軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Side15:ウラカタスタンバイ

何もかも確定した未来など、面白みの欠片もない。故にこそ、いきなり八日後にイベントがあると告知されたとしてもアーサー・ペンシルゴンは慌てる事なく現状で遂行可能な作業に取り掛かる。

「モモちゃーん、力貸してぇ」

「……また何か企んでるだろう」

「イムロンちゃんに会いに行きたいから 蟲人族(バグマン) の里まで行こうぜ?」

「よし分かった、あと二人欲しいな」

「あ、自分空いてるよ。夜勤で帰るまでの間にクランメンバーが狩りに行っちゃってさぁ、ははは……」

「蟲人族の里か、であればウチのセートを入れてやってはくれまいかね? マッピングさせておきたい」

そんな訳で、アーサー・ペンシルゴンをパーティ主としてサイガ-100、カローシスUQ、セートという中々のドリームパーティを結成したペンシルゴンは、すぐさま行動を開始する。

「あー、ちょっち待ってね」

掲示板を開き、シャンフロ料理情報交換掲示板を選択。簡潔に「この前見かけたサラダのレシピを覚えてる人いる?」と書き込んで掲示板を閉じる。

無論、今この瞬間に突然料理趣味に目覚めた訳ではない。シャンフロにて情報屋ロールプレイを好んで行う者は、得てして暗号や符号というものを使いたがる。

今現在水面下で進められているとある「計画」に関わる情報屋ゼニス・ゲバラは特定の掲示板に特定の文章を書き込む事を符号としている。

合図は送った、ゼニス・ゲバラと超農民へ 生産(・・) の要請を送り終えたペンシルゴンは掲示板ウィンドウを閉じると何事もなかったかのように臨時のパーティメンバー達へと笑顔で振り向く。

「それじゃ、最短距離でいこっか!!」

目の前であからさまに怪しいアクションを見せられた三人ではあったが、追及したところではぐらかされると理解しているので特に何か言うこともなく出発するのだった。

◇◇

健康を履き違えた 上司(ハゲ) の介護を終えれば、楽しいゲームの時間が待っている。

時代の変遷ゆえか最近ではその数をめっきり減らしたパンタグラフ付きの電車の中、一人のキャリアウーマンが心ここに在らずと言った様子で呆けていた。

(剣……槍……いいえ、やっぱり剣ね。シンプルイズベスト、王道の中にこそ技が見えるものよ)

彼女の名は 隻口(セキグチ) 留華(リュウカ) 、よく勘違いされるが「ルカ」ではなく「リュウカ」である。

そしてまたの名を「イムロン」。社会の荒波より浮上し、帰還の最中であった。

「双剣がメインって話だけど、直剣も使えるって話よね……花形武器種ね」

留華の脳内では曖昧なイメージがいくつも浮かんでは消え、泡のように浮かぶイメージの中である程度固まった「案」を暫くこねくり回しては、溜息をつきながら脳内で叩き割る。

「駄目ね……例の鍛冶師に勝つには凡庸すぎる」

留華はその存在についてのほとんどを知らない。知っているのは、その存在がヴォーパルバニーであるということともう一つ、イムロンのプライドを酷く揺さぶる武器の数々を作った者であるという事だ。

事の発端は表情の抜け落ちた顔(覆面なので雰囲気?)でやってきた半裸のプレイヤーのとある申し出だった。

「な、なにこれ……」

「 帝晶双蠍(アレクサンド・スコーピオン) の素材、これでなんか作ってくれ……」

「水晶群蠍……じゃない、亜種? やっば、なにこのリソース……」

「直剣、片手剣、双剣……まぁどれか作ってくれ、それじゃあよろしく頼んます……」

「えっ、えっ、この双核宝……嘘、リソース500!? 500……ごひゃくぅ!?」

フラフラと去っていくサンラクに声をかけようとしたイムロンであったが、それよりも先に何かを思い出したかのように振り返ったサンラクの言葉が酷く静かに、しかしイムロンの心に業火を放つ。

