軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去が外面に善意を詰めて現れた

「!!?!!!?!???!?」

ぐりん! と 超速(マッハ) で首を正面に戻し、覆面の下で冷や汗をだらだら流しながら高速で思考を巡らせる。

ナンデ? ナンデ? これシャンフロだよ? ナンデ??

「………!? ………!!?」

落ち着け、落ち着け……いやいやいや、フェアカスだよね? あれフェアカスだよね!? 奇跡的にデザインが被ったとかじゃないよね? そりゃ本家フェアカスはエルフ耳でこっちは人間耳だけど、髪色や髪型ならともかく深い青の瞳に泣き 黒子(ぼくろ) まで被るとかありえねーだろ!

ていうか、これもしかしなくてもこの第一王女を護衛しなきゃいけないってこと? この! 顔をした! 女を!?

「落ち着け、心を強く持て、俺は乗り越えた、乗り越えた……」

ウッ、理不尽な我儘にそれでも媚を売った日々の記憶が……奴の尻拭いをしたサブクエの日々が……調整ミスで常時不利状況を強いられた日々が……バグでテクスチャが崩壊した世界を歩む日々が…う、うぅう………

「ダメかもしれない……」

首に巻かれている マフラー(エムル) が驚いたようにびくりと震えたが、しゃーないじゃん。お前フェアカスってヤバいんだぞ、五秒ごとに別キャラの台詞使ってるんじゃないかって疑われるくらいなんだぞ。

クソ、真性のクソゲーから離れていたせいか? メンタリティが鈍ってやがる……思い出した地獄の日々をエネルギーに転換するんだ。やれる、やれる、殺れる……!

「ふぅー……一番最初に攻撃を仕掛けたやつだ」

「何……?」

「一番最初に攻撃を仕掛けたやつ、地獄の果てまで追い詰めて叩きのめす。数の有利だろうがなんだろうが関係ない、一番最初に攻撃を仕掛けたやつを……絶対にぶちのめす」

多対一、一の側が言ったところで戯言にしかならない? だが俺の身体には刻傷がある。それに積み重ねた称号も合わせればNPCを怯ませるだけの圧が出来上がる。

正直、やられ役集団みたいに「囲んでやっちまえ!」とかされたらキツいのだが、どうやらシステム側は俺の望み通りに状況を汲んでくれたらしい。

「ふっ……歴戦の騎士達を怯ませる程度には手練れを寄越したようだ……いいでしょう、であれば最初に刃を向けた者が倒せば良いだけのこと」

「き、気をつけてくださいまし! ユリアンはとても強い剣士です!」

うるせー黙ってろ張り倒すぞ。

フェアカスそっくりな顔のせいで思わずそう口に出しそうになったのを渾身の力で堪えつつ、俺は腕を組んだまま 別離れなく死を憶ふ(メメント・モリ) から飛び降りる。

顎を撫でるフリをしてちょんちょんとマフラーを叩けば了承のサインが返ってくる。よし、状況推移は理想的な流れを維持している。

「第三騎士団……「 絶命剣(キリング・ソード) 」ユリアン。貴殿の名を聞こう」

「仇討の剣は外道に名乗る名を持たぬ」

妙に刀身が長いレイピアを構え、ダイ・ハードさんが俺へと名を問う。ぶっちゃけ殺すつもりないし、名前バレから王国指名手配なんて流れになっても困るので匿名希望にしたのだが、どうやら向こうは挑発と受け取ったらしい。

「フン……死ねェ!!」

ダイ・ハードさんが妙に長いレイピアをしならせ、先手を取る。それは的確に俺の首筋にある脈を狙って放たれており、喰らえば大ダメージを免れることは困難だろう。

それによくよく見てみれば攻撃の位置も絶妙だ、仮に俺が初撃を回避して 別離れなく死を憶ふ(メメント・モリ) を取ろうと動いたとしてもすぐさま追撃に移ることができるような立ち位置、そして同時に初撃が命中したならば的確に追い討ちでトドメをさせる、そんな立ち位置だ……

(まぁ 瞬刻視界(モーメントサイト) と 封雷の撃鉄(レビントリガー) ・ 災(ハザード) で対処余裕なんだが)

既にこちらが匿名希望を告げた時点で諸々の準備態勢に入っていた、先手として動いたのはダイ・ハードさんであるが、戦術的先手は既に俺が先取していたのさ……!!

そしてダイ・ハードさんはもう一つ勘違いをしている。

騙して悪いが、「この姿」のままだと 別離れなく死を憶ふ(メメント・モリ) は単なる置物なんだよ。

「ワンパンだ、舌ァ噛むなよ!」

レテ・バニッシャーで気絶確率を高め、アガートラムの補正と過剰伝達の速さを受けた拳でダイ・ハードさんの顎を打ち抜く。まさか背後の大剣を完全無視して殴りかかってくるとは思わなかったのか、驚く程クリティカルに奴の顎へと拳が突き刺さる。

過剰伝達状態は要するに10を100として処理するモーションの暴走状態だ、即ちフルスイングで振るった拳はさらなる威力を帯びて放たれるということ……!

