軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

臨界の脚、空を征く

森を駆け抜ける、というのは思っていたよりも難しい。

単純に木々が邪魔、というのは勿論のこと、厄介なのは地面だ。

地に足ついて生きているのは人間だけではない、木々の根っこは地面に埋まっている。そして全ての木が根っこを全て地面の下にしまってくれる程優しくはない。

薄暗い地面に紛れて顔を出した根は草結びよりもよっぽど悪質なトラップ足りうるし、逆に柔らかすぎる地面は人の足程度なら容易く絡め取ってしまう。

すなわち、木々が生い茂る為に適した土地とは、走るという行動を取るには不適切な場所であるということだ。

なので、こうしてみた。

「ばばばばばば」

轟々と、風が俺の身体を阻まんと大気の壁を作り出すが、馬鹿馬鹿しい程の推進力を帯びた俺の身体はまさしく壁を穿つ杭が如く大気の壁をぶち抜き切り裂きながら飛んでいる……そう、 飛んでいる(・・・・・) 。

「や、ばばばばばばば」

これヤバイ! マジでヤバイ! 同調連結(ハイコネクション) ヤバイ!!

単体スキルでこれはヤバイって! ヤバイ、状況がマジヤバイから語彙力が! 語彙力がヤバイに侵食されてるぅぅ!! ヤバイ!

「おおおおお!?」

飛ぶ、というよりも射出と言うべきだろうか。単純な推進力を臨界点まで突き詰めたならば、翼を持たず胸筋も貧弱、骨も中身が詰まりすぎな鈍重ボディでも空を飛べる。

話は変わるが 幼女(ティーアス) 先生の「超越速」……タキオンとは光速以下になることがない超光速を指す言葉であるらしい。成る程、どれだけ手を抜いても加速バフと減速デバフを同時に付与するあのスキルに速度で勝つ方法は存在しない。

だってそうだろう? 駆けっこでただでさえ首位独走してる奴が後続の足首に鉄球を繋げてくるようなものだ。故にこそ先生は賞金狩人最強の存在であり、最速のNPCなのだ。

であれば、俺が得たこのスキルの名は人の、プレイヤーの限界を示す敗北の名であり、極限に至った名誉の名であるのかもしれない。

同調連結、機動力特化の七連結。 俺(サンラク) が育んできた機動力の全てを一つに連結したそのスキルの名は七連結「 臨界速(ブラディオン) 」と言う。

「さぁぁあっ!!」

ずだん! と何もない大気を蹴って三度目の加速を得る。現象そのものは連結し、組み込んだヘルメスブートのそれだが「臨界速」はそんななまっちょろいスキルではない。でなけりゃ壁のシミになんかならねぇよ。

「 臨界速(ブラディオン) 」は三つの効果を複合したスキルだ。

まず第一に効果適用範囲はスキル発動から「五歩」足を踏み出すまでの間。厳密には五回足の裏で踏み込むモーションをするのが効果適用範囲。

次に自傷効果、発動した瞬間にHPの九割九分九厘が消し飛ぶ。要するに1になる。流石に回復はできると思うが、試す前に壁のシミになっていたので要検証。今試した、回復自体は可能。

そして最後に発動中に付与される効果だが……これがヤバイ。

初手最高速、一歩ごとに加算、いや多分乗算累積される極端な加速バフ、空中ジャンプ、壁走り天井走り、着地時などの反動無効、加速中のダメージ軽減。まぁ列挙すればこんなものか? 要するにスキル発動中は擬似的な無敵モードと言っていい。

これだけ書くと七つのスキルそれぞれのいいとこ取りのようにも見えるが……んなこたない。

いいか、人間という生き物は移動を足に依存している以上、ブレーキも足に依存しているんだぞ? 五歩目は最大の加速力を得ることができる……で、 どうやって止まれと(・・・・・・・・・) ?

