軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四人目の到達者

「知らんですわ」

ジークヴルム戦から今に至るまで放置されていたエムル氏は大層ご立腹の様子であった。

「いやいや、たしかに何も言わずに消えたのは悪かった、それは認めよう」

でも悪いのはいきなり拉致ったリヴァイアサンサイドにあると思うんだよね。しかも最初のエリアだけとはいえ、クリアしないと帰れないルルイアス式だったし。

「人参……」

「モノで釣れるほど安い兎じゃないですわっっ!」

今までモノで釣れてた兎が何言ってんだ……と喉元まで出かかった言葉を飲み込み、それなら仕方ないと別方向からのアプローチを始める。

「いやー、それなんだが聞いてくれるかエムル。リヴァイアサンの中じゃ大変でなぁ……」

「………」

「なにせ出てくるゴーレムは雑魚ばかりだが数が多いの何のって。ホラ、俺やサイナは範囲攻撃手段を持ってないわけじゃないが道中で使えるものでもないだろ? アラバはアラバだしもしここにコンスタントに広範囲を巻き込める魔法使いがいたらなぁ、と何度考えたことか!」

ぴく、とロップイヤーが動く。

まぁ実際テクノマギジェルスは対魔力性能高めなのでエムルはいてもいなくても……と言う感じなのだが、世の中には言わんでいい言葉というものもあるのだ。

「それに基本的な移動手段が徒歩に制限されてたからなぁ、転移を使える奴がいればもっと早くクリアできていたのかもしれない……」

ロップイヤーがさらに動く。

わざとらしいくらいの身振り手振りで残念とため息をつくがこれは事実だ。

重力雨や雑魚の殺到から逃げたせいで遠回りしたこともあったし、拠点からノーリスクでやり直せたなら一日は攻略時間を短縮できた。

まぁもう一度再挑戦するとしたら初手「アンツ」でボスエリアまで直行するけど。

「いやぁ、いなくなってから分かるありがたみってやつよなぁ。転移魔法を使いこなし、攻防ともに隙のない今をときめくスーパーヴォーパルバニーがいればなぁ!」

「…………」

「………おや、こんなところにラビッツ産一等級スイーツ人参」

「しっかたないですわ! 許す心も度量のうちですわ!!」

結局モノで釣られるちょろちょろ兎なんだよなぁ……

なんだかんだスカルアヅチの中で隠れながら俺を待っていたらしいエムルが人参をがじがじ齧りながら俺の頭の上に登る。

「んー……普段はともかく戦ってる最中は滑り落ちそうで怖いですわ」

「ぶっちゃけ只のヘルメットだから正眼の鳥面の方が有用だよな」

「サンラクサンはもうちょっと見てくれに気を使うべきですわ」

「最高に激マブなアクセサリーを付けてるだろ?」

この龍角、暗いところでもガンガン光るので照明代わりにもなるのだ。暗闇に隠れていても位置をバラす証明にもなるのでクソだが。

ふとスカルアヅチの窓枠(骨)なら外を見ると、リヴァイアサン行きの重力ぶっ飛ばし式クソロードに殺到するプレイヤー達から少し離れた場所に魚人族達が集まっているのが見えた。

銃カテゴリ解禁とリヴァイアサン解放のドサグサに紛れて人混みを離脱したのやでアラバともそこで別れたが……ま、一期一会も三度繰り返せば顔見知り、四度目もそう遠くはないだろう。

おや、頭一つでかい魚人族がこっちを見たか? 手でも振ってやるか。

「さぁて……なんだか随分と久しぶりに感じるが、ラビッツに行くか」

「はいですわっ」

リヴァイアサンを呼び出した件はセツナからの課題であり、同時にヴァイスアッシュからの課題でもあった。何かしらのイベントが起きても不思議ではないだろう。

それに、それなりに武器の損耗もある。ビィラックのところに行って修復しないとな。

「姉弟子……!!」

「な、なんじゃワレェ!?」

久し振りに行きつけの鍛治師に会いに来たら、そいつが無骨なおっさんに土下座されていた。ちょっと状況が読めなさすぎて浦島太郎的気分になった。浦島太郎……オトギニア……亀甲シールド……玉手箱ボムで無差別老化……うっ、頭が。

「っつーか、イムロン?」

なんでこいつがここに? ツアーじゃ兎御殿には入れない筈、だとすれば……まさか、招待シナリオを自発した?

