軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

124話 こみけを楽しんでみた

なんだかんだありつつも、この世界初の“こみけ”は無事に開催された。

とはいえ、開催されれば『めでたしめでたし』というわけでもなく。

それも、開始直後はいろいろと混乱がつきものであり……。

『み、みなさん、走らなうわああああっ!?』

『くっ――「タ」「チ」「ツ」ブロックの動線が崩壊ッ!』

『こ、こちらも……至急、応援求む……ぐふっ!』

会場の総本部にて――監視カメラ代わりの通話画面で、会場全体をチェックしていたローナたちに、そんな悲鳴じみた報告が次々と入ってきた。

「こ、これが、インターネットに書いてあった“開幕ダッシュ”……」

「う、うわぁ……あたしのデータ以上の迫力だね、これは」

「……想定はしてたけど、やっぱり対応が難しいわね――とりあえず、西側入り口は、すぐに入場規制を✧ 待機列はルートBで誘導して✧ 『タ』『チ』『ツ』ブロックは混雑解消まで一方通行に✧ 通路をふさいでる列は、スタッフが『列途中札』で分断を――」

と、メルチェがすかさず、通話画面越しにスタッフたちへ指示を出していくが。

……なかなか列はまとまらず。

「うーん……みんな、こういうイベントに慣れてないっぽいですね」

やはり、“こみけ”は、この世界にとっては新しい形のイベントであるため、スタッフも来場者もいろいろと不慣れな様子であり――。

「こうなったら、マリリリーンさん! あ(・) れ(・) を、お願いします!」

と、ローナがひとつの通話画面に声をかける。

その画面の中にいたのは……。

『……ったく、しょーがないわね』

空飛ぶ巨大クラゲに乗って、会場の頭上をぷかぷかと浮かんでいる深海色の魔女だった。

『――あたしの幻に溺れなさい! 水天魔法――ミラージュミスト!』

と、マリリーンのそんな声とともに。

ふわぁぁ……と、杖からやわらかな光が放たれ――。

『――ッ!? な、なんだ、床にエリミナ様の顔が!?』

『くそっ、ダメだっ! おれには、エリミナ様の顔は踏めねぇッ!』

押し寄せてきていた来場者の波が、一気に減速した。

『こ、こちら、西側入り口! 突然、床におびただしい数の“エリミナ様の顔”が出現ッ!』

『あっ、あれは……来場者たちが“エリミナ様の顔”を踏まないようにして、歩くスピードをゆるめてるのか……?』

『お……おおっ、列がッ! 列が勝手に形成されていきますッ!』

それから、すぐに現場のスタッフたちの歓声が聞こえてきた。

「よし! うまくいきましたね、ミャリリーンさん!」

『いや……どいつもこいつもバッカじゃないの?』

と、マリリーンがあきれたように肩をすくめる。

『ま、でも……考えたものね。幻術で床に“エリミナの絵”を見せることで、列を誘導しようだなんて』

「はい! 人は、たとえ踏めば助かるような状況だとしても、自分の“推し”の絵を踏むことができないそうなので!」

ちなみに、エリミナの顔を踏める人も、もちろん出てきたが……。

そういう人たちに対しては、神々の世界の道路に使われている“錯視効果”を利用し――。

『う、うわっ!? 通路がゆがんでる!?』

『なんだ!? エリミナ様の顔が浮き上がったぞ!? 祟りか!?』

エリミナの顔の形や配置によって目の錯覚を引き起こさせ、走ることをためらうように対策していた。

とはいえ、水の幻術だと本が湿気で痛みかねないこともあり、使用にはそれなりに制限もあるが。

『ふんっ、まあともかく……あたしも関わった以上、無様な失敗なんてしたら許さないわよ。それに、 水竜族(うち) のやつらも、このイベントは楽しみにしてたし……ね』

「はいっ! みんなで楽しみましょうね!」

『…………ふんっ』

と、なんだかんだ言いつつも。

いつものように、めちゃくちゃ手伝ってくれるマリリーンであった。

こうして、マリリーンの活躍で、一時的に問題は解消したが……。

そこからも、しばらくローナたちは慌ただしく動きまわった。

「……国王陛下が来た? 忙しいから無視でいいわ✧」

「人手が足りない? それなら、私が3人分になります!」

「こ、こちらコノハ! うちの商会ブース周辺で『エリミナ完売』との誤報が拡散っ! 来場者同士の高度な情報戦により、混乱が広がってる模様――っ!」

「や、やべーでありやがりますっ! いきなり会場の上空に雨雲がっ!」

「な、なにぃっ!? あたしのデータだと、今日の天気予言は“快晴”だったはず!?」

