軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

倶に天を戴いて 其の十九

実のところ、ルストにとって弓というものはファンタジーの武器でしか無い。現実において弓道やアーチェリーの経験があるというわけでもなく、ただ遠距離武器であるというだけで選んだメイン武器である。

だがそれでも、「動いて、射つ」というバトルスタイルはネフィリム・ホロウで培われた技術を反映させることができるし、決して長いとは言えないシャンフロのプレイ時間の中で弓だけを使い続けてきた 慣れ(・・) はこの状況においてルストが為すべき事を成すために最適な動きを取る。

「……モルド」

「これで全部だよルスト、もうMPが尽きたからこれ以上の 強化(バフ) はできない」

「……ん、わかった」

視線を遠くに向ければ、実にアメイジングで実にファビュラスな機械鎧が実にエレガントな砲撃を放っている。

今すぐに アレ(・・) を使えるわけでは無いが、来る 新世界(新作) までの間には是非とも体験してみたい、シャングリラ・フロンティアにおけるロボ。

であればサンラクの他に二人いるというロボの所有者たちへの好感度を上げるべく、この戦闘で多大な貢献をすることは間違いでは無いだろう。

「………ふぅー……」

魔法弓「 聖幽柳の弓(ラール・ウィロー) 」は既に限界が近い、だがこの瞬間に八発の射撃に耐えられるだけの耐久を残している事をルストは称賛する。

魔法弓という武器種最大の特徴は魔法攻撃をスキルで放つことができるという点である……というのはあくまでも一般的な魔法弓の利点であり、ルストにとっての最大のメリットは魔法という非物質的な矢であるが故に物理的な制約を受けづらい、ということだ。

「……地味に狙いづらい」

それ即ち、SFなどで登場する「ビーム」と似た感覚で攻撃ができるということである。それに加えてルストはモルドの強化魔法と自身のスキルで矢の軌道をさらに真っ直ぐにすることで、まさしく「ビーム」と言っていい直線的な一矢を放つことができる。

狙うは深淵の盟主の背中、八つの宝珠。

スキル「天眼の一矢」により命中に補正がかけられた第一射が放たれる。空間を真っ直ぐ切り裂く光の矢がクターニッドの背中、巨大触手の付け根で輝く宝珠の一つにぶつかり弾ける。

「……次」

スキル「 噴流の螺矢(ストリーム・アロー) 」により貫通力が高められた第二射が放たれる。砕け散った一つ目の宝珠の破片をかき分けながら二つ目の宝珠を貫き爆ぜる。

「……次、次、次」

スキル「鶴瓶射ち」、スキル「跳ね馬の騎射」、スキル「一矢二鳥」……非物理的な 弦(つる) と矢で攻撃するため、剛弓のように力を込めて弾く必要が無い魔法弓、それ故に凄まじい勢いで連射される矢がクターニッドが地面に落ちるまでの数秒の間に次々と宝珠を穿つ。

そしてルストの見立ては確かに正解であった。砕かれた宝珠に対応する巨大触手は宝珠の破壊と連動するようにのたうち、根元からボロボロと崩れ去っていく。

「……あと二個……っ!?」

「ルスト!」

だがここで、誰もが予想しえぬ行動をクターニッドは選んだ。

残った二本の触手、宝珠の位置としては右肩上部と左脇腹から伸びた巨大な「腕」を激しくしならせて地面を強く叩く。挑戦者たちがそれを正確に知る由は無いが、自身への干渉と他者への干渉で物理法則が異なる触手は本来ならばありえないはずの動きを可能とする。

大地に叩きつけられた超重量の触手、されどクターニッドにとっては空気より軽い触手。重力をはじき返す上向きのエネルギーと、クターニッド本体分の重さしか無い体重。空気抵抗すらも欺く巨大触手による莫大なエネルギーはクターニッドをさらに 跳ね飛ばす(・・・・・) 。

「……跳ん、だ……!?」

「逃げてルスト!」

ルストは気付いた、この瞬間クターニッドの状態がまさしく反転したということに。

被弾による滞空では無い、上から下への位置的有利を確保した自発的な滞空であるということ。そう長くは保たずに巨体は落ちてくるであろうが、今この瞬間だけは力関係が完全に逆転したのだということ。

そして、振り下ろされた触手が狙うは自分であるということ………

「させま、せん………っ!!」

飛び込む錆色、乱暴に突き飛ばされたルストが地面を転がるように倒れ伏す。突き飛ばされたルストが見たものは振り下ろされた超重量に真っ向から立ち向かうサイガ-0の姿。

「く、ぅあ……っ!」

弱体化し、スキルも魔法も封じられたサイガ-0に触手を迎撃する手段は無い。円を描くように振り上げられた 致命の大鎚(ヴォーパル・スレッジ) と錆び付いた 神魔の大剣(アンチノミー) を渾身の力で触手に叩きつけ、その反動で触手の軌道と自身の位置をかろうじて位置をずらすも、巨大触手に叩き据えられたサイガ-0の身体が冗談のように跳ねる。

