軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三王子として

クーデターの後処理をするのと同時に、国内の思しきところを探して数日が過ぎた。

無人島の情報を突き止め、船を出して一週間。

遂にアゼンダ海域に入った。

アーネストはクルースにいる商会の船に連絡を取る。

あちらも連絡が来ると解ったのだろう。聡い商人たちは騎士団と辺境伯家の尋常じゃない様子を見て、何かがあったのだろうと察していた。

――理由は解らないが、辺境伯家の人間と騎士団が、商船に武器を積んで出港した。

すぐに戻って来た返事をみて、アーネストは思う。

辺境伯家に確認をするまでも無いであろう。マグノリアが捕まったのだ。

それを齎したのが半分とはいえ自分と血の繋がる異母兄がした事だと思うと、情けなくて申し訳なくて、どうやって詫びれば良いのか解らないというのが正直なところだ。

(……詫びて済む問題じゃない。とにかく、無事でいてくれたらいいが……)

穏やかに揺れる水面を瞳に映していると、アーネストへ呼びかける声がするので顔をあげる。

「殿下、前方にイグニスの商船を捉えました」

「例の商船か?」

今回の海軍を率いる師団長は頷く。

イグニスの商会と偽り、人身売買をする為に動かしている砂漠の国の船。

「はい。聞き込みの結果から、乗組員の殆どが砂漠の国の者達かと思われます」

「多分、既にギルモア騎士団が動いている。ここはアゼンダ海域だ。それに、船中にギルモアの姫が居るかもしれない。確認が取れるまで安易な攻撃は危険だ……攻撃はギルモア騎士団の出方を待ってからにしよう」

「承知いたしました。ではボートと遠泳にて上陸いたしますか?」

「……うん。先にアジトを確認しよう」

砂漠の国の船にみつからない様、島の裏手に回り込むと、小さな巡視船とボートが目に入る。ギルモア騎士団だ。

イグニス海軍の旗を掲げた船に、向こうも様子を窺っている事だろう。アーネストは敢えて船首に立ち、顔を晒した。

少年の頃から商人としてクルースに出入りしている為、騎士団の多くがアーネストの顔を見知っている。今までの交流や信頼関係から、自分達が彼らに仇なす者でない事を解って貰う必要がある。

ユーゴやイーサン、辺境伯家の人間に正体がバレてからこの方、今までは暗黙の了解で王子と知りつつもシャンメリー商会の人間として対応してくれていたが……今後はそれも叶わなくなるだろう。

