軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

龍よ、龍よ! 其の二十二

「悪いな、殴りやすそうな頬だったもんで」

『ぐ、ぬぉあ……!?』

果たして、夜空を焼いて放たれた憤怒と怨嗟の炎はスカルアヅチを焼くことはなく。ブレスを放つ寸前、ドゥーレッドハウルの頬をクリーンヒットで 殴り飛ばした(・・・・・・) 者によってその狙いは僅かに左へとそらされていた。

それにより怨嗟の炎はギリギリのところでスカルアヅチを外し、何もない虚空を焼くに終わった。

「ドゥーレッドハウル……お前には随分と 同胞(はらから) が世話になった。その礼に参った次第だ」

その手に武器はなく、その「翼」は固く握り締められ、その拳こそがドゥーレッドハウルの頬を打ち抜いた打撃の正体であった。

己の渾身の一撃を外させられた怒りと、虫風情に頬を張られたという屈辱に震えながらドゥーレッドハウルは炎混じりの吐息とともに叫ぶ。

『テメェ……その姿、羽虫がよォ!!』

「 鳥人族(バーディアン) だ、茹だったボケ頭にも分かるよう……殴って覚えさせてやる」

『グロァァァア!!』

ドゥーレッドハウルの奥の手「大噴怨」は単純な超遠距離攻撃であるという点の他に、ドゥーレッドハウル本体を大幅に強化させる効果を持つ。全身に亀裂を走らせ、そこから炎と煙を放ちながら暴れ狂う姿は少し離れた場所でとあるプレイヤーを煽るネタにされているのだが、この鳥人族がそんな事を知る由も無い。

「おい 鶏冠(ヘッド) ! 奴さん、相当お怒りのようだぜェ!? 」

「上等じゃねっスか! ハクジ君、派手にぶちかましちまいましょうよ!!」

「ったく……さっきまで気後れしてた奴らが好い気なモンだ」

人のそれと比べて随分と固いモミジのような手指を使い、激戦の中で若干よれた 鶏冠(トサカ) を両手でピンと真っ直ぐに立てる。

「野郎ども! 俺たちゃ 長老(ジジィ) に任されてここに来たんだ、情けねぇツラァ見せんじゃねーぞ! ブッ込んでくぞオラァ!!」

白い羽に赤い鶏冠、まごう事なきニワトリの鳥人族たる男……「 拳闘鶏(デスペラード) 」ハクジの高らかな声に応える声が響く。

翼を持てど空を飛べず、しかして翼握りしめ拳とする者達……鳥人族達の姿を見ていたプレイヤーの一人がポツリと一言。

「テンションが不良モノ漫画だ……」

謎の赤い 怪物(プレイヤー) が腕を断ち、鶏の鳥人族が真正面から立ち向かう姿に鼓舞されたプレイヤー達が一転攻勢に転じる。

ドゥーレッドハウルがプレイヤー達の神経を逆なでするキャラクターであったことも大きいが、それよりもこの場にいる色竜達の中で一番最初に切り札を切ってしまったことが大きい。

ああも派手にアナウンスまですれば、最終形態として凶悪化するという以上に「大詰め」である事が悟られるというもの。

下手に重箱の隅をつつくと何らかのユニークや隠し要素が飛び出てくるシャンフロである、レイドモンスタークラスの色竜への トドメを刺す事(ラストアタック) の栄誉に何らかの特典があってもおかしくはない。

更には狙われた腹いせかドゥーレッドハウルを攻撃対象に「ダメージアップ」のバフがスカルアヅチから付与された事で、最終形態となりステータスを強化してなお対応しきれない程の物量暴力が赤竜に叩きつけられようとしていた。

「進め進め進めぇーっ! 奴は手札を出し切った! 拠点さえ無事ならどうとでもなる! こちらも出し切れっ!!!」

サイガ-100の叫びが伝播する。大手のトップクランの声に中規模のクランが反応し、さらに小規模のクランも呼応する事で瞬間的にプレイヤー達の意思が統一される。

組織立って統一された魔法に時折個人による魔法が混ざりつつもドゥーレッドハウルに着弾し、巨体が吹き飛ばしたプレイヤーをパーティの仲間あるいは辻斬りの如く無差別に回復するヒーラー達が回復させる。

『ぐぬぁぁぁっ! クソがっ! クソがっ!!』

如何に異形とてドゥーレッドハウルは突き詰めれば四足歩行の獣に近い骨格だ。どうしたところで360度をカバーすることは出来ない、その体力は確実にゼロへと目減りしていく。

