金色である事と、それが発火している事だけのはずだった。

だが、一秒として同じ形に留まらない炎の揺らぎの中に確かに「目」が見えたのだ。

そして、状況はさらに進んでいく。「歌姫」への直接干渉はできない、何度も試した、だから俺はその光景を見ていることしか出来ない。

『…………』

ただ一人残ったバイオリニストの手からバイオリンだけが消失する。それを惜しむ風でもなく、人型はゆっくりと歩き出し……仮面を持った「歌姫」の前で跪く。

『───立ち上がって、私の英傑。そして、歌うことしかできない私に代わって……』

───問いかけて。

それはまるで、騎士が王より剣を授かるような。王が神より権力を授かるような。

絶対的上位者が眷属へと力を齎すように、「歌姫」が生み出した黄金の炎鳥面を恭しく受け取った人型がゆっくりとそれを装着する。直後、人型に異変が起きる。

薄ぼんやりとした輪郭がはっきりとした形を成す。体型も無個性なものから細身な長身へと変わる。

顔は仮面で分からない、だがつるっぱげから髪型すらも変わった人型は…… 黄金の剣(・・・・) を二振り、両手に握り締めて、コロシアム内へ踊り出た それ(・・) は右の剣をこちらへと突きつける構えを取る。

「マジかよオイ」

『…………』

同じステージに降り立ったからこそ、はっきりと見える。黄金の仮面が目を見開いた様を、明らかに二つ以上ある「目」が多彩な瞳で俺ただ一人を見つめる様を。

「プレイヤーの、コピーだと……!?」

【サンラクの紡いだ物語】最終楽章……

『─────「 正典(カノン) : あなたに捧ぐ旋律(ユア・オーケストラ) 」』