「あぁそうだ、全く同じ数同じ種類の素材を……これを作ったNPCにも渡すから……」

「……ほほう?」

シャングリラ・フロンティアにおける武器生産システムは大きく分けて四つの要素が重要となる。

一つ目は職業「鍛冶師」専用魔法【 武装鍛造(フォージライズ) 】の熟練度。何をするにしてもこれが大前提であり、最上位職業「名匠」に到達したイムロンは既に【 武装鍛造(フォージライズ) 】を最大値にまで上げきっている。

次に設備の質。これが何気に曲者で、生産職は基本的に施設として存在する共用工房を使用したり、自らの……あるいはクランの資金で建設した自身の工房で武器作成を行う。

しかしながらただ炉を用意すれば良いというものでもない。ビィラックが新たな炉を求めたように、より良い装備はより良い設備に依存する。

三つ目に素材そのものの質。武器作成に使用可能な素材には「リソース」というパラメータが設定されている。これが高ければ高いほど作成した武器に付与する「能力」の自由度と再現度が上がり、さらには素材によっては製作者すら意図せぬ効果も追加で付与されることもある。

尤も、リソースが高い代わりに装備品にデメリット効果を付与する「呪いの素材」もあったりするので、そういった兼ね合いも必要なのだが……サンラクが渡した帝晶双蠍の双核宝のリソースポイントは500、比較対象を挙げるとユザーパードラゴンがドロップするアイテムの中で最もリソースポイントの高い素材が120、アトランティクス・レプノルカの照鏡骨が450、緋色の傷の歴耀古鱗が750である。

余談だが"緋色の傷"の最高レアドロップのリソースポイントは驚異の1000である。

そして最後に……作成者そのもののリアルスキルである。

武器製作モードではいくつかの方法で武器の形状、即ち見た目を決定することができる(あくまでもオンリーワンの武器を作る場合のみ、システム側が設計した武器は自動で見た目が決まる)。

一番簡単なパターンは運営が……厳密にはシステムが用意した見た目をそのまま使う、もしくは若干改造するという方法。

そしてもう一つが完全なマニュアル作成。プレイヤーの思考と実際の手の動きでデザインを決めることができる。イムロンはこちらをよく使う。

イムロンは元来想像力が豊かであり、シャンフロの武器製作システムは彼女にとってこれ以上ないほど理想的なコンテンツ足り得た。

「んー……あ、着いた……ん?」

植物の緑を未だ多く残す都市部より離れた……要するに比較的田舎な駅に到着したアナウンスに正気に戻った留華は立ち上がり……ふと、鞄に繋がれ揺れたそれに視線を向ける。

「演劇超人アクターマン…………そうだ!!」

往年の特撮作品に関連するキーホルダーを見つめていた留華であったが瞬間、電光の如く彼女の脳裏でイメージが浮かび上がり完成する。

「これだっっっ!!」

他に誰もいない電車の中で留華は叫ぶ。シャンフロでは武器の見た目のみならずエフェクトに至るまでをプレイヤーが設定することができる。

しかしながらそれらの設定に必要なコストもまたリソースポイントであり、シャンフロにおける鍛冶とは即ちリソースポイントとの戦いでもあった。

見た目を重視すれば性能が犠牲となり、性能を優先すれば見た目が凡庸になる。

サイガ-100が保有する聖剣エクスカリバーは彼女自身の立場と華々しさもあってか多くのプレイヤーがその存在を見聞きし、そしてまた同時に多くの 贋作(レプリカ) が出回っている。

だがそれらは得てしてリソースポイントを見た目に全振りしているがために派手なだけでただの剣、というのが常であるが……

圧倒的リソースポイントを持つ帝晶双蠍の素材であれば、最強の剣とは言わずとも 留華(イムロン) の想うイメージと、それに相応しいだけの性能を両立できる。

『ドアが閉まります』

「へ? あっ、ちょっ……待って待って待っ、へぶっ!!」

慌てて電車の外へと出ようとして顔を左右から扉に挟まれたキャリアウーマン隻口 留華27歳……

趣味、特撮作品鑑賞。