軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Side13:引き摺り出せ主役

結論から言えば、笑みリアという人物は周囲が思っているほどには恨みつらみを引きずり続ける性格ではない。

ただ、ごめんなさいを言わない者は殴られても仕方がないと、そう考えるだけの女性である。

「ティアプレーテンに城を? 私が?」

「うん、なんか笑みリアさんが陣頭指揮を執って建築するって噂になってるけど」

スカルアヅチにて、笑みリアの耳にフレンドのプレイヤーを経由してその噂が舞い込んできたのは丁度大陸の中央辺りでとある半裸が吹き飛んだ頃であった。

「んー? そんなこと言ったかな……」

はて、と首を傾げながら笑みリアは記憶を手繰り寄せる。「狩り」の最中に舗装された道が欲しい、と言った覚えはあるが流石にスカルアヅチ級の城をもう一度建てる、と言った覚えはない。

尤も、ジュラシックな世界と化した樹海を拓くよりも既に開拓された下地のあるティアプレーテンに城を建てる方が難易度としては低いのも事実だが。

「じゃあやっぱデマ?」

「でしょうね、今のところスカルアヅチ級の城をもう一つ作るつもりとかないですし」

装骨骸城スカルアヅチは笑みリアのみならず、彼女を発端として「新大陸に王城を超える城を作ろうぜ!」と集まった生産職たちの努力の結晶だ。原動力が怒りに基づくものであったとはいえ、元々生産職と回復職を兼任していた笑みリアにも愛着はある。

「とはいえ……ティアプレーテンの発展そのものは割と急務というか……ぶっちゃけここより向こうの方が拠点として有能っぽいんですよね……」

今や城塞都市としての一歩を踏み出した前線拠点ではあるが、天然の城塞としての性能が高いティアプレーテンを強化した方がより安全性が高い事は事実だ。

実際、既に笑みリアの関わらないティアプレーテン建城計画が立てられては自然に消えているのだが、ティアプレーテンが急速に舗装されているのは事実だ。

「まぁ、対ノワルリンド的にスカルアヅチを超える設備を今から作るのは難しいでしょう。何せ私の有給が注ぎ込まれてますからね」

「いつインしてもトンカチ振ってるの軽くホラーだったよねー」

現在のスカルアヅチには重要NPCと言える国王トルヴァンテや王女アーフィリアのみならず、聖女イリステラなども滞在している。だがシステム上におけるスカルアヅチの所有権は笑みリアにあるため、天守閣に入ることが出来るのは笑みリアと彼女と同じパーティに入っているものだけだ。

であるからこそ……

「絶景だねぇ……王族すら見られない景色ってだけで付加価値が上がるねぇコレは」

「こんにちはディプスロさん、以前はどうも……今日は何か話があると聞いたけれど」

「あぁうん、とびっきりの特ダネってやつさぁ……」

にまり、と愛想と不気味さが同居した笑みを浮かべるディープスローターもまた、天守閣を秘密の会談場所として使うことが出来るのだ。

「そっちの方は?」

「あぁ、気にしないで。その……私のリアフレなのでどちらにせよ彼女も知ることになりますから」

「どもー」

「ふぅん……ならいいけどぉ……それじゃ、雰囲気に合わせて声を変えてみようか、どうかな?」

「うーわすげー、本当に声自由に変えれるんだ、イケメンっぽい声じゃん!」

自前の技術たる声替えで関心と好感度を稼ぎつつ、ディープスローターはかねてより撒いてきた種が発芽した確信と共にその情報を 要点だけ(・・・・) 「嘘偽りなく」告げる。

「どうもEXシナリオの影響かは知らないが、ノワルリンド以外の色竜がここを目指している」

ノワルリンド、その単語に空気が張り詰める。

笑みリアはしばらくの間笑顔の表情を微動だにさせず静止していたものの、数秒してようやく表情を動かす。

「……そうですか、何もしないわけにはいきませんね」

「でもどうするんだ? 一体や二体じゃねぇ、確証が取れてるだけでもノワルリンド以外の色竜全てがこっちにきてるぜ?」

「どうやって調べたのそれ?」

「色々と手段があるのさ、尤も喧嘩を売るにはちと強すぎる相手なんで遠目から見てただけだがな」

冷静に考えれば色々と粗の見える理由、しかしディープスローターが培ってきた信頼が笑みリアに疑問を抱かせない。

「極秘の情報を真っ先に自分へ教えてくれた」という好意的解釈が疑念を圧し潰す。それは信頼という美徳であり……油断でもある。

「ノワルリンドは悪いが捕捉できなかった、だからここに来るのか来ないのかは分からない」

これは事実。ディープスローターが用いるランダム転移による前人未到の領域への転送は当然ディープスローターの意思で座標を固定することができない。

巨人達の集落近辺に飛ぶ事もあれば、前線拠点のど真ん中に転移して奇異の目で見られる事もある。そしてなんの偶然か赤、白、緑の三竜とは 接触(・・) できたにも関わらず、黒竜ノワルリンドだけはどれだけランダム転移を行なっても捕捉することができなかったのだ。

