軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

非力なれど剛力なるは

あの人、リアル社会的地位がヤバそうな気配がするので例のブツは最速便で届きそうな気がする。のでシャンフロでやれることは先にやっておきたい。

結局、 保護者(水晶老群蠍) が出て来たことで死んだ俺はエイドルトの路地裏、定位置となったためか小綺麗に掃除された路地裏の一角で人参を齧っていたエムルに合流してフィフティシアへと飛んでいた。

そしてそのまま向かうのは「黄金の天秤」商会だ。俺はVIP待遇なので正面玄関から入る必要はない、裏口に立っている明らかに強キャラ感漂う警備の男に軽く手を振るだけで中へと入ることができる。顔パスならぬ刻傷パスってやつだな……頭装備をまず最初に確認されると言う事実からは目をそらす。

「……本日は如何なご用件でしょうか?」

「商談だ、トップを出せとは言わないが商会の資金にある程度干渉できる地位の者を頼むよ」

さーて、さっきまでの 無双ゲー(・・・・) とは打って変わって、ここからは頭を使ったマネーゲームの時間だ。

「お久しぶりで御座いますサンラク様。新大陸に向かった、と聞いていましたが……」

「まぁなんだ、ちょっとした伝手があるのさ」

別に世間話をしに来たわけではない。それは俺も、俺への応対に現れた「黄金の天秤」商会の若旦那も分かっていることだ。

「……それでは、商談を致しましょうか。本日は何やらお売りに来られたとのことですが」

「あぁ、まだるっこしい前置きは無しにしよう……今日俺が提示するのはこれさ」

質の良い机にそれなりの重量と硬度を伺わせる音を立てて妙な形の水晶体が俺の手によって置かれる。

「これは……いや、この形状はまさか……」

「 水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン) の外殻だ、風の噂では代々の第一騎士団の団長のみが扱える「盾」にはこいつと同じものが使われている、という話だったな?」

「……えぇ、あの盾の製作には何代か前の当商会の会長も関わっておりますので。今回はこちらをお売りに?」

僅かな落胆と、余裕を隠す商売人の笑み……多分甲殻の一枚二枚なら流通してるんだろうな。だが見てろこの野郎、その笑み完膚なきまでに破壊してやるよ。

「いや? それは 試供品(サンプル) ってやつさ、なんなら一枚くらいは無料で君に贈ってもいいが?」

「……複数あるので?」

身を乗り出したな、まぁレアモンスターの素材を全放出するプレイヤーは稀だろう。普通は自分の手元に置く、となれば最大手の「黄金の天秤」商会が末端から買い集めたとしても数は多くあるまい。

そしてそこに商機がある。

「甲殻、脚甲、殻片、尻尾……そして稀に体内で生成される輝宝晶……」

「こ、これはまた、凄まじい……」

「総額おいくらくらいだ?」

「そう、ですね……少々お待ちを」

ここでマジモンの中世なら羊皮紙に数字でも書き込むのかもしれないが、そこは剣とファンタジーと時々超文明なシャンフロ。商会の若旦那ことナンバーツーの男はなにやら水晶群蠍のアイテムに魔法を使い始めるとブツブツと呟いて考え込む。

「……いやはや、お見それいたしました。この輝宝晶、でしたかな? これ一つを王家へ献上するだけでも十年は王族御用達の座を堅持できるでしょう……そうですね、この欠片だけでも五万マーニは硬いでしょうな。これら全てとなれば総額は五千万マーニで勉強させて頂きたく……」

「そうか、じゃあ最低金額は十億マーニだな」

「はい?」

明らかな数値の差異、直前までまともに会話が成立していたからこそ若旦那の顔が呆ける。

「ご、ご冗談を……」

「そうだな、時にアントニオ君……商売を成立させる上で大事なものとはなんだと思う?」

「はい?」

強キャラムーヴを維持しろ、暴力とはなにもSTRに拠るものだけではない。そうさ、大事なのはどんなパラメータにせよ数値ってやつさ。

「まず一つに互いの利益だ、良き取引とは双方共に満足に足る利益を得ることで定義される」

足を組み直し、全てを見下ろさんばかりに踏ん反り返る。さぁここからが正念場だ。

「そして次に信頼だ。アントニオ君……私は「黄金の天秤」商会を強く信頼している。ノーマン君との繋がりを得るに当たり橋渡し役となってくれた恩を忘れてはいないからね……だからこそ、この 商機(・・) を君達にだけ提示しているのだよ」