偶然? いやこいつは 蟲人族(バグマン) の里でディアレと意気投合していた………あの時点で既に見当を付けていたのか? そしてイムロンてめー俺がいるのに土下座を敢行し続けるガッツ……嫌いじゃない。

「サ、サンラク……ワリャの知り合いけ? いきなりわちの工房に押しかけてきて、親父に弟子入りする口利きをと……」

「なにとぞ!」

「あー………まぁ待て、ちょっと落ち着けイムロン。とりあえず頭上げような?」

土下座をやめるつもりはない、と……仕方ないのでエムルを土下座を続けるイムロンの背中に載せてからビィラックへと向き直る。

「え゛、これアタシにどうしろと言うのですわ!?」

「まぁ俺の知ってる限りの情報を言うと……前に同じ素材を渡して鍛治比べするって奴やったろ? その相手がこいつ」

「んん? ………あー、あん剣を作ったやつけぇ」

「そうそう………いや経緯を教えろよ口利きのしようがねーよ」

……

…………

経緯把握中

…………

……

ふむ、とりあえず分かったことがいくつか。

まずイムロンが招待シナリオを発生させたのは事実。ディアレから聞き出したと言うのもあるが、俺やレイ氏が揃って致命武器を持っている事から大凡の条件に当たりをつけていたらしい。

そしてイムロンはジークヴルムシナリオ決戦フェーズの最中、ブロッケントリードを相手に大立ち回りをした事でヴォーパル魂の規定値を満たしたのだという。

そうして意気揚々と「R」の兎の案内でラビッツに招かれたイムロンはディアレやレイ氏の情報、そして何より俺が持ってきた案件からラビッツの「名匠」の元へと乗り込もうとして………… 彼(・) に遭遇した。

そう、最上位職業と最上位職業による奇跡の掛け合わせ。おおよそ武器生産という一点に於いてシャンフロ最高峰と言える「神匠」のジョブを持つヴァッシュだ。

具体的に俺がリヴァイアサンを攻略してる最中に何があったのかは知らないが、語彙力が限界に達したイムロンの話から断片的な情報をまとめ上げた結果、要するに「鍛治風景目撃してマジリスペクト」って事だろうか。

いやどれだけすごかろうとNPCなんだが、と思わなくもないがそこらへんを聞いた途端に早口になったイムロンの話から要点だけを抜き出してみると、要するに「モーションがエモい」という事らしい。

………さっぱり分からん、聞いた上でなお分からん。なので俺も経緯を無視して要点だけで考えることにした。

「つまりヴァッシュの鍛治姿に感銘を受けたイムロンは弟子入りがしたい、だが直接押し掛けるのはあまりに恐れ多いのでビィラック経由で口添えしてもらいたい、と……」

なんだろう……一応結論は出た筈なのに全く納得感がない……頭の中で疑問符が常に踊り続けている気分だ……

「で、そこんとこどうなのビィラック?」

「わちは別に親父の弟子じゃねぇ」

「え、そうなの?」

厳密にはヴァッシュは基本的に自由主義、悪く言えば放任主義なのでビィラックの鍛治技術は基本的に独学、時折ヴァッシュからのアドバイスをもらった結果らしい。

「最近こそよう鍛治をするようになったが、少し前までは工房にすら滅多に入らんじゃった」

メタ視点から言えばプレイヤーの訪問率とかそういう理由なんだろうけど、あえて口に出す必要もなかろう。

「くっ………あのエモモーションはレア光景だったと……!?」

「おい動くなエムルが落ちるだろ」

「むしろ降りたいですわ……」

さてどうしたものか……別に箝口令を敷いてる訳でもないし強いてる訳でもないが……イムロンは生産職のプレイヤーに顔がきく。 甦機装(リ・レガシーウェポン) の情報も速攻で流れてたようだし………いい加減、このシナリオを隠すのも難しくなってきたかなぁ………

「前々から薄々感づいてたけどヴォーパル魂が低くなったプレイヤーが兎御殿にいるとヴァッシュ出現しなくなるっぽいんだよね、人が増えたらエンカ率も下がるかもなぁ……」

「この件は掲示板に流さず黙っておいてあげるから先達としてここでの上手いやり方を教えて」

「とりあえずアタシ降りてもいいですわ?」

俺は悪くないよ、本来秩序の存在である俺の心の中に巣食う邪悪な悪魔(ペンシルゴン、あるいはディープスローターの顔をしている)がゲスな顔して囁いてきたからしょうがないんだよ。