軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

竜よ、竜よ! 其の三

「んぎゃああああああああああ!!!」

悲鳴をあげながら、いっそ殺意すら抱くほどのクソ耐久を持つ「木」にアラドヴァル・リビルドを叩きつける。其の存在理由を十全に果たす灼熱の刃はあまりに肉肉しい、ともすれば異常に太い腕のようにも見える幹を焼き切っていく。だがそれでも硬い、芯を断つことができない。

「やばいやばいやばい! ディープスローターDPS足りてねーぞ!!」

「足りてないのはDPSじゃなくて人手かなぁ!? ほらサンラクくんここは分身とかしてみようよぉ、そして私とスリープレェェェイ!!」

「Pya……」

「「あ」」

貪る大赤依が背中から射出した「肉種」は地面に埋まると同時に、なんとも形容しがたい……いや一言で形容するなら「グロい」としか言いようのない肉の大樹へと成長した。ある程度ゲームに精通したプレイヤーならわかるだろう、この手のオブジェクトは放置していると大抵ロクでもないことになる。そして時間にしておおよそ一分……肉樹は文字どおり 弾けた(・・・) 。

「Pyaaaahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!」

「のおおおおおおお!!?」

冥王の鏡盾(ディス・パテル) を前面に構えて防御の姿勢を取った俺へ、何由来かも分からない血肉と衝撃波が叩きつけられる。早々に受け止め切ることは不可能と判断して転がるように真後ろへと吹き飛ばされる流れに身をまかせる。

封雷の撃鉄(レビントリガー) ・ 災(ハザード) は使っていない、使ったらまず間違いなく死ぬ。この戦闘に関してノーダメを貫き通すことは絶対に不可能だ……なにせこの肉樹の爆発、戦闘範囲の六割くらいを吹っ飛ばす上に一度に五本植え付けられる。つまり確実にダメージを食らう、どうあがいてもな。

「木が鳴いてんじゃねーよ……」

「本体がクるよぉ!」

そして何より、これらはあくまでもオプションパーツであり本体は普通に襲いかかってくるという……つくづく少人数でクリアさせる気がないってわけだ、まぁレイドだしな。

受け身から立ち上がり、舌を伸ばしながら突っ込んできた真っ赤な怪物の突進を回避する。戦闘開始から五分、そろそろディープスローターも奴の動きに 慣れて(・・・) きたらしい。戦闘開始時のサンドバッグはどこへやら、危なげなく攻撃を回避する見覚えのあるバトルスタイルを行使する賢者の近くまで後退。

「とりあえずあの木をなんとかしねーとピンボールだ、集中攻撃で一本伐採して安置を作るしかない」

「んー、種付けられるタイミング的に、ギリギリで回避は出来そうなんだけどねぇ……」

だがそれでは駄目なのだ、ギミックに「対応」するだけではジリ貧になるだけ。「対処」した上で本体を削らないことにはどうにもならない。どうもアラドヴァルの特効が刺さっているらしく、普通に斬りつける以上の効果を与えてはいるようなのだが有効打ではあるが決定打には程遠い。

「Qyarorororororororororororo!!!」

リコーダーをど下手くそが演奏したかのような騒音を撒き散らしながら、貪る大赤依の背中がぞわぞわと蠢めく。

奴の姿の元々の……多分ドラゴンの背中としての部位があったであろうその場所は今やぶつ切りにした素材を雑に煮込んだ真っ赤な鍋を覗き込んでいるかのような錯覚すら覚える。

真っ赤なトマトスープの中で浮上と沈殿を繰り返すジャガイモのように蠢めく三つの生首ティラノは咆哮とも断末魔ともとれぬ呻きを撒き散らし、他にも何種類かの……おそらく被害者であろう恐竜もどきたちがひしめく中、取り込まれた二人の森人族の姿もチラチラと見える。

あ、生首に押し込まれて沈んでいった……お前ら、死後もそんな 謙虚(ヘタレ) してんな……だが笑い話では済まない、このゲームにポーズボタンは存在しないのだから状況は常に動き続けている。

