軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 よもやま話

「え、生まれ変わりですか?」

マグノリアが植物図鑑を手に図書室へ行くと、クロードが本から顔を上げた。

相変わらず難しい顔をしているのでどうしたのかと聞けば、生まれ変わりについて気になるので調べているのだという。

「うん。……三人も該当者がいるので、『ある』と言えるのだろうが……過去に事例がないのか調べているのだ」

「……ふ~ん……」

ちょっと前に、『異世界に飛ばされる可能性があるので恋愛はし難いです』とカミングアウトをしたマグノリアである。

……そんなこんながあり、対処法だったり法則性だったり、なにか手がかりがないか確認しているらしかった。

実はマグノリアも、以前そういった不思議体験をした人間がいないものか調べたことがある。

……調べたものの、何も見つけられなくて今に至るのだった。

「まあ、この辺は本当にあるのかないのか、証明できないですからね……地球では宗教観に基づいている考えだったのですよ」

仏教で語られる輪廻転生だが、元は古代インドの考え方から派生したといわれている。更に古代ギリシャやイスラム教の一部など、似たような考え……思想が世界各地にあるんだと、テレビの特集か何かで見聞きした覚えがあるのだが。

掻い摘んで説明すると、熟考する様子を見せ、めっちゃ本気である事が窺えた。

……忙しいのに、何だか申し訳ない事である。

「……生まれ変わる理由は何なのだろうな?」

「うーん。さっきの考えで言えば、覚えていないだけで何度も繰り返している訳ですけど。最終目的は経験と徳を積んで、極楽浄土……いわゆる天国みたいなところに行く為と言われてますけどねぇ」

いまいち考えにそぐわないのか、クロードは首を傾げながら外を見遣った。

初夏の庭では、お庭番達がいつ完成するのか解らない庭を造っている。

その近くでダンゴムシやミミズを見せて貰おうと、エリカが鼻を膨らませながら待っている姿が見えた。

「以前チキュウに、生まれ変わりを題材にした物語が多数あると言っていただろう?」

「はい」

そんなものは数えきれない位、沢山ある。

「何がきっかけで生まれ変わるのだろう?」

「うーーん……神様っぽい何かに頼まれたりとか、いきなりとか……後は未練や後悔があって強く気持ちを残していたとかですかねぇ」

色々なパターンの物語達を思い出しながら説明する。

「……気持ちを強く残す……」

「ああ、あとは誰かと約束をしていて、それを果たす為とかですかね?」

クロードは何かに思い至ったのか、ピクリと小さく身体を動かした。

「約束か……」

「はい。また会おうとか、一緒に過ごそうとか。定番ですよね」

「…………」

クロードは小さく頷くと、聞こえないほどの声で何か独り言をつぶやき、再び熟考に入って行った。

暫くそのまま待機していたが、全くもって戻ってくる気配がない。

マグノリアは席を立つと、絶滅生物辞典を手に取り、部屋に戻る事にした。

******

マグノリアが学校の理事長室で書類に目を通していると、研究棟の方から金属を叩く音が聞こえて来た。

工房で作れない大型の物や薬品などの研究など、幾つかがなされている。

メカニックなものが好きなクロードは、もっぱら機械いじりと新しい金属を作るのが好きだし、元々研究棟には近づかないセルヴェスは、音楽の授業と体育の授業の特別講師を務めてくれていた。

