軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

122話 こみけの準備をしてみた

――“こみけ”。

それは、5万種類以上の“同人誌”が世に出され、最大で73万柱もの神々の戦士が参戦したとされる神界最大規模の祭典である(※ローナ調べ)。

それも、ただ“同人誌”の数が多いだけではない。

二次創作もあれば、オリジナル作品もあり、写真集、エッセイ、評論文、旅行記、ゲーム、雑貨、こすぷれ……などなど。

そのあまりの“表現”の多さに、ひとたび“こみけ”を訪れれば、自分の“好き”が必ず見つかるとされており……。

そんな、“こみけ”が今――。

『――この世界でも“こみけ”をやってみませんか!』

というローナの一声によって、この世界に降臨しようとしていた。

「い、いえ、私が言い出したことですが……本当にいいんですか? そんな、あっさり決めちゃっても?」

「……ええ✧ もともと『エリミナ感謝祭』みたいなイベントをやりたいとは思ってたし……なにより、わたしも同人誌っていうのを読みたいわ✧」

「なるほど」

そんなこんなで、“こみけ”をやると決めた翌日。

ドールランド商館にて、ローナはメルチェ&コノハとともに、さっそく“こみけ”の企画作りを始めていた。

それで、まずは“お手本”となる本家の“こみけ”について調べてみようという話になったのだが……。

「う、うーん……さすがに、本家“こみけ”の規模でやるのは無理そうですね」

「ま、まー、73万って、王都人口の数倍だしねー。さすが、神々はやることのスケールがでかいっていうか」

「……そうね……ひとまず、わたしたちの“こみけ”では……1サークル1スペースで、200スペースぐらいの規模にしましょう✧」

「や、初回から200スペースは多くない? 同人誌を買いに来る人は多いだろうけど、やっぱ作るのはハードル高いと思うし」

「……ちなみに、ローナ? 本家“こみけ”のスペース数はどれぐらいなの?」

「えっと、神様たちの“こみけ”のスペース数は――約3万です」

「「………………」」

なんの参考にもならない、天上の数字だった。

そんなこんなで、ローナたちが神々の“こみけ”にわからされたあと。

「……こ、こほん。ともかく、やっぱり盛り上げたいし……それなりにサークル参加者も欲しいわね✧ ここは『既刊のみでも歓迎』にして、うちで安価な印刷・製本サービスの提供を……」

「それと、『オリジナルもOK』って形にしましょう!」

「ま、それがよさそうだねー。最近は『俺HUKEEE小説』とかも流行ってるし、そっち系の同人誌も集まるんじゃないかな」

「……一般参加者もかなり増えそうね✧ なら、会場は余裕を持って王都闘技場にしましょう✧ うちが大口スポンサーだし、休場日ならすぐに借りられると思うわ✧」

「あっ、大きい会場なら、エリミナさんがアイドルみたいに歌って踊るステージライブなんかもあるとうれしいですね!」

「……やりましょう✧」

「判断が早い」

そんなこんなで、企画もだいたいまとまったところで。

『魔法少女エリミナ』の上映後に“こみけ”の告知をして、サークル募集をかけてみた結果――。

――――どんッッ!! と。

ローナたちの目の前に、応募書類の山が積み上げられることになったのだった。

「…………」

「……う、うわぁ」

「な、なんか、1000枚ぐらいはありそうですね」

「……これ、他の国からも応募が来てるわ✧」

「……ファンの人たちって、行動力の化身かなにかなの?」

どうやら“こみけ”というイベントは、世界中の“おたく”たちにぶっ刺さったらしい。

それもそのはずで……商業作家でもなければ、自分の“表現”を発表する場は、今のところほとんどないのだ。

よくて文通相手と見せ合ったり、小規模なサークルを作って発表会をしたりする程度。

ゆえに、“おたく”たちが盛り上がるのも必然であり――。

「ど、どうしますか、メルチェちゃん?」

「んー、こっから書類不備を落としたうえで、公平に抽選しても……けっこう阿鼻叫喚になりそうだけど」

「……そ、そうね、できるだけスペース数を増やしましょう✧ 会場のキャパはまだまだ余裕があるし……スペース数を500に――いえ、1000スペースにするわ✧」

「1000!?」

こうして、あわあわと企画をまとめ直すことになったが――。

この盛り上がりを見て、天才商人メルチェのやる気にも完全に火がついたらしい。

「あっ、設営図も書き直さないとですね……全体レイアウト……動線計画……安全管理――」

「……それなら、わたしが一晩でやっておいたわ✧」

「一晩で!?」

「あとは手続き関係もやり直しだね……道の混雑が予想されるから、王都衛兵詰所に届出と相談を……混雑対応のために案内看板を設置するなら、その許可のための申請書も必要で……その申請窓口は地区ごと違うけど、ここはたしか市庁舎の土木管理課に――」

「……安心して。わたしが一晩で許可まで取っておいたわ✧」

「一晩で!?」

「あとは、サークル配置も考えないといけませんね……長机半分で1スペースが基本で……中堅サークルは“誕生日席”、人気のサークルは壁際、最大手のサークルは 搬入口(しゃったー) の前に――」

「他にも、まだまだやることはあるよっ! カタログ作り……パンフレット作り……マニュアル作り……備品のレンタル……保険への加入……搬入出計画……消防法や火災防止条例への対応……役人や商会への対応――」

