軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十五話

流石に探索帰りではということになったので、探索者協会で素材の売却とシャワーを済ませ、俺と山崎と名前も知らない少女は近くにあるカフェへと赴いていた。

「ここは個室もしっかり完備しているので、我々も重宝しているんですよ」

対面に座る山崎がニコニコと笑顔を浮かべながら言う。

山崎の隣に座っている少女は緊張しているのか、ずっと体が強張っており、少し気の毒だ。

(店員が凄かったもんな)

店員が山崎の顔を見た瞬間、慌てて店長を読んで案内させていた。

完全なVIP扱いで、俺も苦笑いを浮かべざるを得ない。

「伊藤様、何かご注文は?」

「じゃあ、ホットコーヒーで」

俺がそう言うと、山崎がタッチパネルを使って注文する。

「佐野はどうしますか?」

「あ、えと、カフェオレのアイスで」

佐野と呼ばれた少女がどもりながら答える。

(この子は何で呼ばれたんだ?)

佐野と呼ばれた少女は線が細く小柄で、探索者といった風貌ではない。

前髪で目が隠れており、いくらショートであってもこれでは探索には向いているとは言えない。

かと言って、先程の様子を見ても、山崎の秘書といった感じでもないのだから、一体何故呼ばれたのか。

(ただ、なんとなく弱い感じはしないんだよな)

おどおどしているが、弱いと認識できない。

不思議な感覚だ。

「私もホットコーヒーで…では、飲み物が来るまでに佐野の自己紹介でもしましょうか」

山崎がそう言うと、佐野に目配せをする。

すると彼女がピンと背筋を張って、緊張のあまりしかめっ面を作ると口を開いた。

「 明星(あかぼし) 所属の探索者、 佐野(さの) 恵美(えみ) です。ランクはBで魔法スキルを使った遠距離の攻撃を得意としています」

一気にまくしたてるようにして言う佐野。

言い切った後は頬を紅潮させ、荒く息を吐き出しており、余程緊張していたのが分かる。

(山崎が明星の東京支部長なんだから、佐野もその関係だよな)

ただ、Bランクと聞いて合点がいった。

妙に油断できなかったのは、彼女が高レベルだからだろう。

「申し訳ございません、伊藤様。佐野は明星の中でも優秀な探索者なのですが、少々緊張し過ぎるきらいがありまして」

「いえ、お気になさらず」

(そりゃあ、おっさん二人に囲まれてたら緊張するだろ)

見るからに若いし、だいたい十代後半から二十代前半ぐらいだろうか。

それに山崎は東京支部長であって、明星の中でも地位は高いだろう。

佐野からすれば、そんな人物が隣に座っていたら、嫌でも緊張するものだ。

それから世間話をしつつ、五、六分ほど経ったのち、カフェの店長によってコーヒーが運ばれてくる。

いい香りのするコーヒーで、初めに俺が一口コーヒーを飲んだ。

(美味いな)

何の豆を使っているのかは分からないが、美味いということだけは分かる。

「それで、伊藤様」

山崎が口を開いた。

俺の視線はコーヒーから山崎の方へと向けられる。

「伊藤様、是非とも、我々のクラン、明星に入っていただけませんか?」

山崎が座ったまま、深くお辞儀をして頼む。

それに追随するようにして、佐野も深く頭を下げた。

「まず、何故俺をそこまで熱心に勧誘するか分からないんだが」

正直、ここまで俺に執着する理由が分からない。

明星とかになれば独自の情報網ぐらいあるだろうし、まだあまり知られていない優秀な探索者をこうやってスカウトするのだろう。

ただ、俺の年齢は四十、探索者はレベルさえ高ければ高齢でもできるとは言うが、伸びしろは若い優秀な探索者に比べてない。

山崎にそれを伝えると、一度目を瞑ってから、大きく息を吐き出して、話し始めた。

「我々のクランには様々な探索者がいます」

それはそうだ。

日本二位、世界でも十三位のクラン。

名は日本に留まらず、世界中に知られている。

「伸びしろがあってクランに入る者、既にある程度の地位を築いている者もいますし、ちょっと特異な能力を持つ者など様々です」

明星にいる探索者は優秀な者ばかりなのだろう。

世界に名が轟いている分、人を選ぶことができ、平均的な探索者は誰一人いない、そんなクランだ。

「ただ、そんな私どものクランで圧倒的に多いのはBランク探索者です。良いスキルに恵まれても、大抵がBランクどまりとなってしまいます。スキルの力を過信した者の大体はスキルに頼った戦いで、成長が止まってしまい、Bランクより上には行けません」

(それは俺か…?)

正直、魔術が使えなければ、碌に強くなれていないだろう。

「そうした力に酔わず、自己研鑽に励む者もBランクより上に上がれない者も多いです。中でも一部のスキル以外の才ある者がAランクの領域に足を踏み入れます」

山崎が真剣な表情で話す。

佐野は一生懸命その話に耳を傾けていた。

「ただ、何事にも例外があり、今までの私の話を全てひっくり返すような存在がいます」

山崎の目がこちらに向けられる。

その瞳の奥に秘めた感情は、尋常ではないほどの熱を感じさせた。

「尋常ではない速さで成長し、瞬く間にAランクの中でもトップ層、下手をすればSランクに至るような、そんな運命に愛された存在が、確かにいるのです」

グイっとこちらに顔を近づける山崎。

「貴方はそのような存在だと、私は思っております」

今までで一番真剣な表情で、山崎はそう言うのであった。