左手で指パッチンしつつ、背中に回した右手を慌ただしく動かしてインベントリアからアイテムを取り出す。

それは部屋の灯りを受けて神々しいまでの輝きを乱反射し、若旦那ことアントニオ君は思わず目を背けてしまうほどだ。

それは全てが水晶群蠍の素材、素材、素材……これまでに溜め込んできた水晶群蠍アイテムのストックを九割解放したデラックス素材パックってやつだ。

「今しがた君に提示した 水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン) の素材一式……それが 十セット(・・・・) 。さらに甲殻172、脚甲121、殻片352、尻尾8……」

「は、ははは……」

これまで貯めに貯めてきた素材の大放出だ、徳用素材パックの沼に沈め……!

「さて、商売の時間だアントニオ君。互いに利益ある取引としようじゃないか」

クリティカルヒットの手応えを確信した。

「良かったんですわ? もっともっとお値段を上げれそうな感じでしたわ」

「いいさ、これで俺というパトロンの立場は絶対的なものとなり、さらには必要な金も時間はかかるが確実に手に入る」

まぁ流石にゲームなのであり得ないとは思いたいが、もしも「黄金の天秤」商会が素材をちょろまかそうなんて考えたなら、真っ赤な 獣(・) が天誅しにいくだろうがなァ……

「エムル、世の中にはただ知り合いというだけで力を発揮する関係というものがある。それは優れた社会を形成するほどより強固な力となる……」

そして人はそれを権力と呼ぶ。

条件付きではあるが本来の価格から四割引きしてやったんだ、例え 四十億マーニ(・・・・・・) という莫大な金額であっても奴等は降って湧いた激レアアイテムの山から手を引くことができない。

まるで瓢箪に手を突っ込んだ猿のようではないか、中に詰まった米を掴む限りその手が抜けることはない。であれば奴等はもう俺という特大パトロンの財布と化したのだ……くくく、ふははははは!!

「まぁこれでエルクへの貢ぎ物は揃ったと言っていいわけだ」

「おねーちゃんはそこまでお金を集めてなにをするつもりですわ……」

「マーニを素材に家でも建てるんじゃね?」

「すぐ崩れそうですわ」

俺もそう思う。

とはいえ水晶群蠍アイテムを売るにあたり、俺は二つほど条件をつけてきた。その二つを考えれば十何億程度の損失は安いと言ってもいいだろう。

一つは「黄金の天秤」商会の内部でのみ対価の天秤を好きに使うことができる権利。流石に持ち出す権利は要求するにしてもハードルが高い、だが彼等の監視の目が行き届いている場所であれば……と妥協案を勝ち取った形だ。

そしてもう一つが「現王権、つまり僭王アレックス及びそれに味方する陣営にこれらの素材を売りつけないこと」だ。

第一騎士団が誇る超絶イケメン団長の盾にも使われているという水晶群蠍の素材、万が一にも第一王子陣営が利用してはトルヴァンテの勝ち目が低くなってしまう。

「新大陸側との取引も考えればトルヴァンテ政権の方が平和的だ。アレックス政権の場合、最悪泥沼のゲリラ対処に資金を削られかねないからな」

「さ、策士! サンラクサンものっそい策士ですわ……っ!?」

「バカ言え、これがペンシルゴンならもっと酷いことになるぞ」

まず大前提として大量の素材で「黄金の天秤」商会を買収、商業的ツテを入手して王族と接触するだろうな。

アレックス派に媚を売りつつ裏でトルヴァンテ派を強化し、アレックス派を一掃……大きな借りができたトルヴァンテ派はペンシルゴンを無視することが出来ず、上手く立ち回ればファステイアからフィフティシアの内いずれかの街が奴の所有物になる可能性すらある。つまり貴族デビューだ。

あとは語るまでもない、プレイヤーによる王国乗っ取りをゲーム外の掲示板なりで扇動し、魔王ペンシルゴンを名乗りエインヴルス王国にクーデター。最終的に魔王として城ごと自爆して……うん、大体世紀末円卓鉛筆王朝一代記の流れだな。

それに比べれば筆頭株主的存在になるくらいヌルいヌルい。だがこのヌルめの信用取引が俺にとっては重要なんだ、少なくともこちらが裏切らない限り向こうもこちらの信頼を損なわないように立ち回ってくれるからな。

「ああ、やっぱり俺たちはマブダチだぁ……」

これからも頼むぜ、蠍達よ───!