「ディープスローター!」

「新モーションだねぇ! 何かなぁ何かなぁ!」

クッソ後衛だからって若干のんきしやがって……こっちは気を抜く暇すらないんだぞ。

グジュグジュと潰れたトマトのような赤い物体が貪る大赤依の背中より射出される。肉種とは違う、あれはもうちょっと小振りであったし一度に五個射出される。つまり別のアクションということだ。

見た目通りにべちゃり、と地面に叩きつけられた赤い塊。それはグヂグヂとあまり精神衛生によろしくない音を立てながら変形して……ティラノの生首にいくつものラプトルの胴体が接続された、異形の恐竜を生み出した。

いくらこのゲームが多様なモンスターを登場させていると言っても、流石にあれは ない(・・) 。どう見てもキメラ……いや、キメラと呼ぶのもおこがましい大雑把な足し算で生まれた「何か」は複数の胴体をつなげてなお巨大なティラノの頭をブルドーザーの如く押し込みながらこちらへと突っ込んでくる。

「なんだ……その、要するに?」

食った対象を大雑把に「混ぜて」モンスター化させる……と? NPCも捕食対象だっていうのに?

…………………なるほど?

「オーケー、三日三晩だろうが足止めしきってやるよ」

これはNPCと絶対に遭遇させてはいけないタイプのモンスターだ。別にNPCが食われることを憂いているわけじゃあないが……その結果生まれるものは、笑って倒せるようなものではないだろう。

「GuWrrriririaaaaaaaaa!!!」

「ちょっと黙ってな」

頭という大きな 錘(おもり) を押し込みながら突っ込んでくる敵など対処は容易い。回避どころか追随しながらティラノ部分の顔半分をアラドヴァルで滅多斬りにする。若干下がったテンションと、それ以上に上がったモチベーションに呼応するかのようにアラドヴァルは焔を撒き散らし、地味にディープスローターが注意を引き付けていた貪る大赤依本体が俺へとヘイトを向ける頃には、産み落とされたキメラ分体はその力の支えを失ったかのように固体と液体の中間物質の 溜まり(・・・) となって地面へと広がっていた。

「 残弾(・・) はどんなもんだ? 捕食モーションがあるなら当然「空腹」概念があるってことだよなぁ?」

無尽蔵に作り出せるなら絶望でしかないのだが、このゲームはそういうところで「消費」という概念に関して厳しいからな。信じてるぞ天地 律………

貪る大赤依は竜の形をこそしているが、その動きから生物的なものを感じ取ることは難しい。そもそも首は千切れかけだし胸はポロリしすぎてむしろ臓器がボロンしてるし……今も地面に落ちる血のような身体の一部が………待て、ちょっと待て。

「………っ!」

視線を下に向ければ、そこには形状を崩壊させた異形ティラノだったものが水溜りのように広がっている。そして周囲に目を凝らせば肉樹が爆ぜた場所にも同様の「赤溜まり」ができている。

「残留オブジェクト……? 演出か? いや、それとも…………」

考えうる最悪の予想。奴の背中でドロドロのスープのように形成されては沈下し溶けていく犠牲者たちの姿形。それってつまり「不定形状態から固定状態に移行している」ってことだよな? それって、いやだが………あり得るか?

その逆がある(・・・・・・) 、 という可能性を(・・・・・・・) 。

「………チッ、ディープスローター!!」

「はぁい?!」

「その「赤溜まり」を警戒しろ! なんかフラグ臭い!!」

「もしかしたら私のメスの匂いかもしれないよぉ……?」

声もキャラもプレイスタイルも自在に変えられる奴の性別とかコインの裏表より信用できねーよ。

「それよりもさぁ! サンラクくぅぅん! この血溜まり、攻撃するとダメージエフェクト発生するんだけどぉ!!」

「当確でございますねぇちくしょう!」

続く悪態が口から漏れるよりも早く、全身を痙攣させていた貪る大赤依の身体が……ああそうだ、まさしく水風船のように弾けた。

「あぁ……もしかして、 泥掘り(マッドディグ) のご親戚か何かで?」

整備されていない芝のようであった地面に広がった真っ赤な、真っ赤な赤溜まり……足元から感じる蠢動は伝達か? それとも…… 接触(・・) しているのか?