軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンスト・ロスタイムファンタジスタ

『ログアウトします』

あれ、ログアウトするのか。てっきり4ラウンド目に入るのかと思っていたのだが。すべての感覚が外界から切り離されたような感覚、起床するときのように肌に触れる空気を認識し、目を開けば頭全体を覆うVRシステムの無機質なボディを視認し、そしてやかましいほどの大歓声が鼓膜を打つ。

「うるさ……」

「自業自得だよバーカ」

「うっせーぞ 大腸大戦争野郎(レストルーム・ウォー) 」

「下手に騒ぐと電波に声乗るよ」

それは困る。確かに俺は正体不明の助っ人カボチャ頭だが極めて一般的な人間なのだから、爆弾魔やトイレ野郎と一緒にされるのは不本意だ。

「つーかログアウト? 引き分けで両方負け扱いなの?」

「違うよ、馬鹿二人があまりにも命削ってるような戦いを繰り広げたから一旦休憩挟むんだって」

「つまり4ラウンド目はやるのね……」

なんというか、精魂尽き果てかけている。さっきの相打ちで出せるものだし尽くした気分だ、これはもうさっさと負けてカッツォの奴に手番渡したほうがいいんじゃ……と、カッツォから中身の入った缶を投げ渡される。

「ほれ、トゥナイトは在庫切れだったけど 強襲中隊(アサルトカンパニー) から拝借してきた」

「おっマジかよバックドラフトじゃん!」

プシュッと開いてぐびっと一気。おぉ……身体にカフェインが駆け巡る、消費して枯渇しかけたライオットブラッド・トゥナイト分のカフェインが補填されて元気が漲ってきたぞ。こう、ドバドバとあまり健康的ではない感じに!

「これ日本製かよ……つーかいいのかよ、俺にガソリン補給するような真似してさ」

「お前にとってカフェイン= 燃料(ガソリン) なのか……はは、ここで君の邪魔したらお……ごほん、僕の好感度に関わるからね。それに」

「それに?」

「仮にシルヴィアが負けたとしても、その勝利者に七割勝てる僕が逆説的に最強ってことになるから」

「超理論かよ……」

三すくみって言葉を知らないのだろうかこいつは、いやじゃんけんの概念は知っているのだからそれはないはず……

「うーん、ヘルメットで顔が見えないはずなのに馬鹿にされてるって分かるんだけど」

「馬鹿にしてるなんてとんでもない、心配してるんだよ」

お前の知性を。

結局のところを言えば、だ。 サンラクでは(・・・・・・) シルヴィアには(・・・・・・・) 勝てない(・・・・) 。それはカッツォ……魚臣 慧にとっては純然たる事実であった。

確かに先ほどの試合はプロゲーマーの視点を以てしても凄まじいの一言であった。シルヴィア・ゴールドバーグと同じタイプの、そして無敗の流星に匹敵する力を持つプレイヤーをぶつけた場合にどうなるのか……既にネットの話題はシルヴィアと、それに対抗するカボチャ頭の事で持ちきりになっているだろう。

だが、ただ強いだけではシルヴィアには勝てない。サンラクの 最高潮(ハイテンション) はシルヴィアの喉元に届きうるものであった、最後の相打ちとてどちらが勝ってもおかしくない。だがログアウトしたサンラクの消耗ぶりを見て確信した、仮に別の日に改めて試合をするのであればサンラクにも勝ち目はあるかもしれないが今は無理だ。なにせ、シルヴィア・ゴールドバーグというプレイヤーの最大の武器は時間が経過するほどに脅威を増していくのだから。

(とはいえ、サンラク……キミはよくやってくれたよ)

シルヴィア・ゴールドバーグ最大の武器、それはテンションによって急上昇するバトルテクニックでもリアル・ミーティアスと称されるバトルセンスでもない。どれだけの激戦を、どれだけの時間続けても一切パフォーマンスが劣化しない化け物じみた 継戦力(タフネス) 、それこそがシルヴィアを無敗たらしめる最大の武器なのだ。