『い、嫌だっ! こんな……こんなところでこの俺様が……っ! 俺様がぁぁぁ!!』

「聞いた話では、随分とNPC相手に恨まれているようだなドゥーレッドハウル……であれば、この言葉を送ろう」

剣聖の指揮の元、剣達の劇が始まる。主役一振り、脇役六振り……計七本の 従剣劇(ソーヴァント) が宙を切り裂きながらドゥーレッドハウルへと襲いかかる。

「因果応報だ!!」

スキルの光と、バフの光が入り混じった一撃がドゥーレッドハウルの眉間に叩き込まれ、そして。

『あ、ぁぐが、ぐぼぁ………………』

ドゥーレッドハウルの身体から発せられていた炎が消える、その巨体がびくりと一度だけ痙攣し……崩れ落ちた。

『現時刻を持ちまして、「赤竜ドゥーレッドハウル」の討伐を確認いたしました。ラストアタッカーは「草餅」様です』

わぁ、と歓声が上がる。ようやく一体目の色竜が斃れた事でプレイヤーのみならずNPC達もまた俄然勢いを増す。

気が抜けてしまった為か、小竜に襲われるプレイヤーも幾人かいたが、それでもこの戦場におけるボスの一角が沈んだ事によって戦力の分散が若干ではあるが密集しはじめる。

「やー、長かった! 次はどうしますリーダー……リーダー?」

「ラストアタックを持っていかれた……草餅め」

「「「草餅め……」」」

「ちょっ、いやいやいや! こんなクソみたいな乱戦じゃあラストアタックなんてくじ引きみたいなもんでしょ! 流石に意図してラストアタックは掻っ攫えないって!!」

「ジョークだ、だが色竜の一体は斃れた。 奴(・) の予想が正しければ……」

サイガ-100が見上げた先。そこには黒と、金と、小さな赤が舞う空があり……ドゥーレッドハウルの死によって、いよいよ「決戦フェーズ」の本番がやってこようとしていた。

「……秋津茜っ!」

「任せてくださぁい!!」

光条ではなく、砲弾の如きブレスを回避し、すかさず伸ばされた黄金の手を蹴り弾きながら艶羽朱雀が狐面の忍者を勢いよく投げつける。

「お背中、またお借りします!」

『くかか、律儀な奴め。だが果たして我の動きについてこれるか?』

「わぁあ!?」

「……チッ」

翼を大きく広げた姿勢は、大きく羽ばたかんとする予備動作。ノワルリンドという火力をぶつけるための足止めを役目とする以上、その動きを見過ごすことは出来ない。思わず舌打ちしながらも、ルストは己を包む機械の鳥へと語りかける。

「朱雀! やるよ!!」

『了解、「 荒羽々焚(アラハバタキ) 」起動シマス』

意思と声を引き金に、朱雀を朱雀たらしめる機構が動き始める。

火を噴く鋼の翼、しかして通常時はメインのブースターのみを稼動させる筈のそれ。しかし「荒羽々焚」は普段稼働させていない数百に及ぶ 鋼の羽毛(サブブースター) 全てを起動させることで文字通り「炎の大翼」を作り出す。

『おぉ、これは……っ!!』

「……大人しくしてもらう!」

人と鋼の獣を縦横無尽に飛ばすだけの推進力を生み出す炎を攻撃へと転換した特殊機構「荒羽々焚」。

猛禽の如く翼を広げた艶羽朱雀がジークヴルムへと突撃する。回避を取ろうとするジークヴルムであったが、地上からその姿を観測して 合わせた(・・・・) 狙撃が叩き込まれる。

「火は、先端が一番熱い……っ!!」

『グォオ!!』

轟と唸りを上げて振るわれた翼は刃の如く。炎翼の先端がジークヴルムの首を断つかのように振るわれ、その火力に黄金が僅かに呻く。

「ま、だ……!!」

ルストの 意思(無茶) に応えた朱雀の翼が左右真逆を向いて火を噴く。本来はそれなりの距離を経て反転するところを無理やりその場でスピンした炎翼が連続でジークヴルムを叩く。

「ちょっ、熱いですって!!」

「気合いで避けて」

「き、きあい!!」

『おぉ、遠き日の炎。人の叡智によって生まれし力! 良いぞ、もっと我にその輝きを見せてみろ!!』

「く……!!」

爪牙を避け、鞭の如き尾を避け、連続で放たれた単発ブレスの一発のみを炎翼で防御しつつルストは苦々しげな顔を機殻の下で浮かべる。

「荒羽々焚」は確かに強力だ。だが同時に強力過ぎて操縦の難易度が上がってもいたのだ。

「……成る程、確かにこれは「壁のシミ」にもなりかね、ない……っ」

よくサンラクがぼやく「過剰伝達」もこのような感じなのだろうか、と考えながらもルストは機体への負荷を割り切りながらジークヴルムへと攻撃を叩き込んでいく。

ダメージは極論必要ない、ジークヴルムをその場に押しとどめるだけのノックバックさえあればいい。

ドゥーレッドハウルが倒れたのは、丁度その時だった。

『───む』

ジークヴルムの動きが止まる、人型とはいえ龍として相応に長い首を下に向け………

『隙を……見せたな!!』

『ぬぉっ』

「あれこれわたしも巻き込まぁぁぁぁあ……!!」

「ちょ───、ああもう!」

上空より奇襲を仕掛けたノワルリンドの 顎(あぎと) がジークヴルムへと食らいつき、そのまま大地へと引きずり込んでいく。

そしてジークヴルムにしがみついているが故に一緒に落ちていった秋津茜の遠ざかる声に、ルストもまた大地へと翼をはためかせるのだった。