それを何処か淋しく思いつつも、異母兄を捕らえる事と。

そして何よりもマグノリアを無事辺境伯家に帰す事が重要だと、大きく息を吐いた。

「私はイグニス国第三王子、エルネストゥス・アドルフス・イグニスです」

名乗りを上げると、見張りの為に巡視船に残っていたギルモア騎士団の騎士二人が礼を取った。

師団長がアーネストことエルネストゥス王子の後ろに控える。

「我が国の謀反人を捕らえる為、馳せ参じました。また、ギルモア騎士団が敵に攻撃をする際、我が海軍もサポートさせていただきたく思います」

ギルモアの騎士は顔を見合わせ、頷く。

「ご配慮ありがとうございます。今この島に三組計六名の斥候が潜入しております。多分ですが、我が辺境伯家のマグノリアが、船からこちらに脱出したものと思われます」

脱出……

一般的なご令嬢しか見た事のない師団長は、どうやって脱出したのかと、遠くに見える奴隷船と島を交互に見ては首を傾げる。

アーネストはマグノリアらしいと幾分目元を緩めた。

同時に、怪我はないのかという不安と、無事で良かったという安堵感が複雑に入り交じり、頷く。

「我が国の第二王子が潜入しているものと思われます。先んじて入島の許可を」

「斥候にすぐ戻る様に指示を出します。今しばらくお待ちを」

万一、敵と間違えてアーネスト達を攻撃してしまう事を避けたいのだろう。

小さな花火に火をつけると、三つに火をつけて斥候に知らせる事とした。敵に見つからないようにする為か、光はすぐさま消えた。

待つ間、アーネストとイグニス海軍が加わる事を知らせる為、斥候の帰りを待たずに鴉を放った。

五分と経たずに斥候達が帰って来る。

アーネストと師団長を見て状況を悟ったのだろう、次々と礼を取り控える。

「楽にしてください。差し支えなければ一緒に状況を伺っても?」

あくまで丁寧なアーネストに頭を下げ、次々に報告がなされる。

「お嬢様ですがみつからず。多分敵に見つからない様、洞窟や物陰など通常のご令嬢が隠れる場所ではない所に隠れているものと思われます」

まあ予想通りである。斥候の全員が、マグノリアはなかなか見つけられないだろうと思っている。

「島に大きな罠は見受けられません。これが建物の場所です」

描いた簡易地図を渡し、こちらもすぐさま別の鴉で飛ばされた。

もう間もなく到着するだろうが、情報を渡しておけば、着くまでに騎士の配置や潜入方法などを考える事だろう。

「建物と周辺に罠は無し。室内に複数の人の気配あり。確認は時期尚早と判断し、控えました」

「また、部屋の中に黄緑色の液体が大量に保管されていました」

「黄緑色の液体……?」

斥候達の言葉に、アーネストが考え込む。

この島は人身売買の為の人間の一時保管が主であるが、盗品の保管や麻薬などの精製も行っているという調査結果を得ていたからである。

(……液体の麻薬? もしくは別の薬?)

「どうかされましたか?」

「いえ。多分何かの薬品かとは思うのですが、想定していたものに該当するものがなかったもので」

アーネストの言葉に、斥候達も考え込んだ。

「……新種の薬物ですかね?」

「改良品?」

勿論答えは出ない。

いろいろな可能性が考えられるからだ。

「……念のため解毒薬を幾つか持参しましょう。師団長は間もなくいらっしゃる辺境伯家の指揮下に一時入り、奴隷船の船員の捕縛を。数名は私と一緒に来て、ギルモア騎士団の斥候の方と行動を共に」

「承知いたしました」

そうして。

セルヴェス達に先んじて、アーネストは人身売買のアジトと思われる無人島に一歩、足を踏み入れたのだった。

*******

マグノリアは一時退却の花火を見て、周りを見渡した。

……退却の方向が解れば自らも向かうのであるが、如何せん集合場所が解らない。

(みんなが来たのかな? もしくは敵の動きが何かあったのかな?)

布に包まりながら考える。

幸い残暑と言える時期の為、海水で湿った身体が寒いという事は無い。

ただ闇に紛れない色合いの為、良く解らない状況で姿を晒すのは良くないだろうと思う。

(おーい、ラドリぃ? 状況は解る?)

(……危ないからじっとしていなよ。もうすぐみんな島に着くよ)

ラドリにため息交じりに言われた。

……先程セルヴェスの悶える様子を伝えられて、これ以上の事をするとセルヴェスが憤死しかねないので、マグノリアは大人しくしているのであるが。

余計な事をやらかさないよう、逐一入っているであろう情報を、マグノリアには聞かせない事に決めているようで、聞いてもちっとも教えてくれないのだ。

「人身売買のアジトって事は、建物があるんだよね……?」

マグノリアは小さく独り言ちた。

今も、捕らえられている人はいるのだろうか? 敵の関係者は下っ端だけなのだろうか? 砂漠の国とイグニス。

――イグニスの派閥が分断してるって話だから、現王の反対勢力なのかな……?

王太子である第一王子は、余程過激な人間でない限り基本的に保守派であろう。

父親と軋轢があれば別だが、基本的には王位は自分のものになるのだ。同盟関係を大っぴらに出来ない砂漠の国と何かやらかすのは、デメリットの方が大きい。

アーネストは真っ当が服を着て歩いているタイプだ。

色々拗らせちゃって……なんて事も無くはない立場ではあるが、人身売買をするよりも商会の商人として額に汗をしたい人間だと思う。

――っていうと、第二王子本人か、その派閥の人間が関わってる……?

全く関係ないところが関わってる可能性もあるので、決めつけは良くないが。

物事は意外にシンプルに出来ているものだ。

そして砂漠の国。お金が欲しかっただけ? 何かやらかそうとしている?

「…………」

まあ何にしろ。安全を確保した後は使えない様にしちゃった方が良い訳で。

(ああ、こういう時にこそ、髪飾り爆弾なのに!)

マグノリアは物騒な事を思っては、ため息をついた。