軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51話 封印された怪物と戦ってみた

「――私が倒しておきましょうか、それ?」

「え、えっと……倒すとは、“原初の水クリスタル・イヴ”をか?」

「はい! なんか、けっこう簡単に倒せるみたいなので」

「「「…………え、えぇぇ……?」」」

というわけで――。

ローナたちはさっそく、神話の大怪物が封印されているという海底祭壇へとやって来た。

神聖さを感じさせる祭壇の奥には、ひとつの石の門が取りつけられている。

その門の先は、水の膜に覆われていて見ることができないが――。

ぞぞ……ぞぞぞぞぞ…………ぞぞぞ……と。

門の向こうから漂ってくる強烈な瘴気が、ローナたちに告げていた。

この先に――封印されし怪物“原初の水クリスタル・イヴ”がいるということを。

「ほ、ほほ、本当に大丈夫なのか、ローナ殿?」

「は、早まるな、げぼく! やつは人間になんとかできる相手じゃない!」

「いくらげぼくが強くても無理だ! 相手は世界を滅ぼせる怪物だぞ!」

海王とルル×2が止めようとしてくるが。

「……大丈夫です。ちゃんと全部、わかってますから」

たしかに、相手は神話に出てくるような化け物だ。

今まで多くの神々が挑んでは殺されてきたという強大な敵。

まともに敵の攻撃を食らえば、Sランク防具を2つ持っている今のローナでさえも一撃死しかねない。

しかし、それでも――。

(……私はもう、昔とは違う)

これまで、インターネットでたくさんのことを学んできた。

今のローナはもう、終末竜ラグナドレクと戦ったときのような――なにも考えずにボス部屋に入っていたときのローナとは違う。

ちゃんと、ボスの弱点や耐性を予習し、攻略動画を見ながらボス戦のイメージトレーニングを重ねてきた。

だからこそ、ローナは自信を持って、ボス部屋へとつながる門の前へと立つことができた。

「……ローナ殿、この門から結界の中へと入ることができる。だが、入ったら最後……もう後戻りはできないぞ? 結界の中からは、けっして外に出ることはできぬ。そして、原初の水が倒されたことを確認するまでは……この結界を解除することもできぬ」

「はい、それで大丈夫です。私としても、そのほうが戦いやすいので」

「……そうか……すまぬ、健闘を祈る」

海王がその場にひざまずき、深々と頭を下げた。

それは、ローナという人間に対しての最大限の敬意の現れであった。

「えっ、えぇっ!? あ、頭を上げてください!」

ローナがわたわたと混乱して、やめさせようとするが。

「「「――海王様だけに、頭を下げさせるなっ」」」

「え、ええっ!?」

その場に来ていた水竜族たちも、その場に一斉にひざまずく。

水竜族の中には、まだローナという人間に懐疑的な者もいた。

――人と水竜族は相容れない。

ずっと、そう教えられてきたからだ。

人は恐ろしい生き物で、国に入れば災いが起こる。

今回の災いも、もしかしたら人間が国に入ったせいなのではないか、と。

しかし、門の向こうから流れてくる怪物の殺気に、多くの者が足をすくませて動けなくなった中――。

この人間の少女だけは、戦おうとしていた。

海王が生贄になれば、封印は維持できる。

それで人間にとっては問題ないはずなのに。

それでも、水竜族のよりよい未来を目指して――前へと進もうとしてくれた。

人だとか水竜族だとか、そんなことは関係ない。

この少女の小さな背中に、なにも感じない者など……この場にはいなかった。

「「「……ご武運をっ!」」」

「えっ? あ、はい」

ローナは水竜族たちに見送られながら、ふたたび門への歩みを再開する。

しかし――。

「「げぼくっ!」」

と、ルル×2がローナにしがみついた。

「ルルちゃん?」

「や、やっぱりダメだ! こんなのは無駄死にだ!」

「いやだ……せっかく……せっかく友達になれたのにっ! 初めての……友達なのにっ!」

「ルルちゃん……」

ルルの叫びに、ローナは足を止めた。

それから、ルル×2を安心させるように、ローナは優しく微笑んだ。

「大丈夫です。私はどこにも行きませんよ。ルルちゃんの側からも離れたりしませんから」

「「……ほ、本当に?」」

「はい! だって――“位置取り”はここで大丈夫だと思うので!」

「「…………る?」」

そんな言葉をかわしてから、ローナはすぅっと息を吸い……。

そのまま、門へと入る――ことなく、門へと杖を向けた。

「それじゃあ、攻略開始です――プチサンダー!」

「「「…………へ?」」」

ばりばりばりぃぃィイ――ッ! と

ローナが門に向けて、魔法をぶっ放した。

杖から放たれた極太の雷は、門の中へと吸いこまれ――。

『――キュォオオオオオオ……ッ!!』

凄まじい雷鳴とともに、怪物の悲鳴らしきものが聞こえてきた。

「「……え? ……え?」」

ルル×2がローナにしがみついたまま、ぽかんと口を半開きにする。

他の水竜族たちも、「……え?」みたいな顔のまま固まり――。

そんな中、ローナだけが明るい声を出していた。

「よし、ちゃんと攻撃が当たるね♪ インターネットに書いてある通り♪ それじゃあ、もうちょっと引きつけてから――リフレクション! からのぉ――プチサンダー! プチサンダー! プチサンダー!」

