作品タイトル不明
106話 岩を斬ってみた
「――ってわけで、この国の問題解決と、ローナの 姐(・) 御(・) の歓迎と、その他もろもろを祝しやがって~……とりあえず、 乾杯(どわっほい) っ!」
「「「―― 乾杯(どわっほい) !」」」
そんなこんなで、ニコニ坑道を“周回”したあと。
ローナはドワーフたちの宴会の席にまざり、“すいか”ジュースで一緒に乾杯をしていた。
「食え食え!」「祭りだ祭りだ!」「う~っ! どわっほい!」
「“周回”すりゃ、いくらでも食いもんは手に入るどん!」
お祭り騒ぎをするドワーフたち。
その周囲に山と積まれているのは、“イベントがちゃ”から出てきたアイテムの山、山、山……。
それは、つい先ほどまで物資不足で滅亡寸前だった国とは思えない光景であり――。
「いやぁ、みんな人間の嬢ちゃんのおかげだど!」
「人間ってのも、なかなか“どわっほい”じゃねぇか!」
「なにか作ってほしいもんがあれば、格安で仕事を受けるどん!」
「とりあえず、ゆっくりしていってくれ!」
「はい! 楽しませていただきます!」
と、ドワーフたちに、わっほわっほと囲まれるローナ。
そんなにぎやかな光景を見ながら、ドワーフ王はわずかに目尻を潤ませた。
「いやはや、もうこの国はダメかと思ったが……まさかこのように、また騒げるとはな……ローナ殿には感謝してもしたりんよ……うぅ」
「や、やめろ、クソ親父の涙なんて酒がまずくなるっ! でも、まー……あれだ……あたしからも、ありがとーございやがります! ローナの姐御!」
「いえいえ……というか、姐御?」
「わふーっ! あたしはローナの姐御の心意気と強さに、すっかり惚れやがっちまいましたーっ! どうか、妹分にしやがってくださいーっ!」
「う、うーん……まあ、よくわからないけどいいですよ!」
「わふぅ~っ! 姐御~っ!」
(な、なんか、子犬みたいだな……)
気づけば、ワッフルからもずいぶんと懐かれてしまったようだ。
まあ、姐御といっても、年齢はワッフルのほうが上らしいのだが……。
それはさておき。
「しかし、こんなにこの国が活気づくのは、いつぶりだろうか……」
「やっぱ、クソ親父がドワーゴのおっさんを追い出しやがってからじゃないかー?」
「……だろうな……はぁ……」
「?」
そこで、ふと――。
ワッフルたちの会話の中に、ローナも知っている名前が出てきた。
「あのぉ、ドワーゴって、もしかしてドワーゴ・ニコドーさんのことですか?」
「む? ああ、そうだが……」
「ローナの姐御は、ドワーゴのおっさんを知ってやがるんです?」
「あっ、はい。ドワーゴさんには、いつもお世話になってまして……たしか、『Aランクよりも上のSランクの魔剣を作ったのに、誰にも価値を理解してもらえなくて追放された』って話でしたっけ?」
「…………な、なに?」
ローナの口から、さらっと爆弾発言が飛び出てきた。
「そ、そういえば、先ほども言っていた気がするが……Aランクは1番上のランクではなかったのか?」
「え? ああ、Aランクは上から4番目のランクですよ。ちなみに、その上にはS・SS・SSSランクがあります」
「ば、バカな……Aが上から4番目? さすがに信じられんが……」
「……いや、なんでAの次がSなんだ? しかも、なんでその次がSS? わかりにくくない?」
「で、ですよね……でも、実際に見てもらえれば早いかなぁ、と」
そう言うなり、ローナは虚空からドワーゴ作のSランク魔剣――“ 殺刀(さっとう) ・ 斬一文字(キルイチモンジ) ”を取り出すと。
「えーい」
と、気の抜けるかけ声とともに、近くにあった巨岩に向けて振った。
その次の瞬間――。
――――――斬ッ!
