軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕末スープレックス

ランカーですら、散る時は一瞬だ。むしろ俺がここまで生き残っている事の方がよっぽどの奇跡だろう。

「さて……どうしたもんかね」

こっちにまで飛び火させてきやがったとはいえ、誠意大将軍が時間を稼いだおかげで当千の脚はなんとか回復が間に合った。

生憎こっちはパーツごと切り飛ばされてしまったのでリスポンしない限りは元には戻らない。

二の腕の半ばから断ち切られた事で身体のバランスは不安定だが、まぁ慣れれば何とかなる。むしろ肩の付け根から切れるよりかは幾分かマシだ。欠損のバランス感覚を培わせてくれてありがとう孤島、でもあのクソデカ梟は未来永劫許さんよ。

だが状況は非常に不味い。ランカー二人に二つ名持ちが天誅された事でここら一帯のプレイヤーは避難を選んだらしい、俺だって逃げたいがボスからは逃げられないのがお約束だ。

それに二刀流で何とか食らいつけていたところをこの有様だ、正直言って、勝ちの目は、もう………

「……へっ」

なーんて、絶望に沈むロールプレイをしている場合じゃねーな。勝ちの目は ある(・・) 、レイドボスさんが斬星竿なんてけったいなもんを出してきたからこそ見える活路がある。

だが行けるか? 長さにばかり目を取られがちだが、あれの威力は下手な太刀じゃあ比べ物にもなりゃしない。先端に掠るだけでも腕が飛ぶのだ、クリーンヒットしたらどうなるかなんて考えるまでもない。

「オイ勇者! 悪いが短期決戦に付き合ってもらう、 賭金(命) を全額ベットしな!!」

「面白ぇ、乗ったぜ丁半!」

上等、それでこそ幕末プレイヤーだ。

ここまで来たなら、もはやランキングはどうでもいい。ただ二人(出落ち共は除外)でレイドボスさんに土をつけられるなら、一晩も手元に残らない一報酬なんかよりもずっともっと価値ある栄光を手にすることができる。

「何かする?」

「はっ、レイドボスさんよう……俺達がやることなんて一つだろう?」

前へ。

欠けた左腕からダメージエフェクトを流しながら前へ、前へ。どうにかして斬星竿の射程圏内へ、振るわれる死の宣告よりも速く───!!

「……楽しい」

その笑みは、きっと俺が何をするのかを見るための余裕……つまりは舐めプだ。だが俺はそれに怒らない、向こうから手加減してくれるなら存分に活用させてもらう。

刃の届く距離に到達、更に前へと距離を詰めて……即時展開の準備を完了していたウィンドウから一本の武器を取り出す。

その瞬間、斬星竿が閃く。あまりに軽く滑らかな風切り音が俺の首へと迫る。

振り上げた武器がレイドボスさんの頭を打つよりも速い、だが俺の狙いは本体じゃねえ……今まさに俺を斬り裂かんとする刃そのものが狙いだっ!!

「御用だ!!」

「わ」

金属同士が叩きつけられる快音。しかして斬星竿は動かない、それは膂力同士の拮抗ではなく……

「十手」

「そうさ、大十手「 大捕物(オオトリモノ) 」……捕まえたぜ斬星竿」

もはや声をかけるまでもなく以心伝心、デジタル文字の「4」のような形をした十手が斬星竿の刀身にガッチリと食らいつき、捻りを入れた事でレイドボスさんの動きを僅かとはいえ停止させる。

そして、その瞬間を逃すはずもなく当千が太刀を構えて一気に距離を詰める。

「諸共に叩き斬るぜ!」

「ばっちこい!」

く、右腕一本じゃやっぱり力負けするか。だがそれでも、更に踏み込んでレイドボスさんの襟を掴む。これでランキング二位が渾身の一撃を食らわせるだけの時間は稼いだ。

「決めろ勇者!」

「お命頂戴いたす……」

「「天誅!!!」」

思えば、逆境こそがレイドボスさんを覚醒させるのかもしれない。そして良いところまで追い詰めた俺達は、虎の尻尾を踏んづけたというわけだ。

「とても、楽しい。だから……負けない」

「ほひゅっ」

「は?」

いきなり当千が崩れ落ちた。斬られた? いや違う、刀は動いていない。であれば何故? 違う、違う、刀じゃない。足を大きく上へと伸ばした姿勢は……ハイキック? 足の高さは丁度当千のアバターの……まさか、