もしこの場を、この世界の全てを俯瞰的に見ることが出来る者がいるのならば、とある少女の豪運に感嘆することだろう。

事実、此度の竜災大戦における 不確定要素(ジョーカー) の一つこそ彼女なのだから。

「流石にこれは他のプレイヤーにも伝える必要がありますね、以前のような奇襲をまた食らうのは御免です」

天守閣から下へと降りつつ、三人のプレイヤーは言葉を交わす。

「まぁそのつもりではあったさ、先に伝えておこうと思ってな。俺の見立てじゃ早くて十日くらいで……」

と、

「───いいえ、 八日後です(・・・・・) 」

凛と響く声、天守閣に笑みリア以外のプレイヤーは入れないからこそ、彼女はその下の階にてプレイヤーを引き連れ立っていた。

「……これは聖女様、ご機嫌麗しゅう」

「えぇ、 ディープス(・・・・・) ローターさん(・・・・・・) ……」

初対面の、少なくとも名を告げていないはずの 聖女(NPC) が自身の名を正確に呼んだ事実にディープスローターの表情がほんの一瞬だけ剥がれかけた。が、しかしすぐさま愛想の仮面を付け直して笑みを浮かべる。

「八日後……ですか?」

「えぇ……明確に、とは言い切れませんが……これまで以上にはっきりとした光景が、見えましたから」

NPC「慈愛の聖女イリステラ」の未来予知を思わせる言葉に思わず笑みリア達は目を丸くするが、後ろに控える 聖輝士(ジョゼット) の態度からこれが突飛な発言ではないのだと考えを改める。

「彼らは……来ます。笑みリア様の怒りの根幹たる黒き竜も、そして……黄金の龍王もまた、此処に」

即ち、 何故か(・・・) 最初から死んでいた青竜エルドランザを除く全ての竜が、そしてユニークモンスター「天覇のジークヴルム」が此処に来るということ。

その事実にある者は冷や汗を流し、ある者は笑みを浮かべ……そしてまたある者は聖女へと問いを投げる。

「一体なぜ今になって此処に集まるのですかねぇ聖女様」

「ふふ……ディープスローター様ならば、きっとお分かりでしょう」

「……へぇ」

ぼかした回答、周囲のプレイヤーには分からない、ディープスローターだけに伝わるメッセージ。

思わず地声で声を出したディープスローターは暗い笑みを浮かべるとまたしても愛想の仮面を被る。

「こうしちゃいられないぜ笑みリア、下手すりゃここら一帯が更地になってもおかしくないぜ」

「いいえ、今度はそうはいきませんよ……このスカルアヅチはそのために作ったんですから」

「笑みリア、他の面子にも伝えとく?」

「えぇ、お願い」

今日この日より、笑みリアを始めとする反ノワルリンド派閥と、慈愛の聖女イリステラの声明により前線拠点の開拓者達は決戦へと向けて慌ただしく動き出すことになる。

「ふぅん……ログでも参照してるのかねぇ…… 私(・) が焚きつけた事まで見抜かれたかな? まぁどうでもいいけど」

誰もいなくなったスカルアヅチの廊下で、ディープスローターは一人呟く。

赤竜は少し口車に乗せると意気揚々と動き出した。

緑竜は適当に煽てて嘘を吹き込んでやれば簡単にその気になった。

白竜は偽の情報と新たな希望で「移住」の決心を踏み切らせた。

唯一の懸念は遭遇できなかった黒竜、だが聖女というNPCによってその登場は確約された。

であれば舞台は整った、たった一人を壇上に引きずり出すために災厄を前線拠点へと導いた女は、愛想の仮面を剥がして笑みを浮かべる。

「さぁ、 私(・) がここまで盛り上げてあげたよ? サンラクくぅん…… 私(・) にまた凄いところを見せてね?」

決戦まで、あと八日。