と、紅い月閃のような斬撃が、巨岩をあっさりと真っ二つにし……。
「とまあ、こんな感じです」
「「「……………………」」」
あまりの光景に唖然とするドワーフ一同。
ちなみに、ローナは知らないことだったが……。
今、ローナが何気なく真っ二つにした岩は、“試しの岩”と呼ばれる特別な岩だった。
他のどの岩よりも硬く、歴史に名を残すような名剣たちが残した“傷”が刻まれている岩。
そんな岩が、今……あっさりと斬り裂かれた。
それは、まさにドワーフの歴史を塗りかえる一撃であり――。
今この瞬間、ドワーゴが作ったこの“殺刀・斬一文字”は、ドワーフの歴史に永遠に刻まれることになった。
「……そ、そうか……そういうこと、だったのか」
やがて、放心状態から抜け出したドワーフ王が、頭を抱えてうめく。
――殺刀・斬一文字。
それは、誰もまともに扱えないほど重く、振ろうとするとMPが吸われて気絶する刀。
さらには、ランクがGよりもはるかに下と思われる“S”だったために、『デメリットが大きすぎるだけの駄作以下の刀』……だと思われていたが。
しかし、この刀のランクが『Aよりも上』だとすると、話がまったく変わってくる。
そう、『誰も扱えない』のではなく、『自分たちがこの刀にふさわしい器ではなかっただけ』の話なのだ。
それなのに、天才が自分のために魂を込めて打った傑作を……否定してしまった。
そして、ドワーゴという貴重な才能を追放してしまった。
もちろん、ドワーフ王が自ら追放を決めたわけではなく、むしろドワーゴの才能をやっかんでいた派閥の意見に配慮したという形ではあったが……。
結局、ドワーゴよりも優先したその派閥の者たちは、この国が危機におちいるやいなや、あっさり国を見捨てて逃げてしまったわけで。
「……わ……わしは、なんと……愚かな……」
ドワーフ王がしばし無言で頭を抱えたあと。
やがて、どこか憑きものが落ちたような表情で、ゆっくりと顔を上げた。
「……おい、ワッフル。ドス持ってこい。指ぃつめて、ドワーゴに詫び入れてくる」
「「「――陛下っ!?」」」
「わふっ! よーやく昔みたいな、まともなツラするよーになったじゃんか、クソ親父! よーし、すぐにドス磨いてきてやるぞーっ!」
「「「――姫も止めてくだされぇっ!」」」
(な、なんか、思ってたのと違う展開になったなぁ……)
ローナとしては、ただドワーゴへの誤解をといておこうと思っただけなのだが。
ドワーフたちにとっては、思いのほか重大な案件だったらしく……。
「「「――陛下がご乱心だ! 止めろぉ!」」」
「ぐぅうっ! は……な……せッ!」
やがて、家臣たちに羽交いじめにされたドワーフ王が、ローナに向けて頭を下げてきた。
「くっ、ローナ殿、すまぬが……またドワーゴに会ったら、わしが頭を下げていたと言っておいてくれ。それと“追放”は取り消し、ドワーゴの名誉回復に務めると……無論、それで許されるとは思ってはおらんが……」
「それは、かまいませんが――あっ、そうだ! せっかくですし、今からここにドワーゴさんをつれて来ましょうか?」
「は?」
というわけで――。
ぽかんとするドワーフ王たちを置いて、ローナは港町アクアスへと転移した。
「あっ、ドワーゴさん、今いいですか? ちょっとドワーフの王様が、ドワーゴさんに謝りたいって言ってるんですが」
「……え? ……は? ま、まあ、ちょうど仕事に一区切りついたとこだし、時間は問題ねぇが……」
「それじゃあ、さっそく行きましょう――エンチャント・ウィング! からのぉ――フルスロットル! 猪突猛進!」
「ど……どわあああああああ――――ッ!?」
こうして、港町アクアスから王都まで、ドワーゴを爆速で空輸したあと。
「あっ、ラフィエールさん。またこの空間を借りますね」
「……我が使徒ローナよ、よく聞くのです。ここは友達をつれて遊びに来るところではありません」
「め、めめめ、女神様? ほ、本物? 夢じゃ……ねぇよな? と、とりあえず、今はキンキンに冷えたビールぐらいしか持ってねぇが、お供えを……」
「――感謝っ……! 圧倒的感謝っ……!」
「え?」
「それではOKみたいなので、さっそく――フルスロットル!」
「ちょ、ちょっと待て、心の準備ぃいいえええがああああ――――ッ!?」
そんなこんなで、地底王国ドンゴワへと爆速で帰ってきた。
「――はい! というわけで、ドワーゴさんをつれて来ました!」
「「「………………………」」」
あまりの状況に、ドワーフたちが硬直する。
それも仕方のないことだ。
今、彼らの前にいるドワーフは――あの天才鍛冶師ドワーゴ・ニコドーなのだから。
数多くの優秀な弟子を抱え、歴史上でも一握りしか作ったことのないAランク装備を最年少で作り上げ――さらには、ドワーフ史上ただひとりの“S”ランク装備を作った天才。
10年前に国外追放されたあとは、消息を絶っていたはずだが……。
「ドワーゴ……本当にドワーゴ、なのか?」
「………………」
ドワーフ王がおそるおそる、ドワーゴの顔をうかがう。
10年ぶりのドワーフ王とドワーゴの再会。
一方、ドワーゴはというと、10年ぶりの故郷の地で――。
――白目をむいて気絶していた。
「ど……ドワーゴぉおおっ!? しっかりするのだ、ドワーゴぉおおおっ!?」
「わぁあっ! プチヒール! プチヒールぅうっ!」