門の中へと、さらに雷を放つローナ。

ガッ、ガッ、ガガッガガガ……ッ! と

門の向こう側からは、怪物が門に体当たりする音が聞こえてくるが……。

結界に引っかかっているのか、こちらに出てくることはなく。

「プチサンダー! プチサンダー! プチサンダー!」

『キュォオオオオ――ッ!!』

「プチサンダー! プチサンダー! プチサンダー! あっ、椅子持ってきたんだった……ふぅ、よしっと! それじゃあ――プチサンダー! プチサンダー! プチサンダー!」

『キュォオオオオオオオオ――ッ!!』

「いったん、ここで―― 星命吸収(テラ・ドレイン) ! からのぉ――プチサンダー! プチサンダー! プチサンダー! プチサンダー!」

『キュォオ……キュ……キュオオオオ――ッ!!』

(((………………なにこれ?)))

その場にいたローナ以外の全員が、唖然としたようにその光景を見ていた。

目の前でくり広げられているのは、神話に出てくる大怪物との戦い。

それで間違ってはいないのだが……。

(((――――なんか、思ってたのと違う!)))

その瞬間、水竜族たちの気持ちがひとつになっていた。

もっとこう、地形が変わるような激しい死闘がくり広げられると思っていたのだが……。

目の前に見えるのは、椅子に座りながらあくびまじりに杖を振っている少女の姿だけ。

門の先が水の膜のようなもので覆われているため、敵の姿を見ることすらできない。ただ、怪物の悲鳴が聞こえてくるあたり、ちゃんと攻撃は届いているのだろう。

(な、なにが起きてるんだ……?)

(こ、こんな戦い方が……許されるのか?)

と、水竜族たちが混乱している一方で。

(うん、完全にパターン入ったね! インターネットに書いてある通り♪)

ローナはほっとしたように、インターネット画面に視線を落としていた。

――――――――――――――――――――

◇立ち回り

原初の水は戦闘時、コアの周囲にある水を、竜・剣・星・人の4つの形態に変えて戦ってくる。それぞれ特性が違うため総合的な強さが求められるほか、星形態になると水球の中で回復され、人形態は時間とともに成長していくため、できるだけ火力を積んで短期決戦に持ちこみたい。

……ただし、ボス部屋の入り口に当たり判定がないため、エリア外から一方的に攻撃することができてしまう(入り口に近づきすぎると、敵の攻撃が当たることもあるので注意)。

――――――――――――――――――――

インターネットによると、どうやら『結界には外から入ることができても、中から出ることができない』『扉代わりの水の膜に当たり判定がない』といった事情で、このように一方的に攻撃することができてしまうようだ。

ボス部屋に入らずに、ボスを一方的に撃破する。

このような戦い方を、神々の言葉で――。

――“エリア外ハメ”と呼ぶらしい。

といっても、敵の凄まじい回復スピードを上回るだけの火力がなければ、HPを削りきることはできないようだが……。

ローナには、世界樹の杖ワンド・オブ・ワールドの火力がある。

それに加えて、魔法反射スキル【リフレクション】のおかげで威力が2倍。

さらに、85ものレベル差があるため、スキル【大物食いⅢ】の効果によって、与えるダメージは3.55倍――。

今のローナの攻撃は、神話の怪物にもしっかり通用する威力になっており――。

「――プチサンダー! プチサンダー! プチサンダー!」

『キュォオオオオオオ……ッ!』

苦しげなうめき声が、門の向こうから聞こえてくる。

そこからはもう、完全に作業だった。

ローナは退屈しのぎに動画を見ながら、10分ほどちくちくと攻撃を続け――。

『――愛してる』

「ぐすっ……いい話だなぁ、この“いべんとむーびー”……プチサンダー……プチサンダー」

『キュォオ……ォォ……キュォオオオ――――ッ!!』

やがて門の向こうから、ひときわ大きな怪物の絶叫が聞こえてきた。

そして――。

『原初の水クリスタル・イヴを倒した! EXPを111111獲得!』

『LEVEL UP! Lv57→67』

『SKILL UP! 【大物食いⅢ】→【大物食いⅣ】』

『アイテムボックス枠が50拡張されました』

『称号:【原初を超えし者】を獲得しました』

「プチサ……あ、あれ? 終わった?」

気づけば、視界いっぱいに表示されたメッセージが、戦いの終わりを告げていた。

敵の様子がわからないため、勝ったという実感もなにもなかったが……。

門の向こうから聞こえていた音も消え、周囲は完全に静まり返っている。

ということは――。

「――あっ、討伐完了したみたいです! これで世界は救われましたね!」

ローナがにっこりと水竜族たちに笑いかける。

「「「――――――」」」

それは、水竜族の悲願が果たされた瞬間だった。

封印された怪物によって、今まで怯えて暮らしてきた水竜族たち。

その怪物によって、多くの悲劇が生まれ、多くの涙が流れた。

だからこそ、“原初の水クリスタル・イヴ”の討伐は喜ばしいことであり。

水竜族が1000年以上もの間、夢にまで見ていた瞬間だったのだが……。

「「「…………いや……えぇぇぇ……」」」

と、水竜族たちは、すごく複雑そうな声を上げたのだった。