軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シュービルエンブレムの仇討人

ひゅーっ、勇者様かぁーっくいー!

「見ろよエムル、あれが公開羞恥プレイって奴だ」

「あそこ一人逃げようとしてるですわ」

「何ィ? 食らえ督戦隊アロー!!」

まぁ可もなく不可もなしといった軌道で放たれた矢がこっそりと逃げ出そうとしていた森人族の足元に突き刺さる。自分を見る喪服の女に気づいたのか慌ててトットリの方へと駆けていく森人族を見送りつつ、改めて俺は事の推移を見守る。

名付けて「勇者様大作戦」、他人のクエストという出しゃばるには勇気のいる局面において、こちらが用意したトットリという起爆剤を呼び水に他プレイヤーを無理やり巻き込むという……改めて考えると穴だらけの作戦だ。

だが、システム的な勇者ではなくそもそも全てが茶番である傀儡の勇者であるトットリだが、奴の肩書きはなかなかどうしてバカにできない。

なにせ……

「よう兄弟、お前だけにいい格好はさせないぜ!!(初対面)」

「困った時はいつでも力を貸すって、言ったろ?(言ってない)」

「森人族の明日は、私たちが守る!!(森人族ファーストコンタクト)」

「お前ら……!(誰だこいつら)」

そう、なにせ奴は森人族と共に樹海を彷徨い、そして森人族を前線拠点へと連れてくる期待を一身に背負ったプレイヤーだ。

期待に応えた者は相応の信頼を得る、そしてそれを成したトットリが第三騎士団と敵対することを選んだならば、必ずそこに呼応する奴らが現れる。

「ここでトットリと仲良しアピールすれば森人族の好感度が上がるかもしれないからな……」

嗚呼哀しきかな部外者達、心の何処かでトットリの圧倒的アドバンテージに勝てないと悟っているからせめて同じ方を向いているのだとアピールしたいのだ……その気持ち、よく分かります。

「よし……上手くいって何よりだ」

嗚呼そうさ、これはゲームだ。プレイヤーに「権力」は通用しない、必要とあれば王様だって暗殺するのがゲーマーという生き物だ。例えシャンフロがどれだけリアルだろうと、ゲームである以上プレイヤーは世界観に沿った社会的モラルに縛られることはない。

次々とトットリ達の側につくプレイヤー達に第三騎士団は気圧されていく。馬鹿どもめ、囲めばなんとかなると思っていたところに数的有利を覆されて焦っているらしい。

野次馬が敵に変わったことで逆に包囲される形となった第三騎士団、団員どもは焦りを隠そうともしていないが、腐っても長と言うべきかこの場における首魁たるユリアンは余裕を湛えた笑みに剣呑な眼光を光らせ、ただ王一点を見つめている……なぁるほど? 確かにそれが最速最短最適だ、いちいちプレイヤーに構わずとも、国王を倒せば第一王子側として目的達成と言っていいだろう。

「チッ……賭けは俺の負けかよ、GGCの時といい、俺って自分が関与できない賭け事に弱いのかな……」

仕方ない、このまま一人と一匹による督戦隊のまま終わればいいなと思っていたが……出陣だ、いざや尋常にボコすに候。

「戦闘終了の時点で軽量化もステータス強化も切れるの地味につらいな……」

別離れなく死を憶ふ(メメント・モリ) は使えない、いや使う方法がないわけでもないが力技なので効率が悪い。

また見掛け倒しの賑やかしとして使うかどうかは一旦置いておき、それとは別件で試しておきたいこともある。

「じゃあ絶妙剣さんにもう一度悪夢を見せに行ってやるかぁ!」

「なんだかちょっぴり可哀想に思えてきたですわ……」

まぁ、単純に考えて今の俺は初対面の時と比べても戦力1.5倍……いや、スキル込みで二、三倍は強い。対 人(NPC) 戦なので夫婦装備はあまり役に立たないが正体を隠すには丁度良いだろう、ヴェールあるしな。

では、いざ。

「とうっ!」

駆け出す騎士一人、本領発揮ならざれど、その手腕に陰りなしと言わんばかりに剣を抜いた絶命剣のユリアンが走る。

「お覚悟……!!」

「おっと」

目的は王の命ただ一つ、世の中には生きているだけで不都合な存在が確かにいる。それは権力という混沌の坩堝においては第一王子……現国王にとっては実の父親たるトルヴァンテこそが該当する。