「あ、あれは、もしかして伝説の“こみけ雲”!? ここは、私に任せてくださいっ! エンチャントウィング、からのぉ……風魔法――メガウィンドっ!」

「「「お……おおおおっ!? 雨雲が晴れたぞ! 奇跡だ!」」」

「あー、なるほど……天気予言に間違いはなかった、ってわけね」

そんなこんなで、“こみけ”は開始からしばらくは混乱もあったが……。

昼頃には混雑も解消され、そこからは、なごやかに仲間たちと楽しむイベントという空気になっていった。

ローナたちスタッフも、交代で休憩を取って、“こみけ”を一参加者として楽しみだし――。

「あのー、“ふかきモン”の新刊ください!」

「――む? お……おおぉっ!? もしかして、ローナ先生っ!? ローナ先生じゃないですかっ!?」

「え? あの、えっと……あなたは?」

「む? ああっ、ボクとしたことが申し遅れました! ボクの名前は、ラブカ・ライト! あなたの生み出したご当地クリーチャー“ふかきモン”のファンです!」

「ご当地クリーチャー?」

「それより、ローナ先生! なにか、新作などはあるんですか!?」

「し、新作? というのとは、ちょっと違うかもしれませんが……最近は、“むなっしー”というキャラクターを作りましたね。えへへ、こうやって、ぱらぱらページをめくると、“むなっしー”の生首がダンスするんですよーっ!」

「…………美しい。これ以上の芸術作品は存在しえないでしょう……」

「な、泣いてる」

「はぁっ……はぁっ……すごいぞっ! なんて気持ち悪さだっ! 吐き気がするっ! こんなおぞましい化け物を、同じ人間が生み出したなんて信じられないっ! あぁっ、やはり……あなたは天災だっ! どこまでもついていきます、ローナ先生っ!」

「い、いやぁ~、えへへ?」

やはり、読者と作者が直接交流できるというのは、双方にとって貴重な体験であり。

こんな感じで、フィーリングの合う仲間を見つけたり……と。

どこか心地よい空気の中、完売したサークルも会場に残り続け……。

そして、夜――。

『――それでは、たいへん長らくお待たせしました! 本日のイベントの最後を飾るのは、みなさんお待ちかね――みんなのアイドル、エリミナさんによるステージライブです! それでは、エリミナさん! どうぞっ!』

ローナのインターネット画面と、マリリーンの幻術と、メルチェが放出する七色のキラキラ女児オーラによって彩られた特設ステージにて。

(……ど、どうしてこんなことに……?)

アイドル衣装に身を包んだエリミナは、顔を真っ赤にしながら、ぷるぷると震えていた。

……本当に、どうしてこうなったのだろうか。

なぜだか、あらかじめ運命が決まっていたかのように、恐ろしくなめらかにこのステージへと導かれた気さえしてくる。

できれば、今すぐ逃げたいが……。

逃さないぞとばかりに、ステージ上でローナ・ハーミットがMCをしており。

『さあ、エリミナさん! 圧巻のパフォーマンスをお願いします!』

(すごく期待値を上げてくるぅ……)

と、エリミナがちょっと涙目になりながら、ステージの中央へと進み出る。

そこで、顔を上げたエリミナの視界に飛びこんできたのは――。

「…………ぁ……」

――赤いペンライトの海だった

炎のように揺らめく赤、赤、赤、赤、赤……。

どうやら、マリリーンが幻術によって、客席に赤い光(エリミナの推しカラー)を投影したらしい。

その魔法の光に照らされた観衆たちの手には、それぞれエリミナの同人誌やエリミナグッズが握られ――。

「「「――エリミナッ! エリミナッ! エリミナッ!」」」

と、数万人によるエリミナコールの大合唱がまき起こる。

「…………っ」

思いがけず、エリミナの目頭が、じーんっと熱くなった。

そういえば、ここまで誰かに応援されたことはあっただろうか。

正直、大衆(※エリートの対義語)なんて、ただ自分をちやほやするだけの道具でしかないと思っていたこともあった。

……毎日、直立不動で羊を眺めているだけの両親。

……『私は村長です』としか言わない故郷の村長。

……なぜか、ずっと同じ場所をぐるぐると回り続けるだけの同世代の子供たち。

そんな自動的に生きている“大衆”になりたくなくて……。

自分だけは“エリート”になろうと誓って、今日まで生きてきたけれど。

ずっと『周りには敵しかいない』と思って、ひとりで生きてきたけれど。

「………………」

しかし、なぜだろうか。今、この瞬間だけは――。

ここにいる観衆たちの存在が、愛おしくてたまらない。

この大歓声に応えたくて、たまらない。

(ふ、ふふふ……ふふふふふふ……っ)

