軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

案山子ではなく、その一分一秒が歴史となる

三幹七枝、このような言葉は存在しない。

だがこの言葉通りの意味を持つものは存在する。

誰もが当たり前のように受け入れているからこそ気づかない。

生も死も、ただ本流に呑まれる小石のごとく流し、不可逆のベクトルに「老い」を付加する時間という絶対不変の潮流。

不特定多数が同時に遊ぶ箱庭である以上、誰か一人のために時間が止まることはない。当たり前の話だ……だがだからこそ見落とす。

この世界は確かに電脳であり、そこに存在する者たちに命は存在しない。だが、彼らの住まう三幹七枝は生命の有無を、人権の有無を考慮しない。さらに大きな流れに逆らうことなく時間は流れ、そして進む。

だから

今この世界における七つの最強種……神代に発生の根本を置く者達。彼らに最も近い者が何をしていようが、世界は進むのだ。

気宇蒼大(きうそうだい) の 天聖地(てんせいち) 。

中央に位置する巨大な台地と、そこに至るまでの傾斜に多くのモンスターが存在するエリア。上に行くほど強力なモンスターが 発生(スポーン) するが、その頂上にはモンスターが発生しないことが特徴でもある。

何故なのか、それはプレイヤー達の間でも知られている事実ではあるが……このエリアは、とあるモンスターの休息地であるからだ。

「ジークヴルム! お前を倒せば、僕だって……!」

『すまんな、今は客を迎えておる故御主等程度には構って居れんのだ』

その動機はただ一人のプレイヤーが二体のユニークモンスターを撃破したが故の焦りか、それとも自己顕示の暴走か。明らかに実力の足りていない装備でジークヴルムに挑まんとしたプレイヤー達が一撃でHPを0まで削られる。

とある仮面の忍者が模倣したそれ……威力からして全くの別物である真なるブレスによって文字どおり一撃で消し飛ばされたプレイヤー達の残滓をわずかに申し訳なさそうに見ながらも 黄金の竜王(ジークヴルム) は それ(・・) へと視線を向ける。

「相変わらず、律儀なやつだぁなぁ……」

『我が威を恐れず、武器を構える者は遍く勇者……全力で相手をすることこそが礼儀というものよ』

「そりゃあよう……お前さんの似姿たる彼奴らもかぁ?」

『うぅむ……あやつ等と我では根本からして異なるのだから、敵視は門が違うのだがなぁ』

苛烈なまでに全力、それが例えレベル差が100以上離れた駆け出し忍者であっても敵として迎え撃つジークヴルムは、されど挑戦者とは対等ではない。

この世界における反物質、幸も不幸も全てを内包するこの世界に対する最大級のカウンターたるジークヴルムは結局のところ孤高であり、対等な存在はいない。いるとすればそれは、起源を共有する同輩だけである。

『しかし珍しいな友よ、君から我に会いに来るとは』

「ま、そうなんだがよう……おめぇさんも気づいてるんだろう? そろそろ(・・・・) だとな」

『………で、あろうな』

世界は進む、それが如何なる理由であれ七つの楔のうち二つが外された。そして三つ目の楔は一体誰の撃破を以って引き抜かれるのか。

「竜災……あの「菌糸類」共はおめぇを狙ってる。二号の人間達もそれに乗っかってくるだろうよう。聞くまでもねぇがそれでも答えてくれや……どうする?」

『くくく……知れたことよ』

黄金の竜王は笑う。あの日ジークヴルムとなるものが生まれたその日から、ずっと己の存在意義を考えていた。

そして導き出した結論こそが「人の行く末に立ちふさがる試練」としての在り方。憎悪でも、尊敬でも、敬愛でもなく……期待、そして信頼を根幹とする竜王の根本原理。仮に人類が厄災の竜達と共に己へと向かってくるならば、むしろ歓迎すらしてもよい。

