軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

徹頭徹尾の憎悪を食む蛇

必要条件、その三。

それは相手の行動を確定させ、位置取りを確保した上で俺自身が毒液の剣を斬るだけのアクションを実行する事。

その為に必要な要素は後手から始動し先手で実行するだけの速さ、確実に事を成す為の火力、そしてそれらを制御する手段。

「これ自動化できないものか……運営に要望、は流石に無理か」

見ようによっては出刃包丁をそのままサイズアップしたように見える蒼耀月の背峯にある冥輝部分の握りを掴んで刃先を背後に、腰に佩くようにして持ちながら右手にオブジェクト化した成分結晶を取り出す。

そしてそれを蒼耀月へと近づけると、まるで水の雫がより大きな水溜りに取り込まれるように手のひらサイズの結晶体が水晶の大剣へと呑まれていった。

「どうせ周回は出来なさそうだし、アイテムの貯蓄無視で大盤振る舞いだオラァ!」

これまでの戦闘で確保したゴルドゥニーネ・レプティカの成分結晶を全て蒼耀月へと食わせ、合体した一つの刃が持つ能力を発動させる。

「 輝塗蒼耀(ディープ・コーティング) !」

音声認識は浪漫があるが一秒すらロスにしか思えないこの瞬間では煩わしさすら感じる。

成分結晶を消費する事で抜き放った刃に消費量に比例した強化効果を付与する、絵面だけ見れば 金(アイテム) を注ぎ込んでパワーを得るなんとも言えない絵面だが、見た目だけで強さが手に入るなら苦労しないというものだ。

「さぁ来いゴルドゥニーネ、一撃だ……!」

封雷の撃鉄(レビントリガー) ・ 災(ハザード) を起動。左手で持った蒼耀月、もう一つの握りを右手で掴んで腰を落とした姿勢はまごう事なき 居合抜刀(・・・・) の構え。

そうとも、勇魚兎月【蒼耀月】は只の大剣ではない。これは濃紺の「鞘」と、その内部で輝きを増す黄金の「刃」でもあるのだ。

「晴天流奥義…… 一の太刀(・・・・) !」

晴天流奥義書を神代時代の機器で起動する事でプレイヤーは晴天流奥義を直接脳内に焼き付ける事ができる……いや、あくまでもゲーム的な設定での話だ。リアルの俺にまで影響が出たら流石に怖い。

そういう設定故か、晴天流スキルは通常のスキルとは少々毛色の異なる開放が行われる。

まず最初にスキルが一つ解放され、それを徹底的に使い続ける事で次のスキルが解放される。通常スキルと異なる点は第二スキルが解放されても第一スキルはそのまま残るという事、そしてスキル単体も強化を重ねる事で最終系……墓守のウェザエモンが使っていた奥義へと到達するという事だ。

故に一の太刀、それは超速抜刀「 断風(たちかぜ) 」に至る風の名を冠する抜刀術。

「カァァァァッ!」

元は蛇のくせに、四足歩行の獣の如き前傾姿勢で飛び込んでくる自称ゴルドゥニーネに対してこちらも雷を纏って踏み込む。

瞬刻視界(モーメントサイト) によるスローモーションの世界の中、左手に握る鞘と右手に握る刃に力が宿る感触がやけに強く感じる。

だがこのままでは同時の衝突でしかない。それではダメだ、先を取る為にすべきは過程を踏み越える跳躍の一歩……!

「【 瞬間転移(アポート) 】!」

互いに駆けるならば、一歩踏み込み、二、三を飛ばし四を踏む。

間合いの短縮、序章と終章を残して過程を全て破り捨てるかのような 禁じ手(タブー) は後手より走り出した俺が先手を掴み取る為の最善の一手。

自称ゴルドゥニーネの眼前、空中に躍り出た俺の姿に蛇相の眼が見開かれる。その姿にどこか滑稽さを感じて口の端を歪めつつ遮那王憑き、及びフリットフロートを起動。

空気の足場を踏みしめ、虚空に踏み込む。抜き放たれんとする黄金の刃は濃紺のオーラを纏い、その一閃はまさしく夜空を引き連れた月の輝き。

「晴天流……「 疾風(はやかぜ) 」!」

抜刀の瞬間、晴天流の抜刀術とは別にもう一つのスキルが発動していた。

それは勇魚兎月【蒼耀月】に備えられたもう一つのスキル「 致命の月蝕(エクリプス・ヴォーパル) 」。

強制的な合体解除、という条件を承諾する事で鞘に充填された魔力が刃……金照を押し出す事で抜刀を加速させるというスキルだ。

そして晴天流一の太刀「 疾風(はやかぜ) 」は抜刀攻撃スキル、その性質は抜き放たれる刃に付与されるものだ。即ちこの二つのスキルは抜刀術という一工程において両立ができる。

「な、ぁ……っ!?」

加速する夜空、天蓋が閉じられた地底の洞窟に、雷を纏い、 疾風(しっぷう) と化し、夜空を引き連れた月光が 高らかに歌う(SEを響かせる) 。

抜き放たれた刃は「致命の月蝕」の効果に従い【蒼耀月】ではなく勇魚兎月【金照】としての効果を発揮、毒液の双剣が衝撃に反応するよりも速くその刀身が水晶へと変じていく。

