軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣狼相対すは雷火の獣 其の三

後ろから壮絶に失礼な言葉が聞こえてくるが、短い付き合いとはいえあの三人がそういう芸風であることは理解している。

あの(・・) アーサー・ペンシルゴンが、将棋で言う飛車角駒のような扱いをするだけあって、一癖も二癖もある連中であるらしい。

噂には聞いていた「鳥頭」は噂以上に形容しがたい人物であったし、ウェザエモン撃破の称号以外はあまり目立たない……正直 おこぼれ(・・・・) だと思っていたオイカッツォは下手をすればあの三人の中で最も強いのでは、とすら思えた。

(もしかして僕、相当に凄いクランに入れたのかな?)

フィフティシアの港でちらと見た程度だが、この三人以外のプレイヤーもあの二人に負けず劣らずだと京極はペンシルゴンから聞いていた。それに加えてサイガ-0の移籍……「ライブラリ」や「午後十時軍」が呼応したのはペンシルゴンの話術のみによるものではないだろう。

(んー……彼らなら アレについて(・・・・・・) 話してもいいかもしれないけど……おっと、今は目の前のお楽しみに集中しなきゃね)

何もユニークモンスターばかりがシャンフロの醍醐味ではない。

貴人を守護する九人の刃、その六番目を遠く離れた新天地で勝ち取った京極とて、とあるユニークを話すことなく秘している。

「さて……君か京 極(アルティメット) 」

「実際に相対するのはこれが初めてかな? それとも…… 去年会った(・・・・・) 事あるかな(・・・・・) ?」

「…………度胸があると言うか、無謀と言うか」

どうやら向こうも 京極(・・) の正体に気づいたらしい。「読みが違うから」と本名そのままでデータを作ったとは思いもしなかったらしい。

とはいえ京極も京極で「フルネームの文字を変えただけ」なんて安直なネーミングを姉妹揃ってやっているとは思わなかったのだが。

「そう言えば百……いや、モモさんとはガチで対戦したことはなかったっけ?」

「その呼び方は……はぁ、まぁいいさ。言っておくが現実と同じように行くと思ったら間違いだぞ 京極(・・) 」

飛翔する四の剣が消え、聖剣ただ一本を構えるサイガ-100。そしてそれに相対する刃先に至るまで漆黒の鋼で作られた黒刀を構える京極。

審判はなく、ただどちらが先を取るかを無言のまま推し量る……

「っ!」

「くっ!?」

次の瞬間、前へ出た京極の足を縫い止めるかのように、 再展開(・・・) された従剣が京極の踏み出した爪先をかするように地面へと突き立った。

「私とて龍宮院流は心得ている、初手の踏み込みを抑えられると弱いことも……な!」

「ぐ……なら!」

京極は辺りを確認し、展開された従剣が一振りであることを確認すると、突き立てられた「超猫じゃらしLv.100」とサイガ-100を警戒しつつもスキルを解放する。

切り込みの極意(トップ・スラッシャー) 、血戦主義、風雷怒濤。レベル上限を取り払った事で新たに習得、進化した通称「三桁スキル」が京極の身体にシステムの加護を齎し、その身の敏捷を高める。

「さらに……【 九尾朧火(ナインテール・シクス) 】!」

「ほう……見覚えがない、ユニークマジックか」

引き絞られた矢が放たれるが如く、獣の耳と紫の炎を灯す黒い刃で風を切りながら剣士が行く。

対するサイガ-100はこれまで手持ちの五本目として振るっていた聖剣を浮遊させ、代わりに別の直剣を握る。

「魔剣ラス・ペガシアス……ユニークではないが、その名くらいは知っているだろう?」

知っている、神話の大森林にごく稀に出現するレアエネミー「イーティバル・ペガサス」の角から作成される魔剣であり、その効果は武器の耐久値そのものにダメージを与える「 武器破壊効果(ウェポンブレイカー) 」だ。

その能力は京極が持つ「刀」系統のような……武器種として耐久の総量が低い武器とは相性が悪すぎる。

限られた武器のみが持つ「耐久消費無効」効果でなければ鍔迫り合いをするだけでもへし折れかねないそれを構えたと言うことは、京極が最も得意とする殴り合いの如き斬り結びを軽率に行えないと言う事だ。

「なら……斬り抜けるだけさ!」

「させんよ、ハイエスト・デクステリティ」

浮遊する従剣が京極へと切っ先を向けたまま空中に固定される。武器としてではなく障害物として二本の刃は京極の行動を制限し、止むを得ず京極はサイガ-100が持つ魔剣と刀をぶつけ、鍔迫り合う。

「ふっ!」

「はっ!」

互いに相手を押し込むように、されど実際は自分が後ろへと下がるために相手を押す龍宮院流剣術における「引き波の型」で距離を離す。

そして波が引けば新たな波が押し寄せるように、引き波の型とセットになっている攻撃態勢へと双方ともに移る。

「【 従剣劇(ソーヴァント) ・ 三重奏(トリオ) ……!」

「っ!?」

無論、龍宮院流に「剣を遠隔操作する」などと言うトンデモ奥義は存在しない。だがそれを成立させることはできる。

「 影絵三役(シンクロニシト) 】!」

発動者が振るう剣と連動して同じ軌道で動く二本の刃。あたかも剣聖の動きを真似る見えざる者がいるかのような擬似的な三対一、如何に対人に長けているとて無視するわけにもいかない。

