軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 もう一人の転生者Ⅲ(リシュア子爵令嬢視点)

リシュア子爵令嬢には前世の記憶がある。

彼女は地球の日本に暮らしていたが、大変病弱であった。

多分体調が急変したまま病死し、生前にどハマリしていた『みんなあなたに恋してる!』の世界に転生したらしかったのである。

四歳のとある日、第二悪役令嬢のマグノリア・ギルモアが存在しない事。ご令嬢の推しである腹黒宰相ジェラルドが宰相になっていないという現実に、大ショックを受けた。

暫くは何も手に着かず、両親とお世話係の侍女達を非常に心配させていたのだが。

が。しかし、どうもマグノリア不在に関してはかなり怪しく、表に出てこないだけでそのまま隠されて育てられているように思う。

……というのも、最近アゼンダ辺境伯領から出ている『新しいもの』の数々だ。その誕生や製作に、マグノリアが関わっているのではないかと思っている。

アゼンダ辺境伯領というのは西の端にある領地で、彼女の推しであるジェラルドの父『悪魔将軍』こと、セルヴェスの治める領地である。

ジェラルドの父・セルヴェスは、ギルモア家が力を持ち過ぎるのを懸念したのとアゼンダをいつか元の統治者に戻したいという考えから、公爵の地位を蹴ってアゼンダを守護する為に辺境伯になった人物である。

四歳で行う予定のお披露目をしなかった挙句、まるでその姿が見えないマグノリアであるが、きっと祖父のもとに預けられているのだと彼女は睨んでいる。

……実際に広まっている品々はヨーロッパ 風(・) な国で発祥しそうなもの達ではあるのだが、同じ場所、同じ時期(全てここ一年程の事である)に同時発生するのは不自然な気がするのであった。

その『商品』が人々に 受(・) け(・) 入(・) れ(・) ら(・) れ(・) る(・) と(・) 言(・) う(・) 事(・) を(・) 知(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 人間が、 持(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 知(・) 識(・) を(・) 使(・) っ(・) て(・) 作(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) ……と考える方が自然だろう。

――何故なら、『みん恋』にはそんなエピソードは出てこなかったからだ。

そう、彼女は超がつく、ガチの『みん恋』ヲタ勢なのである。

例えば『ザワークラウト』と『パプリカピクルス』

ザワークラウトは実際に地球の大航海時代、壊血病の予防に良いとして普及したらしい……と、たまたま手にした歴史の小ネタ本で前世で読んだ事がある。

その本によると、壊血病というのはビタミンCの不足が原因で起こるらしいのだ。

パプリカピクルスにビタミンCが多いのかどうかは解らないけど……多分、ザワークラウトと同じ効果がある事を知って作っているのだと思うのだ。

そうでないと、同じ商会から同じ時期に出る理由が解らないし。

現に、そう説明して販売しているらしい(子爵談)。

実際にそれらを用いて見事壊血病を、こちらでは『航海病』というらしいが……その急激な減少に成功しているという(子爵談)。

この世界でビタミンの事を知る人はいないであろう。

未来か異世界の知識があるとしか思えない、と彼女は思っている。

ジェラルドの義理の弟であり、次期アゼンダ辺境伯候補のクロードは天才と呼ばれる人物である。なので、多分クロードが考えて販売しているのだろうとリシュア子爵(彼女の父親)は言っていたが……果たしてそうなのだろうか? 彼女は懐疑的である。

そして『ドレスポーチ』と『パッチワーク』

今王都で――いや、アスカルド王国で空前の大流行をしている布小物である。

ドレスポーチはその名の通り、ドレスのような形をした巾着である。

沢山の形や色があり、自分のドレスとお揃いで作る事も出来る。

可愛らしくて、若い女の子に特に人気の商品だ。王都のキャンベル商会でのみ購入出来る。

ブームという事もあり子爵が娘に買ってプレゼントをしてくれたので、勿論彼女も持っている。

彼女が初めて手に取った時、似ていると思ったのである。

日本で使った事のある、ドレスの形をした手拭きタオル。

フリルやリボンで飾り立ててある、パステルカラーのとってもファンシーなタオルだ。

……おばあちゃん家のトイレにいつも置いてあったので覚えているのだ。

そしてパッチワーク。

……パッチワークというと、亀やイルカ、モンステラの葉っぱにヤシの木がモチーフのハワイアンキルトや、赤のチェックが特徴的なアメリカンカントリー雑貨のイメージが強いのだけど……ヨーロッパでも普及してそうでもあるので何とも言えないが、他の物と同じ場所で発信されているというのが何ともクサい気がする。他の場所に先駆け、王都で先行販売をしているらしい。

色味を抑えたり同系色で纏めてあったり、シンプルな組み合わせであったりと、『オシャレ系小物』や『北欧風』を意識している感じがするつくりだ。

……こんな乙女チック(?)な品物を、剣豪で『アゼンダの黒獅子』と呼ばれるクロードが考えるであろうか?

セルヴェスに至っては、考えてほしくないとすら思ってしまうのは彼女だけではないであろう。

ブレーンがいる? 使用人が考えた? 子飼いの商人に作らせた?

そうなのだとしたら、『みん恋』の中で同じエピソードがあっても良さそうなものではないか。

――本編に関係ないから省いてあると言われてしまえば、何も言えないのだが。

ちなみに加護のお陰で沢山の農作物が採れるアスカルド王国ではそれ程重要視されていないが、海外向けの肥料販売もかなりの収益を上げているらしい(子爵談)。

その他にも詳しく伝わってきてはいないが、色々と領地改革が進んでいるとの噂があるらしい(子爵談)。

そんなこんな、あれやこれやと……何故かギルモア家だけ、彼女の知る『みん恋』の世界とズレがある。

何故ズレるのか?

