軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰って来たガイ

館に帰ると、基本は冷静沈着な……最近はしおしおしているか、年齢とは似つかわしくない早足で廊下を走行(?)していたセバスチャンが、非常に上機嫌で、ほくほくした笑顔で出迎えに立っていた。

「……どうしたんですかね? セバスチャンさん」

「……今朝までとは別人のようですね?」

リリーとディーンがコソコソと話す。

聞こえている筈なのに、注意をされる事も無く、鼻歌と浮かれたステップが繰り出されそうな様子に、マグノリアも首を傾げる。

「旦那様、クロード様! 彼奴めが帰って参りました……!」

「おお! やっとか!!」

感無量というセバスチャンと、やれやれといった感じのセルヴェス、大きくため息をついたクロードが視線を合わせ、頷き合う。

「ガイの都合が良ければ、執務室に来るよう伝えてくれ」

肩からそっとマグノリアを降ろすと、セルヴェスはマグノリアの頭をひと撫でする。

「マグノリアも着替えてひと休みしたら執務室においで。リリーとディーンも可能ならマグノリアと一緒に来るように」

……元祖変人のご帰還のようである。

セルヴェスとクロードが執務室に入ると、天井から音も無くガイが降りて来る。

「……普通に扉から入って来れば良いモノを。帰還を急がせて悪かったな」

セルヴェスがため息をつきながら椅子に座ると、ガイは肩を窄めた。

「あっしは隠密が本職ですからねぇ。まあ、初めから帰りは早くなるだろうとは思ってましたが、まさか半分も経たない内に呼び戻されるとは……クロード様にはこれを」

クロードが席に着いた所で報告書の束を渡す。

頷いて受け取ると、早々に表紙を捲った。

「丁度イグニスに入っていた所でタイミングが良かったっすよ。とは言え有名人なので、調べ回らずとも直ぐに調べはつきましたが。

……『アーネスト・シャンメリー』もいわば本名で、母方の姓ですね。商人として活動している時は、そっちの名前を使っているみたいです。シャンメリー商会会頭の外孫です」

クロードは釣書の様な報告書を素早く捲りながら字を追うと、セルヴェスに渡す。

「……やっぱり思った通りか」

「はい。クロード様の記憶通り、もう一つの名は『エルネストゥス・アドルフス・イグニス』

――イグニス国の第三王子で、通称『不遇の王子』」

大陸では、殆どの国で地位や権力のある男性が複数の妻を持つ事を禁じてはいない。

特に確実に後世に血族を残す事が義務付けられているような王家は、王妃以外に側妃を持つ事も決して珍しい事ではないのだ。

「……確か、第三王子の母君は平民の出であったな」

「はい。一応今、ご実家は男爵位を賜っているようですがね」

「他の妃との兼ね合いか……不遇というのは、具体的には?」

国境を接していないため、それ程密な国交があるとは言い難い国だ。記憶を辿るようにクロードが言うと、ガイは頷く。

セルヴェスも報告書を捲りながら、話の先を促す。

「イグニス王家には、王子が三人、王女が二人います。王妃の息子である第一王子と第二王子。第二妃は王女が二人。第三妃のお子様がアーネスト殿下のみですね」

「……平民出の第三妃の息子という事で、お決まりのパターンか」

クロードが渋い顔をする。

「ところが、人気も能力も一番高いのがアーネスト殿下です。

……よっぽどでない限り第一王子が基本立太子する筈ですが、能力があるのに王位継承権が一番遠いですからねぇ。もとより国民からは自分達と同じ平民出のお妃様の息子という事で、人気が高い」

ガイの言葉にセルヴェスが嫌そうに首を振る。

「やたらめったら妻ばかり増やすからそんな事になるんだ。誰も幸せにならん」

「王様は幸せなんでしょうなぁ」

セルヴェスは瞳を閉じ眉間に皺を寄せる。

「狂気の沙汰だ! 妻が三人とか!!」

「……全員が全員、恐妻家でも愛妻家でもないですしねぇ。それに地位がある男性には女性も媚びたりへつらったりするもんも多いですから、真意がどこにあるかなんて考えないもんっすよ。男なんて単純ですからねぇ」

