軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それは呪いを放つ傷

「………」

「アブラムシ、 それ(・・) は貴女の主義主張とは対極の行いではなくて?」

「……うるせぇ」

とある会社、とある階層、とある装置の前。

シャングリラ・フロンティアというゲームの心臓であり脳であり魂であり……つまりは 世界の中枢(サーバールーム) におけるとあるサーバーの前に立つ白衣の女へと、ジャージの女が話しかける。

「そんな私欲にまみれた手で私の世界に触らないで欲しいのだけれど?」

「うるせぇ! また(・・) なんだぞ!?」

「だからってそんな、私怨でプレイヤーのデータを消そうとするのが非常識なことくらい私にだって分かるわよ」

白衣の女の名は天地 律、そしてジャージの女の名は継久理 創世、どちらもシャングリラ・フロンティアというゲームを成立させる上で欠かすことのできない人物であり、見ようによってはシャングリラ・フロンティアにおける「神」と言ってもいい者達である。

だが、普段とは真逆の立場として相対する二人にはいつもの険悪さとはまた別の緊張が張り詰めていた。

「貴女の失敗談は最上級の酒のツマミになるから大歓迎だけれど、トラウマ拗らせて私にまで迷惑をかけないでくれる?」

「ぐ………!」

ガン! と機材を蹴り飛ばす天地。とはいえ天地も継久理も体力がゴミであるため、その暴力が明確な被害をもたらすことはなかった。

怒り……ではない。もっと粘着質で、毒性を持ち、容易に除去する事が困難なその感情は憎悪と呼ばれるものだ。

「で? 「γのガンマン」に「φの野人」と続いて三人目の正体はなんだったのかしら?」

「……「μ」だ」

それはかつて在ったとあるゲームにまつわるもの、天地にとっては呪いの如く己の後ろ髪にしがみ付く過去の影。

別に一プレイヤーとして紛れ込むなら見逃しもしよう、だがその名が広大かつ深遠なシャンフロの中で明確に浮上する度に、天地の心はかき乱される。普段は真面目すぎるほど運営としての役割を果たす彼女が、子供が嫌いな食べ物を投げ捨てるかのように衝動のままに動いてしまう程に。

「この間の「剣聖」との勝負、凄かったものねぇ……で? 気になって 本体履歴(・・・・) を読み取って判明したわけね」

「……そういうテメェは随分と冷静じゃねぇか、あァ? ゴルドゥニーネとの接触までしたってのによ」

「真横でチンパンジーが騒いでいれば誰だって冷静になるわよ。まぁ、それを差し引いても私は貴女と違って寛容な心の持ち主だもの」

どの口が言いやがる、と唾を吐き捨てんとした天地であったが、この場でそんな愚行をする事がどれ程馬鹿な事かを分かっているが故に、なけなしの理性が衝動を殴り倒してなんとか堪える。

さりとて、致し方のない理由もある。

既に過半数のユニークモンスターとの関わりを持つプレイヤー、その素性を調べていた時に表示された三つのゲーム……天地にとっての「 地雷(きず) 」であるそれが雁首揃えて表示されたのだ。

「相変わらず、お父上の事になると獣の如く野蛮になるのね」

「……あのクソオヤジの話をするんじゃねえよ」

「私は結構尊敬しているわよ?」

リアリティを何よりも優先したが為に、VRそのものを滅ぼしかけた人物。その血の命脈に繋がる天地は幾らかの冷静さを取り戻して尚、恨みがましい目でコンソールを睨みつける。

「アタシは奴を認めない……自滅するならまだしも、何もかも巻き込みかけた奴を私は超える……」

「その結果が アレ(・・) でしょ?」

「 だからこそ(・・・・・) アタシはシャンフロに手を抜かない、例えお前だろうとゲームの邪魔になるなら捩じ伏せる」

冷ややかに天地を眺めていた継久理であったが、天地のその言葉に酷薄な笑みを浮かべる。

「ほざいたわねアブラムシ、でもまぁ…… 私の(・・) 世界をより良くすると言うのなら、その益に免じて駆除しないであげる」

「チッ……言ってろ」

天地が去り、継久理一人となったサーバールーム。人間的に相当だらしない格好の「神」は心の底から楽しいと言わんばかりの笑みを浮かべ、サーバールーム内を歩く。

「ふふ、ふふふふふ。クターニッドが倒されたのは割と不快だけれど……お陰で第三段階を早めに見る事ができたのは不幸中の幸いかしら?」

シャングリラ・フロンティア……ワールドクエスト第三段階「黄金を墜とす大戦」、新大陸に住まう全ての生命を巻き込んだ「竜」と「ジークヴルム」の戦い。

天覇のジークヴルム、リュカオーンと同じくランダムエンカウントするユニークモンスターであり、しかしてその出自を異なるもの。

「 なりそこない(・・・・・・) のドラゴン達、それでも私は貴方達を愛してあげる。シャングリラを形作る 一要素(いちいん) だもの」

くすくすと、心底楽しげに笑いながら継久理は それ(・・) の前で立ち止まる。

「頑張ってちょうだいな「ジークヴルム」……私の無聊を慰める為に、沢山のプレイヤーを屠ってね?」

返答はなく、「ジークヴルム」は無機質な音だけを返した。

なお此度の天地の暴走を後で知った木兎夜枝の胃に深刻なダメージがクリティカルで入ったものの、愛妻弁当で完治した事をここに追記する。