「顎を蹴り抜いて 気絶(スタン) させた?」

「楽しい、楽しい………だから、負けない」

馬鹿言うな、このゲームは確かに気絶の状態異常が存在するが……殴る蹴るで出るようなもんじゃない。それこそ馬に撥ねられるくらいの衝撃で発生するもんだぞ……いや待て、まさか一瞬のうちに頭部のみを激しく揺らした事で条件を達成した?

「レ、レイドボス……!!」

今が楽しくて楽しくて仕方がない、とばかりに頬を吊り上げたレイドボスさんが一瞬で俺の背後に回り込んで腰にぎゅむ、としがみつく。

俺が何事かと抵抗するよりも速く、ふわりと浮遊感。ただ持ち上げるのではなく、そのまま後ろに倒れこむようなこれはまさか、やめっ……あっ

「天誅」

「バッ……」

「ドロッ……」

ボギョン! と。なんだろうね、一番近い例えはスイカにスイカを叩きつけて相殺粉砕、みたいな……

「「プぎゅる!?」」

どちらかと言えば腰を掴まれたのでジャーマン? いや、身体に捻りを入れて俺と当千の頭が激突するように調整してたから……強いて言うなら幕末スープレックス?

技名はなんであれ、まさかのグラップルに俺も当千も対応する暇も与えられぬまま 地面(マット) に沈められる。

気絶の状態異常、流石にログイン中の意識ごと刈り取るとはいかないようで 気絶(スタン) というより 麻痺(パラライズ) の方が近い気がする。

「お、おのれ……」

「辞世の句」

「次は勝つ……首を洗って、待っていろ……」

「本番は、イベント後だぜ、ユラ君よ……」

え、待って刺突? 刺突っすか? 待って、頭を? えっちょっ覚悟を決める時間を

「えぶぇ」

当千諸共に串刺しにされた俺のイベントが今終わった。

「あっ! 俺より先に死んだ先輩方チーッス!」

「君は誰かを煽らないと生きていけないとかそう言う病気なの?」

うるせー、レイドボスさんにやられたせいで集めたイベ武器がばら撒かれたんだからちょっと不機嫌なんだよ。まぁ毎度毎度イベ武器を全部持ち歩いてるわけでもないのであくまでも手持ちの一部、だが。

「良いところまでは行ったんだけどな……後二人くらいいたら勝てたか?」

「どうだろうなぁ……あの状況に持ち込むまでに天誅されてるんじゃね? 対レイドボスさんの基本戦術って数にモノ言わせて圧殺だからな?」

「ミツバチかなにか?」

「並んで襲ってもベルトコンベアみたいに流れ作業で斬られるだけだから……」

この度めでたく亡霊の仲間入りと相成ったので、先に死んだ奴等とワイワイガヤガヤ騒いでいるとレイドボスさんがこっちを見ていることに気づいた。

イェーイ! とその場にいる亡霊……つーか気づいたら百人くらいいないか? そこら中にびっしりいる亡霊総出で手を振ってやれば、一つ頷いたレイドボスさんは斬星竿を携えて駆け出した。

「どうした?」

「これもしかしてテンション上がったから生き残りを一掃する気じゃ……」

あっ。

亡霊は生ける貴方に触ることができない、言葉を伝えることも……だから、鬼神の如く暴れるレイドボスさんに蹂躙される生き残り達を、俺たちはただ見守ることしかできなかった………

「饅頭まだある?」

「ぶっちゃけ変な味がする水だけど酒が進むわー」

「おーすげー、壁貫きで仕留めた」

正直クソ楽しかった。