さらに毒液を斬り抜け、なお進む刃は自称ゴルドゥニーネの首に決して浅くはない 線(傷) を描いた。

「ふっ……決まっ、た……!」

意地でも失敗してなるものかと気合いで着地し、封雷の撃鉄・災の効果を解除。再び二本の刃となった勇魚兎月を構えて振り返る。

暫しの静寂、そして完全に結晶化した毒液の双剣が砕けた瞬間、首筋から紫色のダメージエフェクトを噴出させた自称ゴルドゥニーネの絶叫がトンネルを震わせた。

「ギィァァァァアアアア!!?」

「ぐ……即追撃とは行かないか……」

晴天流「疾風」は発動時点でのスタミナを全て消費して放つ渾身の一撃。消費したスタミナが多い程威力は上がるが当然攻撃後は一時的なスタミナ切れとなる。全身を鎖で雁字搦めにされたような脱力が一刻も早く終わるよう念じつつ、ウィンドウ操作はできるという判定を利用して勇魚兎月を 煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル) へと切り替える。

「はよ立てはよ立てはよ立て……」

アイテム化した毒液……「呪い」を拾って、超排撃で削って、それでも余るなら手持ちを使い切ってでも倒し切る。

それはあちらも同様だ。今までの憎悪がぬるま湯に感じられるような、自分自身すらも焼き尽くしてしまいそうな純粋な怒りを目に宿した自称ゴルドゥニーネが真っ直ぐただ一点、俺だけを睨みつける。

「 殺す(・・) 」

「 こっちの台詞だ(・・・・・・・) 」

ここから先は俺も本気だ、叩きのめしてやる。起因する感情こそ異なれど、互いに燃え盛る戦意を抱いている。

片や疲労に鈍る身体を、片や痛みに怯む身体を。速く動けと脅しつけながら如何にして相手を仕留めるか、ただそれだけを考えてその瞬間を待つ。

「不愉快……本当に不愉快。私が私である為に、人も 私(・) も本当に不愉快……ネ」

だからこそ気づけたのか。

思考を自称ゴルドゥニーネただ一点に集中させていたからこそ、ノイズが逆に際立ったと言うべきか。

そして瑠璃天の星外套に記憶された 瞬間転移(アポート) の魔法が、俺と自称ゴルドゥニーネの運命を分けた。

「!? っ、 瞬間転(アポー) ……」

「 死ネ(・・) 」

全てを焼き払うような憎悪、背筋に氷柱を刺されたような悪寒、痺れるような濃密な気配。

ゲームで表現しうる全ての危険信号が確認するよりも先にこの場からの離脱を選択させた。

そして視界が俺のいた場所から五メートルほど後方に下がった光景に切り替わったのを認識するのと同時に。

「ぎぷっ」

何か黒色の大質量が、自称ゴルドゥニーネに真横から激突した。

三メートルはあるであろう自称ゴルドゥニーネが、奇妙な声を残して人間と変わりないような吹っ飛び方をする。そしてある程度の視界が慣れてきた時、初めて自称ゴルドゥニーネを吹っ飛ばしたモノの……そして 瞬間転移(アポート) を使っていなければ俺をも同様の運命にしていただろうモノの正体を認識した。

「デカい、蛇……か?」

アルクトゥス・レガレクスに匹敵する、即ち電車程の体躯を持つ巨大な鱗持つ身体。

独特の光沢は爬虫類に見られるそれであり、このトンネルがどこに繋がっているのかという基本的な情報が俺に解答を齎した。

「オイオイ、嘘だろ……」

「生きてる? 不愉快は続くのネ」

すり鉢状の穴の淵に立つ小さな影。

自称ゴルドゥニーネと比べればあまりに小さな、それこそ人間の高校……いや、中学生程度しかない小柄な純白の少女。

まるで様々な地域の民族衣装を一度全部引き裂いてグチャグチャに繋ぎ合わせたような、奇妙な服を纏っているがモデリングが当然のように美少女である為元々そういうファッションであったかのように見える。

だが何よりも。

その表情に浮かぶ侮蔑よりも、その目は自称ゴルドゥニーネの憎悪すらをも凌駕する、直視するだけで身体が石のように固まってしまいそうな、ドロドロとした赤い蛇の目が、迷い込んだか弱い少女などでは断じてない事を示している。

そして少女の形をした怪物の背後に控える、四匹の大蛇。蛇と呼ぶには角まで生えたそれはもはや龍……いや、ファンタジー的には 龍蛇(ナーガ) とでも呼ぶべきか。

「私は」

それは独白か、それともこの場にいる俺と自称ゴルドゥニーネに向けての言葉か。

「私は私を生んだ人を憎む、私を脅かす 私(・) を憎む、私を阻む兎を憎む……ああ、世界は今日も不愉快だワ!」

だから、と 純白(アルビノ) の 少女(へび) は酷薄な笑みに溢れんばかりの殺意を乗せて宣言する。

「死んで頂戴?」

「お前がぁっ! 死ねぇぇぇええ!」

だが次の瞬間、撥ね飛ばされた衝撃から復帰した自称ゴルドゥニーネが怒号を上げて四匹の 龍蛇(ナーガ) を従える 少女(へび) ……「無尽のゴルドゥニーネ」へと襲いかかった。