「ぶぐぇる」

「そしてぇ……見え見えなんだよ!!」

「ちょ、ちょとしびれたですわ……【マジックエッジ】!」

「ぐぁあ!?」

ダイ・ハードさんの足がアッパーカットの衝撃で地面から離れて宙を舞う瞬間、俺の首から分離したオプションパー……エムルが放った魔力の刃がこっそりと国王父娘を害さんと近づいていた騎士の一人に命中。

まさかマフラーがヴォーパルバニーに化けて攻撃してくるとは思わなかったらしい、完全に不意を打たれた騎士が吹き飛び、そしてダイ・ハードさんも気絶判定が入ったのか白目を剥いて青天井に倒れる。

すかさず倒れたダイ・ハードさんの胸を踏みつけ周囲にいる騎士達を睨みつける。

「聞け、堕落せし騎士共! この男の命惜しくば剣を捨てよ!!」

頭(トップ) を抑えて脅迫、 外道(ペンシルゴン) 戦法の一つだ。奴はこれを使って開始一年で敵国首都を少数精鋭による電撃作戦で抑え、敵陣ど真ん中で自陣営有利条件での人質交換を成功させた実績がある。あいつやっぱ頭おかしいよ……

「不意を打ち陛下と殿下を狙う卑劣な所業、万死に値する! 今この瞬間この男の命を奪わぬは聖女の慈悲と知れ!」

「だ、団長を離せ!」

「卑怯だぞ!」

それで勝ちが拾えるなら褒め言葉だ。げしげしとダイ・ハードさんの頭を踏みつけつつ、俺は目力を強くして周りを囲む騎士達を睨みつける。

「道を開けろ、それとも上官を見殺しにした恥まで上塗りするつもりか?」

シャンフロ以前のゲームでも、ある程度NPCと会話できることが売りのゲームはあった。シャンフロのようにトチ狂ったレベルで高性能なものではないが、それでも馬鹿にすれば怒り出す程度にはゲーム業界のAIも進歩していた。

大抵は特定ワードをトリガーにして処理を行うので慣れたプレイヤーならそのキャラが物語上どんな役割を果たすのかを調べて反応を逆算したりするわけだが……いつだって「騎士」というロールは「騎士道」が重要なワードなのさ。

国王と第一王女を囲んで暗殺するという後ろめたさ、指示を出すはずの上司が捕らわれそれを見殺しにして良いのかという葛藤。

そしてなにより威圧感を漂わせる俺の叱咤が奴らの 脳(AI) を殴りつけていく。頭のない身体など死体と同義、ちょっと揺らしてやれば……

「くっ、分かった……」

ちょろいわー、ちょろすぎて不安になるわー。こんなん、あの外道が本気を出したら鉛筆王朝再びだぞ?

正直こう、もうちっと苦戦するかと思ってたんだがまさかワンパンKOとは思わなんだ。そこんとこどうなんですかダイ・ハードさん。

「う、ぐ……」

「二度寝しろ」

「ぐぇっ」

来い……来い……この状況で悠々離脱とか無理ゲーだからイベントフラグ来い……! この際隕石でも地割れでもいいから……!

「………! サンラクサン、なんか来るですわ!」

「よし来たァ!」

ウェルカム・トゥ・イベントフラグ!! さぁ何が来………

「「「カロロロロロ………」」」

「おっと、これが噂の三つ首ティラノさんですか」

話は聞いてる、廃人達による十五人パーティを迎撃してのけた歴戦の「 傷だらけ(スカー) 」個体がいるんだって?

フッ、だがこの俺も水晶群蠍と熾烈な戦いを繰り広げ、黄金の偏食個体を討ち取った手練れのプレイヤー、無差別ジェノサイドなお前の手綱を握る事など造作も……

瞬間、三つの首が同時に上げた爆音の咆哮によってこの辺り一帯が誇張表現抜きに 揺れた(・・・) 。あ、これ無理だ。これ単体での単純スペックだけなら黄金独蠍超えてね? リュカオーンクラスじゃん。

六つの目に宿る光は憎悪か? 違う、勝利者が敗北者を憎む事はない。であればあれはもっと原始的で、根源的な戦闘本能。己こそが上位者であるというシンプルな真理を、同じくシンプルな手段で周囲へと知らしめる……ただそれだけのことだ。

第一人間なんて餌にするには数がいるしな……おや、丁度目の前に数だけは一丁前な餌の群れ。

「………」

致命秘奥【ウツロウミカガミ】起動。刻傷のせいで放っておくと俺にヘイトが向いてしまう……頑張れ第三騎士団、 これ(ヘイト) は俺からのエールと思って大事にしてくれ。

「貴き血を守ることが出来るならば 騎士(彼ら) も誉れでしょう……っぐ、さぁこちらへ」

トラウマ喚起(フェアリアショック) で思わず第一王女にチョップを入れそうになった身体をなんとか落ち着けつつ、俺はエムルを頭に乗せると国王と第一王女を連れてその場の離脱を試みる。

「し、しかしこの暗闇では……」

「暗闇? あー……ご安心を、自分はこんな面をつけていますが夜目が利きますので。お二方、お手を失礼」

「あっ……」

はぁー……第一王女だけ置いていけよ、って心の中の悪魔が囁くぅ……天使も同意してんじゃねーよ。くそッ、俺の未来は俺が決めんだよ!

来た道は三つ首ティラノと騎士団で塞がれている、大体理解したよこのクエストの趣旨をな……!

国王と第一王女の手を引き、踏み込む先は樹海のさらに奥、楽しい楽しい遭難を始めようじゃないか。