「……全て、一晩で充分ね✧」

「もう全部、商会長ひとりでいいんじゃないかな」

こうして、本来ならば数百人がかり(本家の“こみけ”なら3000柱規模)で1年ぐらいかけてやるようなイベントの準備作業が、メルチェによって次々と一晩で片づけられていき――。

꙳✧˖°⌖꙳――ん゙ッッ!!꙳✧˖°⌖꙳

「うわぁっ、商会長が死んだ!? ま、まさか、ついに過労死――!?」

「いえ……これも“尊死”です! 神様たちの“あにめ”に、心キュンキュンしすぎて心停止しちゃったみたいです!」

「余裕か!?」

そんなこんなで、イベントの手続き周りは、本気モードのメルチェに任せることにして。

ローナもローナで、イベントの準備に奔走していった。

「――えっ? 私にステージで歌って踊れと?」

「はい、エリミナさんならできるかなって! エンディングの歌とダンスもキレキレでしたし! あっ、でも、難しそうでしたら……なんか動画サイトで見つけたエリミナさんの“きゃらそん”をこちらで流すので、歌は口パクという形でも――」

「私の、きゃらそん?」

「はい、これです!」

『――♪ エリぴょい♪ エリぴょい♪』

「……えっ、なにこれ? なんで、私が歌って踊って……? えっ、身に覚えがない……怖い」

と、エリミナのステージライブの調整をし――。

「いらっしゃいやがりませーっ! って、ローナの姐御じゃないですかーっ! ……わふ? “こみけ”の準備を手伝ってほしい? へぇっ、新しい祭りを作るんでありやがりますかっ! さすが、姐御っ! ちょうど、 地上(こっち) には祭りが少ないと思ってやがったところですっ!」

と、ドワーフ姫のワッフル(技術スタッフ)を仲間にし――。

「くぅ~っ、どこの神じゃ! われの知らんとこで、“あにめ”なんて楽しいもんを作りおったのは! なんじゃ“こみけ”? 祭りか? ならば、われも冷やかしに行くのじゃ!」

「らふふ♡ わたくし、人間風情のしょぼい祭りとか興味ありませんわ――えっ、植物系の評論とかも出るんですの!? なにそれ、めちゃくちゃ行きたいですわぁ♡」

「ローナちゃん! わたし、絶対に“こみけ”の日に有給を取ってみせるわ!」

と、知り合いたちにも、“こみけ”の告知をしていった。

その知り合いというのは、もちろん水竜族やエルフや黄金郷の魔族など、人間から隠れている種族も含まれるわけだが――。

「むぅ……しかし、わしら水竜族は、まだ地上人から隠れている身……ぞろぞろと参加すれば騒ぎになるかもしれぬ」

「「るっ!? ルルは行っちゃダメなのか!?」」

「あっ、それなら大丈夫です、海王様!」

もちろん、その辺りはローナも対策を考えていた。

「“こみけ”は、“こすぷれ”もOKなので!」

「こすぷれ?」

「えっと、“こすぷれ”というのは……この画像みたいに、“あにめ”のキャラなどになりきる仮装みたいなものでして――」

「ふむ、なるほど……たしかに、これなら角や尻尾を隠すための変装をしても目立たないな」

「あっ、それと、衣装は自分で作っても楽しいと思います! “こすぷれ”もまた、ひとつの作品ですし、“こみけ”には、そういう参加の形もあるので!」

「つまり、わしも魔法少女になれる……ということか!?」

「はい!」

こうして、“こみけ”は種族問わずに、話題になっていき……。

さらに、ローナがお絵描きサイトで“こみけ”の広告を作って、近隣の町にも広告を貼っていった結果。

「い、いやー、当日の来場者予想がすごいことになってるね……」

と、コノハが顔を引きつらせるほど、“こみけ”は注目を集めることになった。

「んー、初回だし……保険のためにも、当日スタッフはもっと増やしたほうがいいんじゃない?」

「……すでに、王都闘技祭のスタッフたちを一晩で雇っておいたわ✧」

「それ、一晩である必要あった?」

「あっ、そうだ。ドンゴワにいるドワーフさんたちも呼びましょうか? よくお祭りもしてるそうですし、こういうのは慣れてるかなって」

「……そうね、頼むわ✧」

そんなこんなで、“こみけ”の準備は順調に進んでいき――。

――そして、ついに“こみけ”当日となった。

まだ空が白み始めたばかりの早朝。

朝日を浴びてキラキラと白光りしている会場――王都闘技場を、ローナたちは感慨深げに眺める。

「……ここまで、長かったですね」

「いや、早くない?」

「……そうね。思い返せば、あっという間だった気もするわ」

「そりゃ、本当に『あっという間』だったからね?」

と、コノハが、ローナたちにジト目を向けてくる。

というのも、だいたいのイベント準備はメルチェが一晩でやってくれたし、企画周りについても、ローナのインターネットを見れば“お手本”が書いてあるような状態であり……。

印刷・製本についても、大商会パワーで印刷用 古代遺物(アーティファクト) を大量購入し、安価&スピーディーな印刷・製本サービスを参加者に提供していたわけで。

「これで長いって言ったら、イベント関係者に助走つけて殴られるよ……ま、なんとか形になったからいいけどさ」

「……ともかく、本番はここからよ。張り切っていきましょう」

「はい! まずは設営ですね!」

そんなこんなで、ローナたちの“こみけ”が始まったのだった。

……エリミナが大観衆の前でアイドルライブをするまで、あと2話。