エリミナは不敵に笑いながら、自分のコンディションを確認する。

……体は軽い。喉もしっかり温まっている。

エリートな決めゼリフも思いつき――調子に乗る準備はバッチリだ。

『さあ――それじゃあ、開演よ!』

エリミナは拡声魔道具を手に、ノリノリで指先を大観衆たちへと向けた。

『――あーッははははッ! もう、なにも 恐(こわ) くないわ! そうよ、私は全てをエリートにこなす女! エリートの辞書に『不可能』の文字はなし! さあ、完璧で究極のエリートのなんたるかを、そのハートに焼きつけなさい! ――1曲目は『エリぴょい伝説』ッ!』

「「「――わぁああああああああああ……ッッ!!」」」

こうして、歓声が大爆発し、会場がびりびりと熱気に包まれる中……。

『――♪ エリぴょい♪ エリぴょい♪』

エリミナの初ライブが――幕を開けたのだった。

ちなみに、このエリミナの初ライブは、後に『伝説の夜』と語り継がれることになるのだが……それはまた別のお話。

「――スタッフのみなさん! “こみけ”、めっっっちゃ、よかったですっ!」

「次は、うちらもサークル参加しますんでっ!」

「あっ! あたしたちも撤収作業、手伝ってもいいですか!」

「わぁっ、ありがとうございます!」

「……ん、よきにはからいなさい✧」

そんなこんなで。

この世界初の“こみけ”が、大盛況のうちに幕を閉じたあと。

なんとなく、祭りの終わりのような寂しさと充実感が漂っている会場にて。

ローナは、ぐぐぐ……と伸びをした。

「――くぅ~っ、疲れましたっ!」(ゴキッ! バキッ! ボキッ!)

「……15歳の女の子から出ちゃいけない音がしたわね」

「まー、おつかれ~って言いたいとこだけど……あたしたちは、まだ撤収作業あるからねー。日付が変わるまでに帰れればいいけど」

「んじゃー、あたしら“わ組”は、帰宅の動線管理と搬出のほうを手伝いやがりますねー」

と、さっそく撤収作業を始める面々。

ローナもローナで、アイテムボックスで備品を回収していったり……と、撤収作業で無双していたが。

「……ん? あれ、メルチェちゃん?」

ふと、静かになった会場の外で……。

ぼんやりと会場を見つめているメルチェを発見した。

「あの、メルチェちゃん? どうかしましたか?」

「……ローナ? ああ、いえ……“こみけ”……終わっちゃったんだって……思って」

どこか、ふわふわした心地のまま、メルチェは答える。

この“こみけ”には、ローナの言っていたように、客はおらず……仲間しかいなかった。

だからこそ、幼い頃から商売に明け暮れていたメルチェは――。

――今日だけは、商売をしなかった。

商売よりも“好き”を優先して、子供らしくはしゃいで。

たくさん“好き”について語って。

それによって、さらに自分の“好き”がどんどん広がっていって……。

「……なんだか、魔法みたいな時間だったわ」

「えへへ、メルチェちゃんも、たくさん楽しめたんですね!」

「……うん」

と、メルチェは頷く。

……そうだ、楽しかった。

いつまでも、この時間が終わってほしくないと思うほどに。

いつまでも、この魔法がとけてほしくないと思うほどに。

きっと、今日ここに来た人たちの多くも、同じような思いを抱いているだろう。

だからこそ――。

「……ローナ。また、やりましょう」

「え?」

「……今回は、準備も設営もダメダメだったし、ローナに頼ってばかりだったし……“次回”は、もっとうまくやるわ……今度は同人誌を作りたいって人や、出店したいって商会も多いし……次までには、“まんが”も広めて、もっとスペース数も増やして……いつか、わたしもみんなも黒字になるように……いつか、73万人が来場するぐらい大きくして……それから、それから――」

と、メルチェは、さっそく“次回”について考えをめぐらせ始める。

おそらく、“こみけ”は商売としては失格だ。

参加者たちから、なるべく入場料を取らないようにしていることもあり……今後、開催費を黒字化できる目処も立たず、多くのサークルも赤字になるだろう。

『王国一の天才商人メルチェがやるべき仕事ではない』と、大人たちは口をそろえて、そう言ってくるかもしれない。

しかし、それでも――。

「えへへ! なんだか、メルチェちゃん、すごく楽しそうですね!」

꙳✧˖°⌖꙳……うんっ!꙳✧˖°⌖꙳

今回の“こみけ”が成功したかどうかは。

そのキラキラとした輝きを見れば、一目瞭然だった――。