人よ強くあれ、人よ我を超えてみよ。

『我が意義は揺るがず、我が信念はあの日より変わらず。我は山、我は壁、我は門……人よ、我を踏み越え未来へと進め……だ』

「そうかいそうかい……だったら、ウチの食客共がおめぇさんの喉元に刃を向けるかもなぁ」

『以前言っていた墓守の御仁を屠り、深淵の タコスケ(・・・・) を超えし人間……それと、かつて我の逆鱗を穿った人間か! 面白い、実に面白いぞ』

心の底から愉快であると言わんばかりに笑う竜王。そしてその友は……かつては灰色だった、今は白色の毛並みを持つ長い耳を風で揺らす。

『よかろう、彼奴等が我を超えんと足掻くならばそれを踏み躙り君臨するが竜の務め。竜災の地に、真なる竜とは何たるかを教示してくれよう!』

ワールドクエスト三段階目「黄金を墜とす大戦」は、この瞬間を以ってその名を変える。

今を生きる竜と、今に至るまでを生きてきた竜王による、遍く人を巻き込む大戦……「竜災大戦」と。

「学校……ダルい……いやだがこのダルさこそ学校に行くという実感をもたらしていると考えれば風情的なサムシングを感じたり……」

ダメだ、そんなマゾヒスティックなフィーリングは持ち合わせてないや。

今日も今日とて蝉がうるさい。九月にもなってまだ求愛中ってそれ割と行き遅れてないかと思わなくもないが、命が尽きるその瞬間まで敢闘するスピリッツには敬意を表するべきだろう。

「……気配っ!」

後ろを振り向くが、誰もいない。ふっ……さては俺が俺の中で飼っている 厨二病(けもの) が寝返りでもし「お、おはようございます」

「っつおお!?」

前!? 数秒前まで視界に収めていた進行方向になんで斎賀さんが出現してるの!? オブジェクトとしてマップに表示されてないだけで固定エンカなの!?

「お、おはよう斎賀さん……」

斎賀さん固定エンカ説、という新説が俺の中で浮上するもそれを表に出すようなことはせずに挨拶を返す。

なんか最近やけに斎賀さんとのエンカウント率高いなぁ、と考えつつも行き先が同じなのでまたしても一緒に歩くことに。

「……あの、その」

「ん?」

「そのう……陽務君に、相談が、あると言うか……」

「相談?」

何故俺に? VRシステムの調子がおかしい、とかだったら簡単な修理くらいならできるけどぶっちゃけ素人に任せるよりメーカーに問い合わせた方が確実だぞ。

いや流石にそんな事を俺に相談はしないだろう、メーカーに問い合わせた方が早い。

「その……ゲームの事、なんですけれど……」

「もしかしてシャンフロの?」

「そうでは、あるんですけど……そうではない、と言います、か」

妙に歯切れが悪いな、シャンフロの事だけどそうではない?

「実は……」

斎賀さんの話した内容を纏めるとこう言う事らしい。

今、斎賀さんはシャンフロで自身にノルマを課している。そしてその為に所謂作業を繰り返しているのだが、やはり何事もやりすぎは毒、飽きて来てしまう。

聞けば陽務氏はゲームを多くやり込んでおり、この手の作業との付き合い方も詳しいのではないか。

是非とも作業を効率よく進める為の手ほどきをお願いしたく……

と言う事だそうで。まるで台本を読み上げているような印象を抱いたが、まぁどうでもいいことだ。

「作業……作業かぁ……」

実の所、VRゲーム……それもフルダイブタイプのゲームにおける作業は中々の苦行だ。

なにせ作業対策のお約束である「ながらプレイ」が出来ない。ミニゲーム集的なゲームだったりゲーム要素の薄い仮想現実メインだったりすると音楽とかムービーを外からインポート出来たりするんだが。

シャンフロをはじめとするゲームしているゲームは世界観的なあれそれでそれが出来ない……だからフルダイブゲーにおけるモチベーション維持は二パターンのうちのどちらかしかない。

即ち「むしろやる事を増やす」か「複数人でやる」か、だ。

前者の場合はたとえばタイムアタック要素を自ら課すとか、むしろ俺こそが攻略サイトを充実させると言わんばかりに効率的作業をマニュアル化したりだとか……そういう人種はむしろモチベーションが上がる。

後者の場合は単純に負担が減る、話し相手ができる。ながらプレイを他者を経由して実現しているから気楽ではあるが、スケジュール管理は自分と他人の二人分になる。

「そうだな……ん?」

ペンシルゴンからメールだ、SNSを使わないってことはつまりそういうことか? 何々……

件名:エマージェンシー

差出人:鉛筆戦士

宛先:サンラク、モドルカッツォ

本文:ごめん、京極がやらかした

ちょっと面倒なことになりそうかも

見なかったことにできないかな、できないよなぁ……今週の土日は面倒くさそうだ。