作品タイトル不明
108話 イベントを満喫してみた
一方、地底王国のある火山の地下深くにて。
巨大なマグマだまりの中から、ごぼぼぼっ……と、巨大な魔人が浮かび上がってきていた。
『――ぐごごご……時は満ちた……』
そうして現れたのは、溶岩の肉体を持つ巨人――溶岩魔人ラーヴァデーモンだ。
彼は1か月ほど前に、イフォネの町でエリミナ・マナフレイムと交戦し――敗北した。
それから、この火山に身を隠し、マグマを取りこんで肉体を再生させていたのだ。
『ぐごごご……エリミナ・マナフレイム(とても強い)につけられた傷も、ようやく癒えた……それどころか、この火山の力を吸収し、我はさらなる力を得たッ! 今の我ならば、エリミナ・マナフレイム(宿命のライバル)にも負けんッ!』
とはいえ、溶岩魔人はただ体力を回復させるためだけに、ここにいたのではない。
ここにいた目的は、他にもある。
『ぐごごご……エリミナ・マナフレイムは、魔族と戦うために必ずドワーフの技術を求めるはず……ならば、先にドワーフどもを滅ぼせばいい』
そう、ドワーフの技術は、魔族にとっても脅威となりうるのだ。
ドワーフたちは、魔族に傷をつける武器を作ることも、魔族の拠点へと到達できる乗り物を作ることもできる。
しかし、そんなドワーフも潰すのは簡単だ。
彼らの生命線であるニコニ坑道をおさえてしまえば、それだけでいいのだから。
今のニコニ坑道は、溶岩魔人によって火山のマナが暴走し、強力なモンスターが生まれ続ける魔の巣窟となりはてている。
『ぐごごご。我がこの地に来てから1週間……3日前に様子を見たときには、すでにドワーフどもは干からびかけていたが……はたして、今回はどのような絶望を見せてくれるかな……ぐーッごごごごごッ!!』
そうして、溶岩魔人はひとしきり笑ってから、ふたたびマグマの中へと身をもぐらせた。
この火山の内部には、血管のようにマグマの火道が張りめぐらされている。
そのマグマをつたって移動すれば、この火山のあらゆる場所に素早く出ることができるのだ。
『――さて、ここがドワーフどものいる町か』
マグマにもぐってから、しばらくして。
溶岩魔人はマグマから顔だけ出して、周囲の様子を観察する。
異変により国家存亡の危機にあるはずの地底王国ドンゴワ。
そこにあるのは、もちろんドワーフたちの絶望しきった顔――のはずだったが。
『――――は?』
思わず、溶岩魔人は口を開けたまま固まった。
彼の視界に入ってきたのは――。
「わっほわっほ!」「運べ運べ! イベP様のお通りだ!」「うー、どわっほい!」「にっこにっこに~♪」「今日も宴だどおおおおッ!」
3日前よりも活気に満ちたドワーフたちの姿だった。
なぜかドワーフたちは、魔の巣窟になっているはずのニコニ坑道に喜んで入っていき、そこから意味のわからないキラキラした石を大量に運び出している。
さらに、「わぁあああっ!」という歓声がしたほうに目を向けると……ニコニ坑道から、やたら貫禄のあるドワーフたちが現れた。
(……な、なんだ……あれは……)
そのドワーフたちが身につけていたのは、溶岩魔人も見たことのない装備だった。
もしも、この場にローナがいたら、その装備の名前がわかっただろう。
――園児服、スクール水着、バニースーツ、『GUNDOM』と書かれたダンボール、童貞を殺すセーター、猫の着ぐるみ、触角が生えた全身タイツ……。
そして、なぜか全員が――冷凍マグロを手にしている。
「きゃああああっ! 騎士様たちだど!」
「きゃっ! 冷凍マグロと目が合っちゃったど……」
「「「――か、かっこいぃいいいいッ!」」」
ネタ装備に身を包んだドワーフ(おっさん)たちを、町にいるドワーフ(おっさん)たちが黄色い歓声で出迎える光景が、そこにあった。
(…………なに、これ……?)
あきらかに異変が起きていた。
というより、溶岩魔人が起こした異変が、さらにやばい異変により上書きされていた。
(こ、この3日間に、いったいなにが……!? わ、我は、今……なにを見せられているのだッ!?)
あまりの光景に、フリーズする溶岩魔人。
そんな溶岩魔人に追い打ちをかけるように、先頭に立っているドワーフ王(おむつ&おしゃぶり装備)が、さらに信じられない言葉を発した。
「さて、それでは―― も(・) う(・) 1(・) 周(・) だ」
(――ッ!?)
そう言って、休憩を取ることもなく、ふたたびニコニ坑道へと入っていくドワーフたち。
(ば、バカな……あんなふざけた装備で、モンスターが強化されているダンジョンに!? それも出てきたばかりのダンジョンにもう一度だと!? 頭がおかしいのではないか!?)
と、溶岩魔人がそう思ったのもつかの間。
「――みんな、マグロは持ったな!! 行くぞォ!!」
「「「――どわっほいッ!」」」
ドワーフ娘(ランドセル姿)の号令とともに、後衛ドワーフがマグロの目から冷凍ビームを一斉掃射し、それから凍ったモンスターを前衛ドワーフが次々とマグロで砕き斬っていく。
(…………マグロ、鬼つええ……)
理解不能すぎる光景だった。
溶岩魔人はもはや、ただ困惑することしかできない。
(な、なぜだ? なぜ、マグロがあんなにも強い? お、おかしいではないか……ッ!?)
そうこうしているうちに、ドワーフたちが狩りを切り上げて、町へと戻っていき――。
「わふぅ~っ! 今日も今日とて宴しやがるぞーっ!」
「豪遊っ……! 3日続けて豪遊っ……!」
「イベP最高だどん! ずっとこのままでもいいどん!」
「えへへ。異変を起こしてくれた溶岩魔人さんには感謝ですね!」
「「「――溶岩魔人さん、ありがとう!」」」
(めちゃくちゃ我の仕業ってバレてるし、めちゃくちゃ感謝されてる……)
ドワーフを苦しめるために頑張って異変を起こしたはずが、なぜかその異変を満喫しているドワーフたちの姿がそこにあった。
(な、なぜだ……? なぜこんなことに?)
……わからない。なにもわからない。
ただ、ひとつわかるのは――溶岩魔人が引き起こした異変が、ドワーフになにひとつダメージを与えられていないということだけだ。
と、そこで、溶岩魔人はようやく気づく。
(――ッ! あ、あの者はッ!?)
そう、広場にいるドワーフたちの中に、見覚えのある少女がいることに。
(あれは、間違いない……エリミナ・マナフレイムの召喚獣!?)
黒髪&黒ローブの少女。
それは、エリミナとの決戦のときに、エリミナが切り札として出してきた召喚獣だ。
どうして、彼女がこんなところにいるのか……そんなのは決まっている。
溶岩魔人のたくらみを阻止し――討伐しに来たのだ。
そう考えれば、この状況も納得がいく。
(や……やはり、貴様かぁああッ!! エリミナ・マナフレイムぅううううッ!!)
溶岩魔人が心の中で、そう怨嗟の叫び声を上げるのだった。