ガイは苦笑いする。

クロードは口をへの字に曲げるとため息をついた。

「おやおや、目下嫁とりを考えないといけないクロード様もそんなんですか…… ま(・) た(・) 、モブーノ伯爵令嬢と何かあったんすか?」

「何もない!」

「マグノリア達が領都で絡まれたんだ」

ばらすセルヴェスに、苦い顔のクロード。そんな二人を見てガイは低く笑う。

「とにかく、アーネスト殿下は揉まれに揉まれ大変優秀に育った上、優秀になればなったでより危機感を持たれ命を狙われる事もあって。知見を深めるのと同時に身を守るために、商人として各国を回ってらっしゃるみたいですよ」

ガイの言葉に、他国の事とはいえ二人は苦々しい顔を隠しもしなかった。

当人同士ならまだしも、何故子どもに矛先を向けるのか。立場も物理も弱いからなのだが……本当に不条理なことである。

暫くすると、執務室の扉がノックされた。

マグノリアと共にリリーとディーンも部屋へとやって来た。

「ガイ! 元気そうで良かった!……予定より随分早かったにぇ?」

マグノリアが悪びれもせずにそう言うと、三人が苦く笑った。

「ええ、本当に。お嬢が一か月待つとは勿論思いませんでしたが、まさか一週間位であんなデカい事やらかすとは流石に思いませんでしたよ?」

「え! わたち、病気を治ちに行っただけなにょに」

心外だと言わんばかりに頬を膨らますが、ガイは首を横に振る。

「……だけじゃねぇですよね? 帰りがてら、今後のフォローのためにもお嬢がやらかしたことは全て調査済みですよ? 今日だって既にスラム街の顔利きにぶちかまして来たんですよね」

「相変わらず耳が早いな」

セルヴェスが苦笑いすると、リリーとディーンが遠い目で薄く笑った。

調べはついていますと言わんばかりのガイに、マグノリアは静かに瞳を逸らす。

「……ちょっとスラム街風な言葉で、説明ちただけよぅ」

「ちょっと? 説明?」

(わぁお! 藪蛇だった!)

クロードが不機嫌そうな声で否を突き付けると、ガイが追い打ちをかける。

「組合長連中を怖がらせていたみたいっすよ? 変なあだ名が付かないといいっすね」

「…………」

(おおぅ。言葉遣いから『ゴロツキ令嬢』とか、『輩令嬢』とか言われたらどうしよう……廃棄品引き取るとか言ったら微妙な顔してたからな……『ケチケチ令嬢』とかもあるかもしんないじゃん……とほほ)

嫌な想像をしてしょんぼりしている所に、セルヴェスから報告書を受け取り、マグノリアに差し出す。

「更に、大物を釣りあげたみたいっすねぇ」

「…………」

気が進まない顔をしながらページを捲ると、マグノリアは小さく呻いた。

(……高位貴族だろうとは思ったけど、アーネストってば、まさかの王子様かよ……)

「……わたち、何もちないで大人ちくちていようかと思いましゅ」

嘆くようなマグノリアの声に、三人の声が被った。

「無理だろう」

「出来ないでしょう」

「ありえん」

……リリーとディーンもコクコクと頷いている。

「……みんなヒドイでしゅ!」

マグノリアが口を尖らせると、五人は苦笑した。

「まあまあ。お嬢が多少やらかしても良いように、あっしが帰って来たんすから。お二人さんも、今後は同僚って事で宜しくどうぞ。マグノリア様付き護衛兼お目付け役のガイと申しやす」

リリーとディーンに顔を向けると、芝居がかったように礼をした。

リリーは確かに頼もしいと思うが、果たして抑止になるのかと思いつつ。ディーンは知らない気さくなおじさんに、少々緊張しながらお辞儀をした。

「さあ、お嬢! 存分に暴れましょうや!」

ガイが歯を見せて笑いながら、勢い良くサムズアップする。

セルヴェスとクロードがため息をついて、渋い顔をする。

「「…… お(・) 目(・) 付(・) け(・) 役(・) だからな? くれぐれも程々に頼むぞ……?」」

マグノリアは心の中で盛大に首を傾げ、呟く。

(いや、私、暴れた事も無ければ、今後暴れる予定も全然全く無いんだけどね?)

心の中の呟きを五人が聞いたら、全力で突っ込まれそうなことを事も無げに思っているのだった。