「く……はあぁっ!」

その名の如く波のような軌道で衝撃波を発する攻撃スキル「荒波の太刀」で三つの刃を弾くが、三本同時に加えて一本は武器破壊効果を帯びた魔剣。

みしり、とあまり心地よい音ではない呻きを黒刀が漏らした。

「これは剣道の試合ではないからな……っ!」

「ならこっちも、相応の手段を使う……だけさっ!」

左手が霞み、京極はサイガ-100へと何かを投げつける。

先ほどのペンシルゴンのように何らかのデバフアイテムか、それとも手裏剣のような投擲武器か。その正体を見極めるよりも前に対応せざるを得ないサイガ-100ではあるが従剣で受け止める事で本体が対応する手間を省く。

その正体は「縛り 鳥黐(とりもち) 」、対人対エネミーを問わず有効な粘着する即興のトラップである。

ネッチョリと張り付いた鳥黐を剥がさんとオート操作の超猫じゃらしLv.100が空中でのたうつが、縛り鳥黐は五秒間取れることはない。

「一本止めれば……っ!」

剣聖の固有魔法【従剣劇】は展開している本数に応じたスキルしか使うことができない。即ち三本展開している現在、一本の動きを阻害すればスキルは飛んで来ない。

そして仮に妨害された剣をしまって二重奏にするとしても、その隙を京極なら突くことができる。

「……ここだっ!」

秘剣「 獅子落(ししおと) し」、 鹿威(ししおど) しに似ているが特に関係はない。

現在の京極が単体で出し得る中では最高の火力を齎すスキルが紫炎帯びる黒刀をさらに包み込む。

剣聖の苦手とする超至近距離、行く手を阻まんと飛翔する聖剣は一秒遅く、己の刃圏にサイガ-100を捕捉した京極が狙うは脇腹。

恐らくユニーク系であろう【 九尾朧火(ナインテール・シクス) 】は攻撃を命中させた場所にターゲットマーキングを付与し、そしてそれ以降は【九尾】魔法がその場所へのホーミング性能を持つのだ。

(入った!)

鋒に感触あり、鎧を砕き肉に……至らない。違う、肉じゃない、ただひたすら金属を押しのけるようなこれは、外した、違う。

火花が散る如く駆け巡った思考が京極に後退を選ばせる。

「【従剣劇・ 四重奏(カルテット) ……」

飛ぶ聖剣が主人を守るには一秒足りていなかった、であれば 本人が掴(・・・・) んで引(・・・) っ張れば(・・・・) その一秒を詰めることができる。

一瞬の判断、思考と行動がほぼ同一のタイミングで行われた高速の主役切り替え。手放した魔剣ラス・ペガシアスの代わりに握られた聖剣が京極渾身の一太刀を受け止めていた。

「 四面三角の錐(クアッド・デルタ) 】!」

空中に正三角を形成した従剣、その中心をサイガ-0が持つ聖剣が刺突した瞬間、まるで輪に張ったシャボン液からシャボン玉が生まれるかのように力の塊が発射される。

ただ一点シャボン玉と違う点を挙げるなら、それが球体ではなく三角錐であると言うことか。

「間に合え……っ!」

回避スキルによる無理矢理の捻りで三角錐の 突き(・・) を何とか回避せんと試みるも、左肩に食らいついたダメージ判定が京極の体力を二割ほど削り取る。

「…………成る程、流石はトップクランの長と言うべきか」

「京 極(アルティメット) 、これはシャンフロだ。ルール無用である以前に、剣道ですらないことを思い出すべきだ」

「嫌という程思い知らされたよ……」

削られた二割、全体的に見ればまだ戦う事は出来るが、ダメージ後のモーションフィードバックの点から見れば非常に不味い。

(一度に大量のダメージを受けるとその部位が痺れるわけで……参ったな、左肩が回復するまでどれくらいかかるやら……)

シャンフロでは痛覚が痺れに変換されている。故にこそ、噛み砕かれようが踏み潰されようが激痛を感じることがないがその代わりに寝起きに身体を伸ばした時のあの感触が全身に広がるような何とも言えない感触を受けることになる。

つまりは脱力感である。痛みはないが走ろうとすればその動きを大きく阻害する痺れ、今京極の肩に纏わり付いたものの正体がそれだ。

ことサイガ-100を相手としている場合、左肩が使用不可という現状は非常によろしくない。

(まぁ、もっとよろしくないのは……)

ちら、と少しだけ味方側の観客席を見る。

このまま負ければどう考えても旅狼外道三人衆に激しく煽られることになるだろう。自覚できるほど派手に啖呵を切った分、その煽りは想像を絶するはず。

(なんだろう、すごい嫌だ!)

本能的な拒否感、何としてでもこのまま負ける事は避けねばならない。負けたつもりは無いが少なくとも左肩が回復するまでどうにか時間稼ぎをしなければ。

思案を巡らせていた京極であったが、ふと。

(………………いや、これは……)

悪魔が降りた。

確実にサイガ-100を動揺させられる悪魔の言葉、だがそれはマナー的に言えばタブー側に偏った手段だ……何せプレイヤーのリアルを攻撃するに等しいのだから。

だが、

「時にサイガ-100さん」

「なにか?」

力の入らない左腕は使わず、右手のみで黒刀を握りしめて全身。

三本の刃が京極に狙いを定めたその瞬間……

「やっぱ胸にぶら下がってたメロンが無いと動きやすいの?」

「ぶふっ!!?」

「隙ありぃっっ!!」

明後日の方向に吹き飛ぶ従剣、そして京極の振るった刃が今度こそサイガ-100に命中した。