軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

セルヴェスのご友人達

帰領する数日前、セルヴェスの友人達がタウンハウスにやって来た。

以前に比べて付き合いの悪くなったセルヴェスと語らう為に(?)わざわざ来てくれたのだが、実際にはからかいに来たと言っても良いであろう。

息子達に家督を譲った侯爵、伯爵、子爵であるらしい。

表向きは引退したご老人のテイであるので、全員元であるが。

「おう、クロ坊。邪魔するぞ!」

「マグノリア嬢は相変わらず可愛いのぅ」

「ワシが後五十年位若ければ、婿に立候補するんじゃがな」

お約束の様な言葉を吐きながら、どやどやとあがり込んで来る。

身長こそ人並みであるものの、全員鍛え上げられた、年齢にそぐわない体型をしている。

「ふざけるな! 誰がお前なんぞに可愛いマグノリアを渡すか!」

ぶわん。

鬼の様な表情をしたセルヴェスの鉄拳が繰り出され、避け切れずに思いっきりヒットしていたが、大丈夫だろうか。

流石にフルではないものの、尋常ならぬ空を切る音が聞こえていた。その後にやや遅れて、壁が破壊される音が響く。

……一緒に戦地を走り回った戦友達らしいが、みんななかなかの年齢を迎えている。

壁に叩きつけられたご友人を見遣っては、マグノリアが心配そうに瞳を瞬かせた。

「……いつもの事なので大丈夫だ」

「…………。本当に?」

なんでもない事の様にクロードが言うと、ご友人はボロけた壁からふらふらと立ち上がり、首をコキコキ鳴らして歩き出す。

類は友を呼ぶというべきなのか、すこぶる頑丈な爺さんたちである事が伺える。

「相変わらず冗談の解らん奴だなぁ」

「フンッ!」

大人気ないセルヴェスが、盛大な鼻息と共にそっぽを向いた。

……大丈夫なようだが、人型にえぐれた壁の修繕費は折半で良いのだろうか。

いろいろな事を心配していると、騎士とお庭番が壁修復の材料を持参し、いそいそと壁塗りを始めたのだった。

なるほど。頻繁に壊れる家というのは、自分達で修復しているものなのか。

マグノリア以外全員が平然としているのを見て、心配するだけ無駄なようだと察した。気にしたところで仕方がないのだろう。

『妖怪おジジ♪』

小鳥が何か囀ずったが、スルーしておく事にしよう。

だが、概ね同感である事は言うまでもないであろう。

「今日は来ていただいてありがとうございます。ごゆっくりしていって下さいませ」

取り繕った顔で挨拶するマグノリアを、じい様達は自分の孫を見るように愛情の籠った瞳で見つめた。

色々な噂と様々な情報が聞こえて来る、友人自慢の孫娘。

当初の悪い噂のみが先行する時には、セルヴェスが孫を引き取ったらしいと聞いて心配したものだが。

王都に来てはイソイソと領地へ戻って行く様子を見て、どう言葉を掛けたものかと考えあぐねるまま時間ばかりが過ぎた。

状況が解らない為、励ませばいいのか発破を掛ければいいのか迷い、本人が言って来るまではそっとしておいた方が良いだろうということに落ち着いたのだった。

だがその後聞こえて来た噂話は、それまで聞こえて来ていた悪評よりも信じられないものだった。

航海病の予防法を確立し、その商品を製造販売する為の商会を作り。スラム街の人間を雇い入れ、領地の改善点を様々に改革する女の子。

自分の伝手や息子達を使い探らせたが、本当の事らしいと言われ、可愛らしくもない瞳を瞬かせた。

並みの大人顔負けの少女は、絶世の美女だという噂とふた目と見れない酷い顔だという、正反対の噂が流れていた。

その後も話題に事欠かないアゼンダ辺境伯家だったが、ついに先日のデビュタントでその姿を現す時が来た。

用心棒に祖父と叔父を伴い、ドラ息子達避けに多数の騎士と宰相の次男坊まで引き連れて颯爽と現れた少女は、物語のお姫様さながらの見目であった。

その顔は、セルヴェスの母である破天荒なお姫様とほぼ同じ顔であり、なるほど。ジェラルドが、その後はセルヴェスもが、ひた隠しにしていたのも頷ける。

更には幼児体型だったご母堂に比べ、非常にメリハリの利いたスタイルの持ち主であった。危険度が更に増すのは目に見えている。

常識人である筈のクロードが社交をさせないのも頷けた。

危ない。非常に危ないぞ!

……危ないのは周囲の有象無象だけでなく、少女もだった。

一度目は誘拐未遂を。二度目は本当に誘拐されたのだが。

大人しく襲われる様なタマではなく。

とんでもない手甲に守られた手に武器を握っては振り回し、敵地を脱出もすれば木にも登り海を渡り、挙句の果てには爆破するようなお嬢様だったのだ。

破天荒度合いでは若干方向性が違うとはいえ、彼女の曾祖母でありセルヴェスの母であるアゼリアよりも上であろう。

ついでにデビュタントでは、大広間の真ん中で王子相手に論破した挙句、盛大に顔を歪ませて悪態をついていた。

誠にギルモアらしい女の子だ。

女の子にしておくのが勿体無い位であるが、そう言ったら叱られそうなので言わないで置く。

応接室に行けば、テーブル一杯に料理と酒が用意されていた。

にこにこしているマグノリアと、その横でドヤ顔をしているセルヴェスが目に入る。

「ほほう。珍しい料理ですな」

「これは、マホロバ国から取り寄せている『だしの木』という木の皮を使って出汁をとったものです」

「木の皮?」

そういっては次々と、珍しい新・アゼンダ料理(?)を披露してくれた。

「マグノリアは料理が上手いからな!」

「……いや、調理場の皆さんが頑張ってくれてるんですけどねぇ」

聞けば、目新しい料理を作っては最近のアゼンダ料理に革新を齎しているのも彼女だという。

ついでにマホロバ国での色々な土産話を聞いては、笑ったり唸ったりする事になった。

「こりゃあ、嫁ぎ先が大変だなぁ」

優秀過ぎて、なかなか相手が難儀しそうである。

何気なく侯爵がぼやくと、辺境伯家の人間が使用人も合わせて、それぞれに瞳を泳がせた。

クロードだけが、マグノリアの様子を気遣わし気に見ているようであったが……空気を読んだご友人達は、話題を変える事にしたのである。