部屋へ入ってきたフォーレ校長は、マグノリアが持参していた絶滅生物の本を見て口を開いた。

「おや、珍しい本をお読みですなぁ」

「ええ。以前にフォーレ校長が、アゼンダの民の祖先はエルフだったって仰っていたじゃないですか? 見た事ないので、今でもいるのかと思ったらもういないと聞いて」

どんな感じなのか……いわゆる地球で語られていたエルフと同じなのか興味がわいて、本を読んでみたのだった。

フォーレ校長は何度も頷いて微笑んだ。

「確かに、私も見た事はありませんが……彼らは長寿だと聞きますから、もしかしたら森の奥深くに今でも暮らしているかもしれません」

「……ロマンなんですねぇ」

ツチノコやビッグフットなど、地球でもUMAを追い求める人々は沢山いた。

妖精やら精霊やらがいる(いた)世界なので、きっとエルフもいたのであろう。

若々しく美しい容姿を持ち、長寿で知識に富んだ種族だと言われているが……

「集落を作って大勢で暮らしているんでしたっけ?」

「そうだと言われていますが、時折ひとりで静かに暮らしていた者もいたそうです」

「へぇ。人と同じなんですね」

フォーレ校長は顔を向けた。

「はい。私が研究に没頭するきっかけもエルフなのですよ」

「そうなのですか?」

「はい。大分昔に、エルフが書いたと言われる薬学の本を手に入れたのが始まりなのです」

森の賢人と言われるエルフが書いた薬学の本。

――ハーブを多用して、不思議な薬を作ったりするのだろうか?

マグノリアは朱鷺色の瞳を動かして、首を傾げた。

「もし興味がおありでしたら、ご覧になりますか?」

「いいのですか?」

「勿論」

にっこりと頷くフォーレ校長に、マグノリアは続けて質問をする。

「でも、どうしてエルフが書いたって解るのでしょう?」

「文字ですな」

「文字……?」

「はい。大陸で使われている古語と違って、読めないものが多数あるのですよ」

「へぇ……?」

違う大陸や島で使われていた言葉なのだろうか? もしくは知られている古語よりももっと古い言葉なのか。

本当にエルフが使っていた言葉なら……エルフ語? マグノリアはそんな考えに、クスリと笑みを漏らした。

*****

お昼になり借りた本を手にクロードの研究室に行くと、丁度ランチを手に戻ってきたガイとラドリも部屋に来ていた。

『マグノリア、本?』

「ああ。フォーレ校長の私物らしいよ」

彼が子どもの頃にマルシェで見つけたという本は、お世辞にも状態が良いとは言えなかった。だけれど綺麗に修復され、手入れを丁寧にこまめにしている事が見受けられた。

どこか懐かしい感じのするその本は、確かに見た事のない古語で書かれていた。

「…………」

クロードは吸い寄せられるように手を伸ばす。

そんな様子に違和感を覚えつつも、マグノリアは黙って本を渡した。

表紙をゆっくりと何かを確かめる様に撫でると、そっと本を開き、ページを捲る。

(……知ってる感じがする……?)

『解熱剤の作り方……』

クロードが、古い文字を指で追いながら、聞きなれない言葉を発した。

「お兄様、古語の古語を読めるんですか?」

「博識っすねぇ」

ガイもひょいっと本をのぞき込んで感心する。

「古語よりも古い言葉で書かれているみたいですけど。エルフの書いた本だって言われているらしいですよ」

「エルフ……?」

『エルフ、昔、本当にいた』

クロードの言葉に被せる様に、ラドリが言った。

ガイとマグノリアが顔を見合わせて、揃ってラドリを見る。

「まあ、神鳥も魔法使いもいるんだもんね?」

「エルフがいてもおかしくはないっすよね?」

そういうと、マグノリアは海鮮丼のサーモンを箸で摘み、ガイの前に差し出す。

ガイは手慣れたように指先から炎を出すと、程よく炙って『炙りサーモン』にした。

……天然の(?)ガスバーナーである。

「お嬢位っすよ、こんな雑な使い方させるの」

「え~、使わないと宝の持ち腐れじゃん?」

そう言って、美味しそうに炙りサーモンをひと口で食べた。

『…………?』

コントのようなやり取りの向かい側、クロードはフォーレ校長の本を片手に、空を見つめながら再び何かを呟いた。

キョトンとするガイとマグノリアを尻目に、ラドリが何かを訴えるような瞳で、呟くクロードを見ていた。

脳裏を一瞬掠めた、大切な何か。

いつか解き明かされるのかは、誰にも解らない。