「………っ!」

「まだ、大丈夫……射って!」

違う、懸念はそこではない。そう言うために喉を振るわせることすらもが時間のロスになる。ルストの選んだ行動は果たして攻撃であった。

振りかぶられるもう一本の触手、だがそれでも攻撃のチャンスを逃すまいとルストは天上へと弓を構える。

そうとも、隙を作るのは彼の仕事なのだから。

残り十秒、エネルギー残量も僅か。これ以上の装備し続けることは危険であるし、これ以上の砲撃もできない。

だがそれでもやりようはある、やれることはある。

「全速力で飛ばせ青龍…… 空へ(・・) !!」

『御了解!!』

地の利はクターニッドにある、それを取り返すにはさらに地の利を上書きする他に無いだろう。馬鹿めクターニッド、空は俺と青龍のテリトリーだ。

力場の道は真っ直ぐ縦に伸び、それを駆け昇る様はまさしく鯉が龍となるための 昇滝(ショウロウ) だ。クターニッドを追い越し、暗さが薄まってきた夜空に青い龍が昇る。

「解除!」

四、三、二……一………間に合った!

危ない、三分経過まであと一秒だぞ……二度と昇滝を着用できないのは痛いが、それでクターニッドを倒せるなら釣り合いは取れている。

インベントリアに頭装備以外の【昇滝】一式を放り込み、まだギリギリ稼働している青龍に最後のオーダーを下す。

「 ぶん投げろ(・・・・・) !!」

兎月を【双弦月】に、合体した対刃を左手に持った状態で右手を青龍へと伸ばす。伸ばされた手は青龍のアームに掴まれ、最後のエネルギーを振り絞った青龍が俺の身体をハンマー投げのように振り回し……真下へとぶん投げた。

力を失い墜落する青龍よりも速く落ちる身体をなんとか制御しながら、真下へと【双弦月】の刃を突きつけ、スキルを起動。強者に挑む俺を照らす 致命の三日月(クレセント・ヴォーパル) の光はさながら流星のように光の尾を引き、物理演算の加護が今この一瞬だけクターニッドを凌駕する。

一瞬、ルスト達を二本目の触手で叩き据えんとしていたクターニッドがこちらに気づいたかのように身体を震わせたが……遅い、もう着弾する。

「這い蹲れクターニッドッ!!」

流星の速さを得た三日月が夜明けの風を引き裂き迸る。

三日月の刃は宝珠を一つ砕き、クターニッドを再び大地へと叩き落とす。だがその代償は大きい。

「ぐぁっ………」

クターニッドが滞空する十メートルほどの高さのさらに上から落ちてきた俺は、言うなれば上から下へピッチングマシンでぶん投げられたようなものだ。当然何かに触れればその衝撃は自分に跳ね返ってくる。

さらに言えば今この瞬間俺は攻撃のために受け身や着地を捨てている、であれば物理演算の加護は俺にそのツケを支払わせるだろう。

全身に痺れと脱力、これは間違い無く今ので体力が1になった。耐えてはいるが俺が着地したのはクターニッドの背中、つまりそこからもう一度地面に落ちる。

インベントリアエスケープしようにもMPはとっくのとうに尽きている、青龍はリアクターのエネルギー切れで既に電源切れだ、仮に誰かが下でキャッチしたとしてもさすがにノーダメージとはいかないだろう。

(これは死んだか……)

だが痺れ脱力しても身体を動かすことくらいは出来る。俺が下にいる奴らに送るメッセージはただ一つ。

「……殺れ!!」

最後の矢が放たれる。俺が落ちるであろう地点に先に落ちたクターニッドの最後の宝珠が粉々に砕け散り、巨大触手の全てをもぎ取られたクターニッドだけが残る。

レイ氏が走る。地面に叩きつけられ、激震と共にわずかに跳ね上がったクターニッドへと肉薄し、スレッジハンマーでクターニッドの首と鎖骨の間あたりだろう場所をカチ上げる。

クターニッドがちょうど海老反りのように顔を持ち上げさせられ、無防備な姿をさらけ出す。

そしてこれが王手だ、秋津茜が飛び出し例の謝罪砲を放つ構えをとる。

この一瞬、ただこの一瞬の為に全員が全力を尽くしてきた。秋津茜は竜威吹を発動する為の印を結ぶと、息を大きく吸い込む。

ふと、露わになった秋津茜の素顔がこちらを向いて迷いを見せる。何故ここで躊躇うのかと考え、その理由にふと思い至る。

そうか、この軌道だと俺も竜威吹を食らうのか……些事だな、そもそも落下の時点で死ぬわけだし。

だったら、やることは一つだ。俺は頭から落下しながら秋津茜に親指を立てたサムズアップをしてみせ、改めて告げる。

「ぶちかませ!」

返事は無く、ただ秋津茜の動きから迷いが消えた。

「さぁてクターニッド、互いに死んでも死なないようなもんだ。遠慮なく死ね」

地面が迫る、それでも目は瞑らない。最後に見たものは視界を埋め尽くす竜の閃光と、まるで誰かが流した涙のような小さな輝き……

そしてクターニッドと共に光に呑まれた俺は死んだ。