軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

紅蓮夜光の帝王領域

乱数転移の時間切れで送還されていった三人を見送った俺は、 封雷の撃鉄(レビントリガー) ・ 災(ハザード) を使用した高速挙動で砂漠の突破に挑む。

今のご時世、文明の光に阻害されない満点の星空を見る機会は稀だ。その点、やろうと思えば人の身体の中だってワールドとして生成できるVRはそれが現実ではないことにさえ目を瞑れば行けない場所はないと言っていいだろう。

見上げた先の星空は非常に魅力的な光景ではあるが、よそ見してるとすっ転んで全てが水泡に帰す可能性がある。油断する事なく走り続けてどれくらい経ったか。

「砂漠の果て……辿り、着いたぞ……」

シャンフロにBGMというものはほぼ存在しない。もうほぼSEみたいなメロディが流れる事はあるが、基本的にボス戦中に曲が流れるわけでもなく、当然非戦闘時も同様だ。

つまりただ無言で砂漠を走り続ける……という中々にハードな道程を経てようやく進展があったのだ、ちょっと涙が浮かんだとしてもそれは仕方のない事だろう。

とはいえ、広大な砂漠を迷わず進むことができたのにも理由はある。

「なんつーか、絶景夜景を台無しにする 灯台(レッドライト) だことで」

まるで巨大な炎が夜空を焼いているようだ。だがその光は揺らぐ 力(エネルギー) たる火の輝きとは異なる、揺らぎなく常に同じ光を空へ浴びせ続ける……照明のような赤い、赤い光だ。

最近赤色にロクな思い出がないんだよなぁ……例のなんでもむしゃむしゃする赤色だったり、ゲームを一気にヌルくした赤い鎧の大群だったり……うーむ、厄日ならぬ厄色?

「成る程、確かに見ようによっちゃ、大地が冠を被っているようにも見えるな」

いつのまにか砂の地面はゴツゴツとした岩肌に変わり、草の生えるわずかな土すらもない無機質な薄暗闇の中を進んで……ついにそれを目視する距離に到達する。

「ここが、ノワルリンドの言う「水晶の王冠」か……」

息を潜め、スッと辺りを見回す。奴が話を盛っていなければここには水晶老群蠍クラスの化け物モンスターがいるはずだ。確か……百足と、蜘蛛?

「シャンフロってやたら虫とか強くね……?」

巨大な……サードレマすらすっぽり収まって尚余裕のある程広大なすり鉢とドーナツを合体させたかのような地形を見回すが、正眼の鳥面の視界補正が発動する気配はない。

「……寝てる?」

成る程? 夜間ならモンスターの警戒が薄れると、やったぁ……

「………」

足元に落ちていたソフトボール大の石を拾い上げ、軽く放り投げる。特に力を込めたわけでもないので、あっさりと重力演算に従い落ちていった石ころはすり鉢状の斜面に落下すると、そのままコロコロと転がって………

ズボボボボボボ!!(そこら中の斜面から人間大の蜘蛛が飛び出してくる音)

ベギャア!!(強烈なデジャヴを感じさせる味方ごと砕くおしくらまんじゅうが石ころに襲いかかる音)

ズゴォン!!! バギャッッ!!(騒音にキレたのか地面から現れた巨大百足が蜘蛛の塊を軒並み轢き潰す音)

ゴゴゴゴゴゴゴ……(巨大な岩塊に擬態していたスパイダーフォートレスが浮上する音)

おお、戦争を告げる法螺貝の音が聞こえた気がしたぞ。

「いや、これ無理では?」

火薬とかそういったものは使われていないはずなのに、先程から爆発音がひっきりなしに響いている。

恐る恐る下を覗き込んで見れば、人間大の蜘蛛がどこに隠れていたのか地面を埋め尽くさんばかりに現れては背部に異様な発達をした謎の筒状外殻を持つ百足に取り付いていく。

そして起爆。火薬的なそれではなく、内側から凄まじい衝撃波か何かを発生させているのか見るからに硬そうな百足の外殻に亀裂が走る。

だが百足とて負けてはいない。奴がとぐろを巻くだけで最低でも数十匹単位で子蜘蛛が砕け散っていく。うん? 自爆攻撃はパッシブじゃなくてアクティブモーションなのか、攻撃で粉砕された子蜘蛛は辺りに衝撃波を撒き散らすことなく粉々になって消えていく。あぁ、素材が……

「クソ、ノワルリンドめ……誇張無しなのかよ」

あんな機動要塞と列車砲が組んず解れつ(殺意)してるところにプレイヤーを放り込んで何が出来ると? 怪獣映画で逃げ惑う市民役の方がまだ生存率高いぞこれ。

「ふっ……だが俺はもはや平面の存在ではない。Z軸の領域は既に我が手中ぅ……」

なんとなくこのすり鉢ドーナツな地形がどうやって出来たのか分かってしまったが、だからどうしたと言うのだ。

そりゃデカい方の蜘蛛が背中の突起から子蜘蛛を砲弾よろしくぶっ放してるのには正直ドン引きしてるし、それに対して百足が背中の筒から明らかに自身と同等サイズの敵を一撃でぶち殺すことしか想定していないような毒の塊をぶち撒ける光景にはドン引きにドン引きを重ねている。