故にこそ、アーフィリアを仕留めることを諦めたとしても、トルヴァンテの命だけは奪わなければならない。

絶命剣、その名は決して虚飾や偽りなどではない。騎士達の頂点に立つ男が 強すぎる(・・・・) だけであり、システム的に言えばユリアンのTECとDEXは驚異的な数値に到達している。

高速機動ではなく、ただ一撃を必殺の領域にまで高めるユリアンの持つ刺突スキル「絶命の一刺し」は命中すれば高確率の即死判定を相手に強いる。直接的な戦闘力のないトルヴァンテであれば、即死判定を出すまでもなく仕留めることができる。

だが、しかし。

何故ディープスローターがユリアン ではない(・・・・) 何かを見て勝ち誇った笑みを浮かべているのか、何故此の期に及んで国王トルヴァンテは未だ泰然とした態度を崩さずにいるのか、この肌を焼くような嫌な気配はなんなのか。

「───抜剣を告げる」

その答えが現れる。

空に影一つ。昇る朝日を遮って黒い影を生み出す それ(・・) が落下運動の末にユリアンの進む道を断ち切るが如く地面へと突き立てられる。

それが何かは赤き怪物との戦いに参加した者のみぞ知る、しかし それ(・・) の姿を見たことがある者、まで条件を広げたならば……

「この、剣は……!!」

「───我等、彷徨える剣。我等を携える者はなく、されど我等は使い手に我が身を委ねる刃」

トン、と 空から降ってきた(・・・・・・・・) にしては驚くべきほどに静かで軽やかな足音を立てて、地面に突き立てられた巨大な剣に降り立つ漆黒。

モノクロの剣、そして何を悼むのか喪服を着たその女はさながら墓標の上に現れる亡霊のようにも、死者を引き寄せる死神のようでもあって。

「───我等、か細き願いを手繰る剣。我等、積み上げし宿業を断ち斬る剣」

その両手に黄金の剣を二振り、顔はヴェールに覆われ伺えず、されど歌うように紡がれる言葉が静寂に上書きされた前線拠点へと響く。

「───剣は宿業に立ち塞ぎ在りて、今ここに悪を討つべく高らかに告げる」

左の腕は自然体そのままに、右剣の鋒を第三騎士団長ユリアン…… 悪徳(カルマ値) を蓄積させた者へと突きつける。

「───我等、仇討つ剣。今ここに剣は抜かれ、悪は討たれ、願いは成就せん」

喪に服す女の背後に、光をインク代わりにして描いたかのようなエンブレムが浮かび上がる。

それは敵を射殺さんばかりに鋭い眼光と大きな嘴に炎の右羽、雷の左羽を持ち、剣の意匠が組み込まれた新たなる仇討人のエンブレムであり、それを背後に浮かべる様はまるで女自身が炎雷の翼を広げたかのようで。

「こんだけ派手に登場しちゃってぇ……これは撮影&拡散されても文句言えないよねぇサンラクくぅん……」

仇討つ剣の宣誓が成立する時、悪徳はただ滅ぶのみ。

ふええ……手間かかりすぎぃ……

ビシッと決めポーズまで決めたはいいが、心の中では弱音吐きまくりだ。なんだこのスキル、走りながら早口言葉チャレンジしろってか。

スキル「 仇討の宣誓(リヴェンズ・コール) 」、名前からしてもうあからさまではあるが職業「仇討人」に就いた者のみが習得可能なスキルであり、これらのスキルは共通して対象のカルマ値が大きく関わってくる。

スキル「 仇討の観察眼(リヴェンズ・アナラアイズ) 」は効果発動中、見た相手のカルマ値を可視化することができる。

スキル「 仇討の宣誓(リヴェンズ・コール) 」は特殊ウィンドウに表示される「宣誓」を全て唱え切ることで、相手のカルマ値に比例したステータス強化を付与する。

スキル「 仇討の引導撃(リヴェンズ・フェイタリティ) 」は相手のカルマ値に比例してダメージ量を上げる武器強化スキルであり、さらに効果中に相手を倒せば何やら追加効果があるようだ。

そして問題のターゲット、第三騎士団々長……絶妙剣? のユリアンのカルマ値は……5120。

高いのか低いのかは分からないが、少なくとも今俺に付与されているバフの強化倍率は結構なものだ。

まぁ、なんだ、つまり……

「負ける気がしねーな」