意図的にずらしている――存在するはずが何故か存在しない人間が、自らの意思で姿を隠した上、 意(・) 図(・) 的(・) に(・) 現(・) 実(・) を(・) 変(・) え(・) て(・) い(・) っ(・) て(・) る(・) のだ(きっと)。

そう、例えば。

修道院幽閉エンドを回避したいマグノリアが動いている……と考えるのが、一番しっくり来るではないか。

自分が転生したくらいである。ヒロインや悪役令嬢も転生していてもおかしくはないではないか。

実際(?)そういう内容の 物語(ラノベ) は沢山あったのだ。

事業として展開しているという事は、地球の彼女はそういう知識のある人……そう、例えば大手企業の若手CEOだったのかもしれない。そんな主人公の異世界転生物語があった筈だ。みん恋じゃないけど。

それとも航海病に詳しいのならば、医療関係者だろうか。もしや敏腕天才医師?

もしくは食品に詳しい栄養士さん? フードコーディネーター? カリスマ天才シェフ?

またはファッション界を牽引する天才デザイナー?

――せっかく大好きなゲームの世界に転生して、悪役令嬢でさぞガッカリしたことであろう。

それもマグノリアである。ガーディニアならともかく。

幽閉エンド回避が目的なのだろうか?

それともヒロインざまぁで、成り代わりヒロイン狙い?

それとも…………

そんな風に彼女は考えていた。それはもう色々と。

……そう、彼女は夢見がちな十四歳(中身)。物理六歳である。

元々乙女ゲーの『みん恋』が大好きな、ラノベの様な話と世界が大好きな少女で。

すっかりマグノリアを誤解し、想像を作り上げ。妄想が爆進中なのである。

世の中に大手企業の若手CEO(中学生の彼女が考える若手は十代と二十代、それも前半である)は殆ど存在しない。なんなら大企業の若手COO(最高執行責任者)も殆ど存在しないであろう。

敏腕天才医師もカリスマ天才シェフも天才デザイナーも、その辺に転がってはいないのである。

ましてやそんな人が都合よくホイホイと異世界転生もしないのである。

更に仮に転がっていて、転生したとしても……そういう人はどえらい激務なので、大好きという程に乙女ゲーをやり込むほどプレイは出来ないであろう。多分。

確かに同じ転生者であるマグノリアの過去はヴェールに包まれているが。若手CEOでも敏腕天才医師でも、カリスマ天才シェフでも天才デザイナーでもなさそうである。

そんな緻密さは微塵も感じられない、どちらかと言えば大雑把な性格の御仁であろう。

ついでに言うと、子爵令嬢の範疇の『若手』ではないのである…………

一般社会でその立場なら、マグノリアの年齢でも充分、若手にカウントされるであろうが。

「いや~、なんだか凄かったよ、アゼンダ辺境伯領!」

成金貴族のリシュア子爵家は、事業でのし上がった低位貴族である。

今、アゼンダ辺境伯領が熱いという事で、単身での視察から帰ってきた子爵がいささか興奮気味に視察の様子を語っている。

どう凄いのかは全く解らないが、とても有意義な視察であったことは感じられる。

久々の家族そろっての夕食で、リシュア子爵令嬢は食い入るように前のめりで話を聞いていた。

「お父様、それで、アゼンダ辺境伯領にマグノリア様はいらっしゃったの?」

逸る愛娘に、子爵は申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「それがね、誰に聞いても知らないというんだ……」

「ええっ!」

責めるような、悲鳴のような愛娘の声に、子爵は益々困った顔をした。

「何なら確認は辺境伯家にしてくれと言われたが、まさかいるかいないか解らない方の確認を国境警備と領政と事業とで忙しい辺境伯家に問い合わせる訳にもいかないしね……」

「そんな…………」

それはそうである。

相手は本来公爵に匹敵する大貴族。更には多忙も多忙、超多忙な相手である。

愛娘には申し訳ないが、何の面識もない成り上がりの低位貴族がよく解らない質問を問い合わせするなんて、出来るであろう筈が無い。

「だけどね、食べ物が凄く美味しかったよ。アゼンダ辺境伯領の新しい食べ物らしいんだけど。『ツナマヨ』というものを挟んだパンや、『うどん』という、魚の出汁で取ったスープに細長い食べ物が入ったもの。後……」

「ツナマヨ!? うどん!!」

(うどんって、饂飩? 魚の出汁……!? 何それ、めっっっちゃ食べたい!!)

転生して六年。彼女は大変和食に飢えていた。

(マグノリア、まさかの日本人!? 日本人なの? 和食あるの??)

え!? ちょっ、誰か! 答え!! 答えプリーーーーズ!!!!

「ど、どうしたんだい!?」

「大丈夫!?」

商品名を言うと大きく目をかっ開いたまま動かなくなった愛娘を、心配そうにリシュア子爵夫妻はみつめた。

……ギルモア家の事になると、ちょっと変になる愛娘を夫妻はとても心配している。

(いつか社交界でおかしな行動を取らねば良いが……)

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そんな頃、すっかり忘れていた薬草園で探し物を見つけ

「キタコレ、キターーーーーーーー!!!!(死語)」

と叫び。

セルヴェスとクロードが曲者かと思い、視線だけで射殺せそうな程険しい顔で庭へ飛び出ていたのである。

……後でめっちゃクロードに叱られたのは言うまでもない。

モブ令嬢ことリシュア子爵令嬢が、もう一人の転生者であるマグノリアと遭遇するまで、後、約二年。