体力を削ることができないラスボス戦、単純にして極めて悪辣すぎる事実こそがかつて「連続五十人抜き」などという正気を疑うスコアを叩き出したシルヴィア・ゴールドバーグの真の恐ろしさである。

(流石にエクストララウンドに引っ張り込むまで粘るとは思わなかった)

危うく勝ちかけた時はこいつ自分の言ったこと忘れているのかと奴の記憶領域の心配をしたものだが、結果的に最高のコンディションで慧へとパスが放たれるのだ。

(とはいえ、俺個人としてテンションモンスター共の共食いがどうなるのか見たいのも事実だしなぁ)

妙なところで察しのいいサンラクのことだ、自身が追加のエナドリを渡した意味は察しているだろう。即ち、「全力で戦ってこい」という後押しを。

もしもシルヴィアが負けるならそれまでのこと、シルヴィアがサンラクに勝ったというのであるなら、その時は奴の無敗記録を終わらせるのは自分の役割になるだけだ。

「よかったの? 折角夏目ちゃんやサンラク君、そしてこの私が頑張ったってのに」

「……ま、忌々しいけどその点ではシルヴィアを信じてるからさ」

いつだって世の中は王道に収束する、どれだけ邪道に逸れても、最後は……

「最後は必ずヒーローが勝つ、ってね」

今の俺には腹の立つことが三つある。

まず一つ目、スターレインのプレイヤーが使うキャラ当て勝負で二敗したので寿司が確定したということ。ああ、シルヴィアはミーティアス確定なので除外される。

次に二つ目、渡された「ライオットブラッド・バックドラフト」が日本産だったこと。そこは米国産にしろよ、絶妙にフルスロットルにさせないあたりに奴の性格の悪さが伺えるな。

そして三つ目、エクストララウンドに向かう俺を見るカッツォの目が完全に負けイベで死ぬNPCを見るそれであったことだ。

なるほど、こちらが慢性的な頭痛と気だるさをカフェインでごまかしている中、滅茶苦茶ピンピンした様子でインタビューに答えていたシルヴィア・ゴールドバーグを見れば実力云々の前にタフネスがそもそも桁違いであったことは明白だ。さっきまで殺し合いみたいな迫力で戦ってましたよねあなた、なんでそんなピンピンしてるん?

対人戦と対モンスター戦では精神の削られようにも違いが出てくる、金晶独蠍やリュカオーン、シャチ野郎相手に戦い通したこともあるが、あれはあれで結構隙が多めに設定されているのだ。

自分で言うのもアレだが結構激戦であったはずなのに無敗のヒーロー殿は全く消耗した様子が見られない。これは長期戦によるパフォーマンスの低下は見込めないだろう。

なるほど、消耗したアマチュアとまだまだ余裕のプロゲーマー、どっちが勝つかなんて言うまでもないだろう。

だがなカッツォ、俺は今腹を立てているのだ。シルヴィア・ゴールドバーグにナメた目で見られた時ほどの瞬間火力は出せないが、それでも「ただで負けてやる気はない」と思えるくらいには腹を立てているのだ。

ゲームの攻略にはモチベーションがいるがゲームを始める理由は理屈じゃねーんだよ、悪役には悪役なりの散り様があるってのを見せつけてやろう。

「エクストララウンドでは互いにゲージの上昇量が二倍になる、さらに通常ラウンドでは出現しないNPCが出現する……」

システムからして短期決戦を推奨する内容であるわけだ。俺を囲むようにしてハンドガンではない、アサルトライフルを構える 軍隊(NPC) の皆様を眺めつつ、数十秒後にやってくる死神の姿を思い浮かべつつ俺は動く。

「ショッピングの時間だ」

その戦車いいね、戦闘機とか来ないのかな?