六歩目は補正のないただの足だ、リニアから足だけ出して地面に触れさせたらどうなるかなんて言うまでもない。もみじおろしになるぞ。

となるとスキル補正がついた五歩目でブレーキをかけなければならないわけだが……ははは、アクセルを踏み込んで止まれと申すか。

思い返されるラビッツコロシアムの壁を俺色に染める苦い思い出……

思わず反射的に踏み込んだせいで加速して顔面から壁に激突。

止まろうとしてバランスを崩し顔面から壁に激突。

調子に乗って空中ジャンプして着地に困り、一か八かで真横に加速したせいで顔面から壁に激突。

せめて壁に激突するのだけは回避しようと壁を蹴ったはいいが逆方向に吹っ飛び、バランスを取る為にたたらを踏んだせいで最高速度で顔面から対面の壁に激突。

結構頑丈なコロシアムの壁にあった一筋の小さな亀裂は俺のせいではないと信じたい。

結論から言えば、このスキルは狭い場所で使ったらまず間違いなく壁のシミになる。だから使うなら制限のない広い場所だ。

「おお、おおおおぉぉ……!」

バカみたいな加速……バ加速が天然のエアクッションで軽減されたためか、未だ前へ上へと吹っ飛んでいるが周囲の景色を観察する程度の冷静さは取り戻されてきた。

通常の覆面じゃガードにもならないので【昇滝】の頭機殻を装備中だ。ゲームだとしても裸眼はきついよ裸眼は。

既に樹海の三分の二を通過している、妙だな……確かに結構な速度でぶっ飛んでいるが、あの尋常ではなく広い樹海を既に三分の二も超えられるか?

いや、違うのか。この樹海、半月みたいな形をしているから最短最速で進めば距離そのものは大したことがないのか? いやそれも違う? 旧大陸のエリアがその実態と比べて短時間で攻略できることを考えればプレイヤー達が体感する距離と実際の距離が異なっている、と言うことか。

……人という生き物は、どうしてこう最優先すべきことから目をそらして別のことにばかり思考を割いてしまうのか。

「そろそろ落ちるか……」

人は翼を持たない、悲しいことにな。だからこそ空に憧れるわけだが……このまま落ちたのならば、地面にシミができる。

であれば、逆転の発想だ。

「成功率は75%……世界で一番信用できない乱数だ」

実質25%と揶揄される成功確率75%と言う数字は、50%に挑む時ほどの勇気を持つこともできなければ100%の安心感を抱くことができない。まさに悪魔の数字だ。666が悪魔の数字? 666%とか最高じゃん、崇めるわ。

「っしゃ行くぞオラァ!」

空中で身体を動かし頭を下に、足を天に向けた天地反転の体勢に移行し、撓めた四歩目の足で大気を蹴る。そう意識する。

ボッ! と莫大な大気が俺という弾丸に穿たれ、人間一人の身体が凄まじい勢いで地面へと落ちて行く。

落下死に不慣れ、という訳でもないが……これはヤバイ、怖い!

「だがっ!!」

俺は俺自身と対決する、そのためには大いなる物理演算の力を借りなければならない!!

風が水のように身体を押しとどめようとする、だが今の俺は一人じゃない。ゲームという世界における絶対摂理、物理エンジンによる落下処理によって凄まじい勢いで地面へと落ちて行く。

姿勢制御! 足を地面に、頭を天に! ええい、顔が動かしづらいんだよ正眼の鳥面に変更! 両手を広げてバランスを取りつつ、肝心要の五歩目を地につける右足一本に集中し、左足は膝を曲げて若干浮かせて……弾着、今!!

「ぬぅん!!」

人が地面に叩きつけられた場合、十中八九地面のシミになるのがオチではあるのだが。ピンと伸ばしつつも緩衝としての役割も果たす右足が臨界速の効果で落下ダメージの衝撃を無効化する。

ただ俺本体とは別に地面そのものへの衝撃は如何ともし難く、凄まじい音が地面を揺らし、右足の一点が土にめり込む。

だがここで五歩目の効果が発動、重力による落下加速を含めた上から下への運動エネルギーに対し、下から上へ跳ね上がらんとする五歩目の加速が真っ向から激突する。

「………」

土煙が晴れ、そこには地面に右足を立てて堂々たるポーズをとる鳥頭の俺。

フッ、高らかに広げた両腕がまるで翼のようだな。

「さて、行くか」

リキャスト終わったらもう一回挑戦するか? でも75%だからなぁ……本当信用ならない数字だぜ、せめて端数こみで79%くらいあればもうちっと信用できるんだが。