軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第64話 少し話があります

「少し話があります。時間をいただけますか」

ロドリクがアシュリーに言ったのは、昼食の後だった。

アシュリーは図書室にいた。本を読んでいた。ここに来てから、本を読む習慣ができた。王都では本を読む時間がなかった。読もうとしても途中で仕事のことが頭に入ってきて、最後まで読んだことがほとんどなかった。今は読める。北方の図書室は静かで、ページをめくる音だけが聞こえた。

その本を読んでいる時に、ロドリクが来た。

「……はい」

アシュリーは本を閉じた。膝の上に置いた。

何の話かが、すぐには浮かばなかった。でも何かわかる気もした。婚約解消の書類に署名してから一週間が経っていた。書類は王都に送られた。手続きは完了した。過去の話が片付いた後に何が来るかを、アシュリーは考えていなかった。でも何かが来るような気はしていた。

「今夜の夕食後でいいですか」

「……わかりました」

ロドリクはそれだけ言って、部屋を出た。扉がゆっくり閉まった。廊下に足音が遠ざかっていった。

アシュリーはしばらくそのままいた。本の続きを読もうとした。読めなかった。文字を目で追っているのに、内容が入ってこなかった。一段落読み直した。また入ってこなかった。しばらく待った。やはり入ってこなかった。本を閉じた。

夕食まで、まだ何時間かあった。

図書室を出て、廊下を歩いた。城館の廊下は広くはなかったが、石の壁と床があって、歩くと少し落ち着いた。王都の管理局の廊下も石だった。あの廊下をよく歩いた。今は別の廊下を歩いている。廊下の形は違うが、石の硬さと冷たさは同じだった。

歩きながら今夜のことを考えた。何の話かはわかるような気がした。でもわかる気がするということは、期待しているということだった。期待していると、外れた時に何かを失う。そのことを少し考えた。

でもすぐにやめた。外れてから考えればいい、と思った。今夜はまだ来ていない。今考えても仕方がないことは、今考えなくていい。それも、ここに来てから少しずつ身につけたことだった。

シエルが廊下でアシュリーを見つけた。

「お嬢様、どうかされましたか」

「散歩していました」

「……ロドリク様に何か言われましたか」

アシュリーは少し驚いた。シエルが見ていた。

「少し話があると言われました。今夜の夕食後に」

シエルが少し止まった。それから、何か知っていそうな顔をした。

「シエル。今夜の話、何だと思いますか」

「……お嬢様、わかっているでしょう」

言い方が少し違った。いつもの控えめな言い方ではなかった。「わかっているはずです」という言い方だった。それに少し嬉しそうな気配があった。

「……わかっているかもしれません」

アシュリーは答えた。

自分が思っているような話かどうかを確かめたかった。でもシエルに確かめても仕方がなかった。答えはロドリクが持っていた。今夜の夕食後まで待てばわかる。わかるまで待てばいい。それだけだった。

「緊張しているんですか」

シエルが言った。珍しく直接だった。

「……はい」

アシュリーは正直に答えた。

緊張していた。この四年間で、誰かの言葉をうまく受け取れなかったことが何度もあった。大切にしてもらえるということを、受け取っていいのかどうかをずっとわからないでいた。でも今は、受け取っていいのだとわかっていた。受け取れる。そう思っていても、いざその場に臨む前は緊張する。体というのは、頭でわかっていることを必ずしも知っているわけではない、ということだった。頭でわかっても体が緊張する。それは仕方がないことだった。

でも以前の緊張とは違った。以前は、何かを失うことへの緊張だった。ミスをしないように、失礼がないように、という緊張だった。今夜の緊張は、そういうものではなかった。何かを受け取ることへの緊張だった。それが少し違うと思った。

「緊張するのは、楽しみにしているからでもあると思いますよ」

シエルが言った。

アシュリーは少し考えた。楽しみ、という言葉は使ったことがなかった気がした。四年間、何かを楽しみにしていたことがあったかどうか。思い出せなかった。でも今夜のことを考えると、怖さだけではなかった。怖さと一緒に、何かが混じっていた。それが楽しみというものだろうかと思った。

「……そうかもしれません」

アシュリーは言った。

シエルが笑った。珍しかった。シエルはよく笑う人ではなかった。でもここに来てから、少しずつ笑うことが増えた気がした。そうなのかもしれない。シエルが笑うのを見ると、アシュリーは少し落ち着いた。今日もそうだった。

その後、アシュリーは夕食まで自室にいた。窓から外を見た。北方の夕暮れは早かった。空が赤くなり始めていた。赤い空が山の稜線に沈んでいくのを見た。王都にいた頃、夕方にこうして空を見たことがあっただろうかと思った。空を見る余裕がなかった、というより、空を見ることを思いつかなかった。今は思いつく。窓から空を見て、静かにする時間が、一日の中にある。

夕食の間、ロドリクはいつもと変わらなかった。特に何かを言わなかった。食事の話をした。城館の外の様子を少し話した。アシュリーも応じた。食事が終わった。

ロドリクが「少しよいですか」と言った。

アシュリーは「はい」と静かに言った。

夕食が終わった。ロドリクがアシュリーを城館の小さな応接間に呼んだ。