成る程、この手のハクスラにおいて人間がヒエラルキーの下層に位置しているのは特段珍しくもないが、こんな怪獣大決戦を見せつけられては認めざるを得ない。

シャンフロ世界の人類諸君、霊長類という名前は返上しよう。万物の霊長とかイキってもヒエラルキー的に多分中間ちょっと下辺りだぞ俺達。

「石ころ一つで大戦争か……蠱毒の壺の底ってか?」

悪いな、天井から吊るされた宝石に手を伸ばすのは俺だ。 臨界速(ブラディオン) 起動、一から三歩で水晶の冠に至り、四と五歩で安全に着地する。完璧なプランだ。

少なくとも一分前までは油断抜きでそう思っていたし、実際方法としては間違っていなかったはずだ。

時間はちょっとだけ巻き戻り、轟音破裂音爆砕音激突音……おおよそ火薬に頼らない戦いの音が響き渡る地獄の窯の上を紫紺の箒星が駆け抜ける。

実際青と紫の中間みたいなエフェクトが尾を引く姿は……ああそうだあれだ、ミーティアスや脱獄したプリズンブレイカーの移動エフェクトに似ている。

まぁ単なる移動モーションであるあっちと違って、こっちはリスクとリターンが極まった七連結スキルだ。油断すると崖のシミになりかねない。

だがすり鉢ドーナツの 縁(ふち) から中央の冠まで目測百メートル……ククク、障害物がない直線の 幅跳び(・・・) なら臨界速の射程圏内だ。

陸上選手のワールドレコードすら凌駕する極限の軌道、やっぱゲームならリアル超えはしたいよな。最高だぜ……はい二歩目。

「ふはははは……! 天から下界の争いを眺めるのは最高だぜ……!!」

神の視点、今俺は神に等しい存在……!! いや待てこういう感じで調子乗ってると手痛いしっぺ返しを食らうと相場が決まってる。慢心は死と敗北を招く劇薬だ……ここは万全を期して 真界観測眼(クォンタムゲイズ) も使って……

「───は?」

光が、舞っていた。

言葉通りの意味だ、見上げた先の紅水晶の冠を乱反射するかのように光が鋭角的な軌道で舞っているのだ。

あ、違う。

あれ、

レーザーに見える程(・・・・・・・・・) 細く鋭い攻撃の波(・・・・・・・・) ……?

「っっっっっっ!!!」

三歩目を使って全力で真横に跳ぶ。急激な直角のカーブを減速なしで行った事で身体がミシミシと悲鳴を上げる。だがそれはどうでもいい、臨界速の効果で発動中はある程度の反動は許容できる。

だから、問題はそっちではなく……

キュガッッッッッッ!!!!!

「ぃ──────」

まさに紙一重の瞬間が命運を分けた。莫大な破壊力が波となって可視化される。それを認識したのとほぼ同時に飛んできたまごう事なき「光線」が大気をぶち抜いて俺のすぐ側を通過する。

それ自体が風属性ってわけじゃないだろう、あまりの高火力で大気そのものが押し出されている。

「っぶぁ!?」

おお、ハエ叩きにぶっ叩かれるハエの体験が出来るとは……ははは、それ今じゃなきゃ駄目? 駄目ですかそうですかヤバーイ!!

「おわぁぁああ!!?」

クソッ! 至近距離で極太レーザーが掠りかけたのもそうだがバランスを崩された! 死ぬ? クソが! あと二歩ある! 立て直せるか!?

真界観測眼の効果適用中じゃなけりゃ普通に死んでいるところだった。錐揉み回転をさらにごっちゃにしたような吹き飛ばされ方をしている中でも、スローモーションの世界で思考力と周辺把握力は保持されている。

まずは兎にも角にも身体を安定させないと話にならない。

限界まで意識を集中、洗濯機にかけられた服のような視界の中で頭と足が正しい方向を向く一瞬を待つ。

真界観測眼の効果切れが近い、地獄絵図の地面までの距離が近い。それでも、まだ、まだ、まだ………ここだっ!!

「四!」

全力で空を蹴りつけ、それまでの身体の動きを全て塗り潰すかのような真上への推進力で紐なし逆バンジー。

直後、俺が落ちかけていた場所に吹っ飛ばされた要塞蜘蛛の巨体が転がってくる。あと二秒遅かったら巨体に引っかかって死んでいたな。

「くぉ……!!?」

真界観測眼の効果が切れる、急激な体感速度の変化に意識がちょっと遠のきかける。危ない、ゲーム中で意識がトんだら目も当てられない。次に目を覚まして強制ログアウトのシステムメッセージが目に入ったらちょっと心が折れる。

だが、時間は稼げた……! ここでなんとか着地を……!!

「……あ」

そこで、俺の目は確かにそれを捉えた。それは限界まで研ぎ澄ました集中力の賜物か、それとも正眼の鳥面の効果か……

紅の水晶の中、ただ一点のみ碧色の輝きを放つ水晶。いいや違う、それは水晶であって水晶に非ず。

「見つけたぞ……新種───!!」

そしてテメーだな、さっきの光線の下手人は……っ!!

答えは第二射という形で示された。待て、五歩目は着地に……あっ