軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

2025年、世界各地でダンジョンと呼ばれるモノが出現した。

姿かたちは様々で、どこにでもある住宅の姿を模したものや、洞窟、はたまた巨大ビルなど、入り口があるということが共通点としてあるぐらいで、その形は限定されていない。

ダンジョンには金銀財宝や未知の物質、当時の医療では到底再現不可能な肉体の再生を行える液体などが発見された。

当然だが、ダンジョンが人間にそのようなアイテムをタダで渡してくれるわけがない。

ダンジョンの内部には、RPGなどのゲームに出てくるようなモンスターもいたのである。

当時は主流であった銃火器によってモンスターを一掃できると軍は考えていたが、ダンジョン内部では銃火器などの旧時代の兵器が一切作動せず、各国で部隊が壊滅することもあった。

それでも人間のしぶとさは侮れない。

人間もただやられてばかりではなかったのだ。

ある部隊の軍人がモンスターに襲われた際に死に物狂いでナイフを振るい、なんとかモンスターに攻撃したところ、そのモンスターはナイフによる攻撃で絶命した。

そこからはもう、語るべくもない。

近接戦闘用の武器がダンジョン探索の基本装備になり、モンスターの攻撃にも耐えられる武器・防具が次々と開発された。

ダンジョンの攻略が進むごとに社会では様々なブームが発生し、消費は促進され、経済は活性化された。

やがて民間にもダンジョンが解放されると、若者や企業がこぞって攻略に乗り出し、ダンジョンの攻略は進んでいったため、ダンジョンはみるみるうちに社会へと組み込まれていった。

そうして五十年の時が流れた、2075年、世界各地に存在する企業がダンジョンに関連しないことはありえないと言えるほどに、世界はダンジョンに染められたのである。

♦♦♦

会社に勤めて十数年、俺、 伊藤春彦(いとうはるひこ) は人生で最も重要な場面(個人的には)を迎えていた。

「本当に辞めるんだな」

ギロリと睨みつけるように俺を見てくるのは 川上和宏(かわかみかずひろ) 、俺の上司である。

ただでさえ仕事で忙しいのに、いつも嫌味ばかりを言ってくる最悪な上司であり、数々の暴言まがいの悪口に辞めていった者も少なくない。

俺と仲が良かった同僚や後輩も辞めていったことを鮮明に覚えている。

「はい」

かく言う俺も今からこの会社を辞めるのだ。

俺が勤める会社はダンジョンで採れたミスリルを使って防具の生産を行う会社なのだが、お得意様の多くが高位探索者であるBランク以上の探索者であり、現在もダンジョンの探索が未だに続いていることから、会社が潰れることはまずないという、一見するといい会社である。

しかし、蓋を開けてみれば、勤めて十八年たった今でもなお、毎日のように仕事に忙殺されるうえ、川上のような上司がいる(というかそういう奴がのし上がる)ため、職場は地獄だった。

いい思い出は一切なく、この会社に勤めてからは笑った記憶が一切ないという事実だけが頭の中に鮮明に残っている。

「そうか、だったら荷物を持ってさっさと出ていけ。お前みたいなゴミはいるだけで仕事の邪魔だからな」

どうやら辞める時にまで暴言は止めないらしい。

クソはいつまで経ってもクソのようだ。

「分かりましたよ・・・クソ野郎」

俺は川上の目に視線を合わせてそう言うと退職届を川上の机に叩きつけ、さっさと会社を出ていく。

(傑作だな、アレは)

俺がクソ野郎と言ったのが意外だったのか、川上は目を見開いていたのだ。

今まで見下した視線しか向けてこなかった分、俺は胸がすく思いになれた。

♦♦♦

「高いな」

俺は会社を出た後、そのまま早足で電車に乗って最寄りの駅へと降りたのだが、住んでいるマンションに帰るのではなく、探索者協会が経営している探索者専用の装備が売られている店に足を運んでいた。

周囲には多くの警備ロボットにガードマンが巡回しており、普通の店に比べてかなり警備が厳重である。

俺は店の奥へ進むと、商品棚にあった水晶玉を見ていたのだが、その値段の高さに驚きを隠すことができなかった。

「三級スキルオーブで1000万円とは」

ダンジョン産のアイテムにはスキルと呼ばれる特殊能力を得ることができる、スキルオーブと呼ばれるものが存在していた。

一級から六級までのスキルオーブがあり、一級のスキルオーブはSランク探索者という人外の化け物が持つ最上級スキルが手に入る 可(・) 能(・) 性(・) が(・) あ(・) る(・) そうなのだが、物によっては一つ当たり数億から数百億円ほどするので、俺のような庶民にはまず買うことができない。

この店に置いてあるのは最高で三級までであり、試しに値段を見てみようと思っていたのだが想像以上に高かった。

普段からあまりお金は使う方ではなかったというか、使えなかったので、貯金はそれなりにあるのだが、これからの生活費などのことを考えると、こんなものを買うことは到底できない。

「仕方ない、この六級のスキルオーブにするか」

六級のスキルオーブは価格が10万円と三級のスキルオーブと比べるとかなりリーズナブルであるが、三級は中級以上のスキルが確定で手に入れられるのに対して、六級の場合はスキルを得られるかどうか自体が不確定であり、得られるスキルも最下級のスキルが多い。

最上級・上級・中級・下級・最下級とある中でも中級以上のスキルがあれば、探索者としてはある程度は安泰であるそうなのだが、そんな中級以上のスキルはまず望めないだろう。

ごくまれに六級のスキルオーブから中級のスキルを手に入れたということをネットで見たことがあったが、そんなものは宝くじに当選するようなものであり、流石に期待することはできない。

とりあえず俺は六級のスキルオーブを三つほど買うと、そのまま店を出た。

(これから新しい人生が始まるのか)

俺は探索者となった自分を夢想する。

まだスキルオーブを買っただけであるが、既に会社を辞めており、次の仕事はない。

会社を辞め、探索者になる。

客観的に見て、この選択が最善ではないのだろう。

だが、俺という人間が変わるにはこれぐらいのことをしなくてはならない。

今までの退屈で無意味な生活から脱却し、自分を変えるためにはリスクが高かろうと行動しなくてはならないのだ。

俺は一度深呼吸をすると、小走りになりながら自身が住んでいるマンションに向かうのであった。